地球が見える 2015年
「しずく」が捉えた北極海氷の最新状況 再び減少に転じた北極海の海氷面積
今年も北極海の海氷が年間で最も小さくなる時期を迎えています。図1は2012年5月に打上げられた水循環変動観測衛星「しずく」に搭載されている高性能マイクロ波放射計AMSR2が捉えた2014年9月14日の北極域の海氷密接度分布を、図2は北半球の海氷域面積の季節変動を示しています。また、図3は、人工衛星搭載マイクロ波放射計のデータを解析して算出した1978年から現在まで長期間の北半球の海氷面積の推移を示します。
図3から明らかなように、北半球の海氷面積は1970年代後半以降急速な減少傾向にあります。2012年9月には、「しずく」による観測の結果、北極海の海氷面積が衛星観測史上最小を記録したことが明らかとなっています。その後一昨年、昨年には、一旦、歴代6,7位相当の面積にまで回復していましたが、今年は再び減少に転じ、最終的には歴代3位だった2011年(水色線)の面積をわずかに下回る426万km2(2015年9月14日)にまで縮小しました(図2)。一旦回復したように見えた2013-2014年の海氷面積も、図3を見れば、長期的な減少傾向の途上に見られる自然変動の一部とみることができます。依然として北極海の海氷の減少傾向は継続していると言えそうです。
今年の海氷域の分布は、ロシア側、カナダ側ともに融解が進み、図1に示すように、北米大陸、ユーラシア大陸双方の北極海沿岸の海氷が後退し、航路が開通した模様です。現在は北極海内で新しい海氷が生成され始めていることから、上述した9月14日の面積値が今年の最小値となる見込みです。
図4は、毎年の春頃にマイクロ波放射計が観測した輝度温度のカラー合成画像です。画像上、濃い水色の部分が古くて厚い氷(多年氷)を、明るい水色部分が一年氷を表しています。2003年以降、年々多年氷が少なっている様子が分かります。特に2008年は前年(2007年)夏にその当時の北極海氷最小面積を記録したこともあり、大きく縮小している様子が分かります。今年(2015年)の多年氷の分布は2008年並みに小さくなっており、北極点付近まで薄い一年氷で覆われていた様子が見て取れます。
※2000-2015年平均値からの偏差を示す。曇天率[単位:%]は晴天が多いところが赤く、曇天が多いところが青く色づけされている。また、500hPa高度[単位:m]の実線は高気圧側、破線は低気圧側偏差の分布(NCEP/NCAR再解析値を使用)を示す。
図2(あるいは図3)をみると、2015年の海氷最小面積は歴代2位の2007年、3位の2011年と近い値になっていることが分かります。図4は最小面積値が似ている前述の3年間(2007、2011、2015年)の夏期(6-8月の3カ月平均)の北極海上空の曇天率と500hPa等圧面高度の偏差を示しています。今年はアラスカ北部の海域に低気圧偏差が見えてはいるものの、各年に共通する特徴として、北極海全体が高気圧偏差で覆われていることが挙げられます。大気圧が例年よりも高く推移すると晴天になりやすく、北極海に日射が多く降り注ぎ海氷をより多く融かします。また、北極点を中心に時計回りの風が吹くことにより、図4で見たようにカナダ多島海沖に密集している多年氷がより低緯度の暖かい海域に流されることで、融解が促進される効果も出てきます。したがって、図5のような大気場が形成される年には、9月の海氷面積が小さくなる傾向にあると考えられます。
図6 北極域の陸域反射率及び海面輝度温度の合成画像
(2015年8月16-9月15日)
図6は、8月中旬から9月中旬の1ヶ月間(8月16日~9月15日)にかけてNASAの地球観測衛星Terraが搭載する光学センサMODISにより観測された晴天時の陸域・海氷域反射率および海面輝度温度を合成した画像です。冒頭に述べたように、今年はロシア側、カナダ側双方の航路上の海氷融解が進み、船舶が通れる状態になっていた模様です。
以上見てきたように、今年も北極域の気圧配置が、融解時期の海氷分布に影響を及ぼしているようです。9月の融解最小時期を過ぎても、北極海の海氷は、まだ薄く脆い状態がしばらく続きます。JAXAでは、今後も「しずく」による北極海氷の監視を続けていき、「地球が見える」等で最新の状況をご報告する予定です。
なお、北極海の海氷密接度の分布画像および海氷面積値情報は、JAXAの地球環境監視webサイト(JASMES)および極地研究所が開設している北極域データアーカイブweb上の海氷モニターViSHOP上で日々更新を行い、公開しております。
※1 海氷密接度:衛星の瞬時視野内に含まれる海氷域の面積割合(%)
下図のような、衛星搭載のマイクロ波放射計がある時刻に観測した瞬時視野(仮に10km×10km とする)に占める面積の割合が海氷50%、海面50%である場合、その海域の海氷密接度を50%と 定義する。
※2 海氷面積:本稿で用いる海氷面積は、海氷が浮遊する海域の広さとして定義しており、海氷密接度15%以上の海域面積の総和をとったもの(km2)。
観測画像について
図1
観測衛星 | 第一期水循環変動観測衛星しずく(JAXA) |
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観測センサ | 高性能マイクロ波放射計 AMSR2(JAXA) |
観測日時 | 2015年9月14日 |
いずれもAMSR2の6つの周波数帯のうち、36.5 GHz帯の水平・垂直両偏波と18.7 GHz帯の水平・垂直両偏波のデータを元に、アルゴリズム開発共同研究者(PI)であるNASAゴダード宇宙飛行センターの Josefino C. Comiso博士のアルゴリズムを用いて算出された海氷密接度を表しています。データの空間分解能は25 kmです。
図4
観測衛星 | 地球観測衛星Aqua (NASA) |
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観測センサ | 改良型高性能マイクロ波放射計 AMSR-E (JAXA) |
観測日時 | 2002‐2011年 |
観測衛星 | 極軌道軍事気象衛星MSP F15 (USAF) |
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観測センサ | 走査型マイクロ波イメージャ SSM/I (USAF) |
観測日時 | 2012年 |
観測衛星 | 水循環変動観測衛星しずく (JAXA) |
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観測センサ | 高性能マイクロ波放射計2 AMSR2 (JAXA) |
観測日時 | 2003-2012年4月20日 |
いずれもAMSR-E、SSM/IおよびAMSR2の36.5 GHz帯および18.7 GHz帯の垂直偏波の輝度温度データをカラー合成した画像で、データの空間分解能は25kmです。
図5
観測衛星 | 地球観測衛星Terra (NASA) |
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観測センサ | 中分解能スペクトロメータ MODIS (NASA) |
観測日時 | 2007、2011、2015年6-8月 |
MODISの可視-熱赤外域の反射率・輝度温度データから曇天域を特定し、3か月間の曇天日の割合(曇天率)を算出したもの。画像は、2000年以降の曇天率の平均値からの差(偏差)をとったもので、晴天が多いところが赤く、曇天が多いところが青く色づけされています。元の画像の分解能は9 kmです。なお、観測画像に重ねて表示している500hPa高度には、NCEP/NCAR再解析値を使用しています。
図6
観測衛星 | 地球観測衛星Terra (NASA) |
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観測センサ | 中分解能スペクトロメータ MODIS (NASA) |
観測日時 | 2015年8月16-9月15日 |
16日間のMODISデータから晴天域の画像のみを抽出した画像を合成したもので、陸域および海氷域部分はMODISのチャンネル1(波長:620~670nm)、4(波長:545~565nm)、3(波長:459~479 nm)の反射率画像を赤、緑、青の各色に使用したRGB合成画像で、緑色は森林、白色は積雪または海氷、茶色は沙漠を表しています。また、海域(海氷がない)部分は、熱赤外域の輝度温度を低温側が暗青色、高温側が赤系色になるように色付けした画像です。1ヶ月間に一度も晴天域の画像が取得されなかった部分は黒色で示されています。元の画像の分解能は5kmです。
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