|
図1 ブータンの氷河湖の鳥瞰図 |
図1は東西およそ2,400 kmに及ぶヒマラヤ山脈の東部に位置するブータン・ヒマラヤの氷河湖を南側の上空から見た様子を示しています。この画像は、2007年6月に地球観測衛星「だいち」が観測した標高データ(一部は他のデータで補完)を用いて、2007年12月に「だいち」が捉えた画像を、鳥瞰図にしたものです。
一番右側(東側)に見えるのはルゲ氷河湖(標高4,500 m)で、その南西端から下流に向かって灰色の筋が延びています。これは1994年10月7日に氷河湖をせき止めていた堆積物の一部が決壊して洪水が発生し、その濁流が流れた跡です。濁流は約90 km下流の古都プナカ(標高1,300 m)にまで達して、橋や水車や家屋を破壊し、家畜のヤクや食用の穀物も流し去り、死者20数名などの被害をもたらしました。杞憂という中国故事がありますが、ここブータンではそれが現実のものとなっています。
右から2番目に見えるのはトルトミ氷河で、舌端の表面に氷河湖ができています。3番目はラフストレン氷河湖で、一番左側(西側)のベチュン氷河の舌端にも氷河湖が見えます。
これらの氷河と氷河湖の背景に見えるのはテーブル・マウンテンで、東西20km、南北15kmにわたる6,000m級の卓状部を持ち、氷原に覆われています。その南面は標高4,000m台の氷河まで一気に切れ落ちていますが、北側はなだらかな氷原が続いています。
ニュース報道によると、2007年12月に大分県別府市で開催された第1回アジア・太平洋水サミットで、ブータン王国のキンザン・ドルジ首相は、ヒマラヤの人々は地球温暖化による氷河湖の決壊による洪水の脅威にさらされていると訴えたとのことです。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は「山岳氷河や氷帽のほとんどが縮小しており、この傾向はおそらく1850 年頃から始まっている。20 世紀末の氷河の消耗は、1970 年以前の温暖化の影響である可能性が高い。」と述べています。氷河の融解は氷河湖の形成と決壊による洪水を引き起こしたり、淡水資源の減少や海面上昇をもたらしたりすると懸念されています。
|
図2 ブータンの氷河湖の変化 |
図2はブータンの氷河湖の様子をルゲ氷河湖の決壊の前(1993.12.27)、後(1994.11.9)と現在(2007.12.26)について示しています。
ルゲ氷河湖は、決壊後に一旦、湖面面積が減りましたが、現在は決壊前よりも大きくなっており、再度決壊する恐れがあります。ラフストレン氷河湖の面積はほとんど変わっていません。ベチュン氷河とトルトミ氷河には、1993年の時点では氷河湖はほとんど見られませんでしたが、翌年には舌端の表面に氷河湖ができて、その後、拡大を続けていることが分かります。
下の表は図2から求めた各氷河湖の湖面面積を示しています。
|
ベチュン |
ラフストレン |
トルトミ |
ルゲ |
1993.12.27の面積(ha) |
1 |
127 |
0 |
118 |
1994.11.9の面積(ha) |
4 |
130 |
41 |
96 |
2007.12.26の面積(ha) |
18 |
126 |
88 |
127 |
図3はブータンの氷河湖の周辺をパンクロマチック立体視センサ(PRISM)が2007年6月に観測した直下視画像と後方視画像による立体視用画像です。この画像では北は右側になっているので、ご注意願います。
赤と青の色メガネを使って見ると、4つの氷河の舌端、あるいは氷河湖が階段状に並んでいる様子や、枝別れした深い谷、谷底を流れ下る川が手に取るように見えます。
図4はブータン・ヒマラヤの東部のムービーと広域画像です。ムービーはあたかも氷河の上空を飛行するかのような連続画像となっています。画像の左にはルゲ氷河湖があり、その北にはテーブル・マウンテンがあります。図の下部にはブータンと中国の国境上にあり、ブータン最高峰であるとともに未踏頂の世界最高峰であるガンカル・プンスム(標高7,570m)があります。図の右上には、中国とブータンの国境の北側の、中国側にあるクーラ・カンリ(7,538m)があり、北面の急傾斜の大岸壁が大きな陰として見えています。その他、白や茶色の氷河や水色やうぐいす色の氷河湖が数多く見えています。
観測画像について:
(図1、図4及び全体画像、図をクリックすると2段階で拡大します)
AVNIR-2は、4つのバンドで地上を観測します。図1の地表面及び全体画像は、いずれも可視域のバンド3 (610〜690ナノメートル)、バンド2 (520〜600ナノメートル)とバンド1 (420〜500ナノメートル)を赤、緑、青に割り当てカラー合成しました。この組合せでは、肉眼で見たのと同じ色合いとなり、雪や雲は白く、氷河は白ないし薄茶色に、露出した岩や土砂は茶色っぽく、枯れ草は焦げ茶色に見えます。黒はデータがないことを示しています。なお、図1、図4及び全体画像では、テーブル・マウンテン付近の輝度の飽和を少なくするため、一部または全体の輝度値をバンド4(760〜890ナノメートル)のデータに置き換えました。
(図2上、図をクリックすると2段階で拡大します)
可視域の610〜690ナノメートル、 近赤外域の720〜800ナノメートル、可視域510〜590 ナノメートルの各バンドに赤、緑、青色を割り当てたので、肉眼で見た色にほぼ近い色付けですが、植生の緑色がやや強調され、雪や氷が紫色がかって見える合成画像です。雪や氷は白または薄紫色に、森林は濃い緑色に、草地は黄緑色に見えます。
(図2中央、図をクリックすると2段階で拡大します)
可視域の630〜690ナノメートル、近赤外域の760〜860ナノメートル、可視域の520〜600ナノメートルの各バンドに赤、緑、青色を割り当てたので、上記のMOS-1b画像とほぼ同じ色合いに見えています。
(図2下、図をクリックすると2段階で拡大します)
AVNIR-2の4つのバンドのうち、可視域のバンド3 (610〜690ナノメートル)、近赤外域のバンド4 (760〜890ナノメートル)、可視域のバンド2 (520〜600ナノメートル)を赤、緑、青に割り当てカラー合成したので、上記のMOS-1b画像、JERS-1画像とほぼ同じ色合いに見えています。
(図3、図をクリックすると2段階で拡大します)
PRISMは地表を550〜720nm (ナノメートル:10億分の1メートル)の可視域1バンドで観測する光学センサで、3組の光学系(望遠鏡)を持ち、衛星の進行方向に対して前方、直下、後方の3方向の画像を同時に取得します。得られる画像は白黒画像です。 図3は後方視の画像(赤)と直下視の画像(緑と青)を用いています。左目で衛星の後方を、右目で衛星の直下を見るので、左側が衛星の進行方向になり、左側が南の方向に対応します。図2では上側が北になっていますが、図3では右側がほぼ北になっているので、注意しましょう。 |
|