地球が見える 2011年
北極海氷の面積 観測史上2位の小ささに(密接度は過去最小)
融解期を迎えた2011年の北極海の海氷面積が、衛星観測史上2位(9月9日の453万 km2)の小ささに縮小し、海氷密接度の大きさでは、2007年を下回り、史上最小を記録していたことが判明しました。また、2011年の春期の海氷状態は、前年に比べて多年氷の割合が減少し、薄い海氷で覆われた状態であったこともAMSR-Eによる観測で明らかとなりました。 1.2011年の海氷面積推移図1 AMSR-Eが捉えた北極域の2011年9月9日の海氷密接度(*1)分布
図2 北半球の海氷面積(*2)の季節変動(2011年9月19日現在)
今年もまた、北極海の海氷域が融解最小時期を迎えました。今年の最小面積は、453万 km2(9月9日観測値)となり、衛星観測史上最小面積を記録した2007年(425万 km2)にせまる2位の小ささにまで縮小しました。2007年に史上最小を記録して以降、最近は、2008年(471万 km2、昨年までの2位)、2009年(525万 km2、昨年までの4位)と2年続けて回復傾向にありましたが、2010年は再び500万 km2を割りこみ、過去3番目に小さい481万km2を記録していました。今年の北極海氷は、2010年の面積からさらに本州と九州を合わせた大きさだけ縮小し、ちょうど2007年と2008年の中間の面積に達したことになります。 図1は、今年の最小面積が記録された2011年9月9日の海氷密接度の分布です。また、図2は一日毎に観測された今年の海氷面積の季節変化の様子(赤線)を示し、同時に1980年代、1990年代、2000年代の平均値及び海氷縮小記録の歴代3位までの年の面積値を別の線で示しています。この図から、北半球の海氷面積は、1980年代より急激に減少しつつあることが分かりますが、今年は冬期(1-2月)及び夏期(6-7月)において過去最小レベルの面積を維持しながら縮小が進行し、特に7月の月平均面積は、衛星観測史上最小を記録しました。 2.春の多年氷が再び縮小傾向に図3 最近9年間(2003-2011年)の4月20日に観測された北極海の海氷分布
なぜ今年は、海氷融解がこんなに進んだのでしょう。一つには、夏を迎える前の海氷状態が、前年に比べて薄い氷で広く覆われていたことが分かっています。図3は、毎年の春頃にAMSR-Eが観測した輝度温度のカラー合成画像です。画像上、濃い水色の部分が古くて厚い氷(多年氷)を、明るい水色部分が若くて薄い氷(1年氷)を表しています。2007年9月に史上最小を記録して迎えた翌春(2008年4月20日)の画像では、北極点を含む広い海域が薄い一年氷で覆われていました(「ますます薄くなってきた北極海の海氷」参照)。 3.融解期の密接度が観測史上最小に
融解が進んだ結果、海氷域の面積では、2011年は2007年に迫る史上2番目の小ささを記録しましたが、海氷密接度の観点でみると違った側面が見えてきます。年間で海氷面積が最小となった日の海氷密接度(北極海全体での平均値)をみると、2011年は衛星観測が始まった1978年以降で最小になっており、2003年以降(2008年を除き)徐々に低下傾向にあったことが分かりました(図4青線)。したがって、近年の北極海では、単に海氷面積が減少しているだけでなく、氷と氷の隙間が開き、海氷自身の弱体化が進行していることが分かります(AMSR-E輝度温度で見る今年の海氷の動き(2011.6.1-9.14):89GHzインデックスの動画)。 4.ロシア側およびカナダ側の両北極海航路が開通図5 人工衛星がとらえた融解最小時期の北極海氷分布
(左:1979年、中央:2007年、右:2011年) 図1からも分かるように、今年は大陸沿岸の海氷が大きく後退したため、カナダ北部の多島海を通る北西航路とロシアのシベリア沿岸を通る北方航路の両方の北極海航路が開通していることも大きな特徴です。図5は、AMSR-Eが捉えた今年の海氷分布の様子を、衛星観測史上最小面積を記録した2007年の分布、そして今から31年前(1979年)にNASAのSMMRによって観測された分布と比較した画像です。2011年は、シベリア沿岸からすっかり海氷がなくなっていることが分かります。また、カナダの多島海でも、今年は島と島の間に広く水路が開いている様子がわかります。 図4で見たように、近年の海氷分布の特徴の一つに、密接度の低い海氷の割合が増えていることがありましたが、2011年の分布を見ると、東シベリア海の北方に密接度の低い海氷域が広がっていることがよく分かります。 以上のように、一昨年(2009年)、一旦回復しかけたようにみえた北極海の海氷でしたが、昨年に引き続き今年も大きな減少傾向を示しました。海氷の弱体化が進行するにつれて、海氷の面積値は、大気場や海洋循環の影響をより受けやすくなると考えられます。JAXAでは、北極海氷減少の詳細なメカニズムの解明に向けて、2008年〜2010年に第3期IARC-JAXA北極圏研究(*3)を実施してきており、今後も2011-2013年に第4期研究として実施していく計画です。 なお、北極海の海氷密接度の分布画像および海氷面積値情報は、JAXAが米国アラスカ州立大学北極圏研究センター(IARC)に設置しているIARC-JAXA情報システム(IJIS)を利用した北極海海氷モニターwebページ上で日々更新を行い、公開しております。
[参考] 現場海域でみた海氷密接度の違いの様子
(*2)海氷面積 (*3)IARC-JAXA研究 (AMSR-Eは、2011年10月4日に観測を停止しました。) 観測画像について
(図1) (図3)
海氷域はSMMR(米国雪氷データセンターより取得)、AMSR-Eの海氷密接度データを、また、陸域については1ヶ月間のMODISデータから晴天域の画像を抽出し合成したものです(1979年のSMMR画像の陸域は2007年のMODIS画像を代用)。MODIS画像の色付けは、MODISの 36 のチャンネルのうち、いずれも可視域のチャンネル1(620 〜 670 nm) に赤、チャンネル2 (841 〜 876 nm) に緑、チャンネル3 (459 〜479 nm) に青を割り当てて合成し、海氷がない海域は紺色になるように合成しています。元の画像の分解能は9 kmです。
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