地球が見える 2009年
天使が舞い降りた島、モン・サン・ミシェル
この湾奥部の干潟の中に、フランスの観光地として名高いモン・サン・ミシェルがあります。パリから西へ約300 km離れたところに位置する、この図では緑色の点としてしか見分けられないほどの小さな島(直径500 m)です。モン・サン・ミシェルとはフランス語で「聖ミカエルの山」の意味で、大天使ミカエルが舞い降りた奇跡の島と言い伝えられています。 フランスは日本の約1.5倍の国土を有するEU(欧州連合)最大の農業国です。大陸を見ると草地と思しき緑色の地に畑が金箔を散らしたように延々と広がり、農業大国の一端は画像からも窺えます。しかし、ブルターニュ地方の湾岸だけは他と様相が異なり農地が白く輝いて見えています。ここはサン・マロ湾の干潟を埋め立てた干拓地です。干拓による大規模な農地化は19世紀に盛んに行われました。
19世紀になって大陸と島をつなぐ堤防ができたことで、危険な干潟を歩いてわたる必要もなくなりましたが、この土堤によって潮の流れが変わり、流砂が島の周囲に年々堆積したことにより、海水に囲まれる孤島という神秘的なイメージは薄れました。 さらに干潟の一部はすでに草原と化し、広大な緑の草地が島の間近まで迫っています。草地に隣接する白や緑、茶に彩られた美しい幾何学模様の農地はかつて干潟だったところです。今日では地平にそびえる修道院を背景にして、羊の群れがのんびり草を食む牧歌的な風景を見ることができます。
島と陸をつなぐ土堤の両側を見ると、観光バスや自動車が列をなしています。画像から有名な観光地としての賑わいが確かに伝わってきます。島の右下手に見える密集した建物群は、観光客相手のホテル・レストラン・土産物屋などが集まるグランド・リュ、いわゆる表参道の仲見世にあたる地区です。 モン・サン・ミシェルは今日年間300万人もの観光客が訪れるフランス第一の観光地です。1979年に「モン・サン・ミシェルとその湾」としてユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録され、1994年にはラムサール条約登録地となりました。近年の世界的な環境意識の高まりを受けて、2006年には島の周囲に堆積した砂を排除するための大規模土木プロジェクトが立ち上がりました。クエノン川の河口に堰を設け、陸つづきの土堤に代わって橋を架け、かつての潮の流れを取り戻そうという壮大な計画です。2012年の竣工の暁には、孤島としての神秘的な佇まいを取り戻すことでしょう。
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