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陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)による東日本大震災の緊急観測結果(27)
2011年3月11日14時46分頃(日本時間、以下同じ)、東北地方の太平洋沖(北緯38.32°、東経142.37°、深さ32km)を震源とする、国内観測史上最大となるマグニチュード9.0の地震が発生しました(地震の規模・位置については米国地質調査所(USGS)による発表を参照)。宮城県栗原市で震度7、岩手県から栃木県にかけての広い範囲で震度6強が観測されるなど、極めて強い揺れが広範囲に渡って観測されました。この地震の影響で発生した津波は、震源に近い東北地方の太平洋側では最大で10メートル以上の高さに達したと見られ、沿岸地域に甚大な被害を与えています。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2011年4月2日9時56分頃に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による現地の緊急観測を実施しました。以下に観測データの解析結果を報告します。この画像では宮城県から千葉県の太平洋沿岸の被災地のうち、特に宮城県、福島県北部の冠水域の時間的変化について表したものです。
図1は今回観測した範囲を示したもので、赤枠がPALSARでの観測位置を示しています。図2は、PALSARカラー合成画像であり、赤に2011年4月2日観測入射角41.5度、緑・青:2011年3月16日観測入射角43.4度を割り当てた疑似カラー画像です。下北半島から千葉県の太平洋岸の変化が見えるように重ね合わせています。
図2の疑似カラー画像に使用された二枚の画像は入射角が異なりますが両者が比較できるように地形補正したものです。図2のうち特に宮城県と福島の沿岸部をそれぞれ図3(a)、図3(b)に拡大します。図4(a)は石巻周辺の拡大図です。津波により真野川流域の大瓜地区、根岸地区、高木地区の水田が冠水し暗くなっていましたが、4月画像ではどの地区ともに明るくなっています。これは水が引いて地表面が出てきたためと考えられます。
図4(b)は東松島周辺の拡大図です。定川流域である大曲地区、赤井地区、小松地区は津波で冠水したため暗くなりました。4月画像において赤井地区、小松地区は水が引いたことに伴い明るくなりました。大曲地区に変化はありません。この要因として堤防の決壊により水が引かないことが考えられます。図4(c)は野蒜周辺の拡大図です。鳴瀬川流域の中下地区、下江戸原地区、丸塚地区及び松島湾沿岸の大塚地区、東名地区、洲崎地区は津波で冠水したため画像が暗くなっていました。4月画像では中下地区、下江戸原地区、丸塚地区、大塚地区が明るくなっています。これは水が引いて地表面が出てきたためと考えられます。洲崎地区は4月画像でも水がほとんど引かず、一部の領域のみ海面上に現れたと考えられます。東名地区は明るくなっていますが、同地区は冠水しているので溜まった流出物等が明るく映っている可能性があります。
図4(d)は相馬市周辺の拡大図です。北向地区、藤崎地区、新沼地区、西新沼地区は津波で冠水したため暗くなっていました。4月画像は北向地区、新沼地区、西新沼地区は水が引いたことにより明るく見えます。また、西新沼地区に見られる縞模様は水が引いたため衛星進行方向に沿った畦道が写ったものと考えられます。それに対し藤崎地区は明るさが変わりません。これは藤崎地区の水が引いていない事が原因と考えられます。図4(e)は松川浦周辺の拡大図です。松川浦湖畔、南飯淵地区、大迎地区は津波で広範囲が冠水したため暗くなっていました。4月画像は松川浦湖畔が明るくなったことが確認できますが、これは水位が下がり堤防が露出したものと考えられます。南飯淵地区は西側の領域は明るくなっていますが、東側の領域はさほど変化が見られません。これは比較的標高が高い内陸より水が引き始めているのに対し、標高が低い東側の領域はまだ冠水したままであると考えられます。大迎地区は広範囲にわたって明るくなっています。これはかなりの面積で水が引いていることが考えられます。
図4(f)は小高周辺の拡大図です。大井地区、福岡地区、井田川地区は津波で冠水したため暗くなっていました。4月画像は大井地区が明るくなっています。これは同地区の水が引いたためと考えられます。それに対し福岡地区、井田川地区は変わりません。これは同地域の水がほとんど引いていないと考えられます。JAXAでは今後も当該地域を継続して観測する予定です。
なお、取得された画像は、内閣府を始めとする防災関係省庁並びに地方自治体等に提供しています。
*1 パルサー (PALSAR):
フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ。衛星から発射した電波の反射を受信するマイクロ波レーダで、夜や曇天時も撮影が可能です。