地球が見える 2004年
南大西洋で初めて観測されたハリケーン
気象衛星による観測が始まった1960年中頃から一度も熱帯低気圧が観測されなかった南大西洋で、ハリケーンが発生しました。この極めてまれなハリケーンを熱帯降雨観測衛星(TRMM)とAqua衛星が観測しました。このハリケーンは3月25日ブラジルの東海上で発生した後、発達しながら西進し、ブラジルのサンタカタリーナ州に上陸しました。死者2名、壊れた家屋500棟の被害が出ています。 図1はTRMM衛星に搭載されている降雨レーダ(PR)(*1)で観測した地表面付近の降水量を可視赤外放射装置(VIRS)で観測した雲画像に重ねたものです。赤い地域ほど雨が強いことを示しており、ハリケーンの目にあたる地域では雨が降っていないことがわかります。図2はPRによる降雨の立体画像と図1の線ABで切った断面の降水量です。これにより、降雨の一番上の高さは8kmとあまり高くないものの、目の外側には強い降水域(赤・黄・緑の部分)があることがわかります。また、図3はAqua衛星に搭載されているAMSR-Eが観測した大気中に含まれる水蒸気の量です。大気中の水蒸気の多い場所は、強い雨が降りやすい場所でもあります。図3では、赤や黄色で示される水蒸気を多く含んだ大気がハリケーン付近にらせん状に集まっている様子がわかります(*2)。このような目の外側の強い降水域や水蒸気を多く含んだ大気は、典型的な熱帯低気圧の構造であると言えます。
南大西洋では、通常海面水温が低く、大気の下層と上層の風速の差が非常に大きいため、ハリケーンが発生しにくいとされてきました(*3 )が、今回もその条件はあまり変わりません。このハリケーンは、元は温帯低気圧として発生したものが、形を変えて熱帯低気圧として発達したもののようです。これを純粋なハリケーンとして良いのかどうか、専門家の間でも議論の的となっています。 (*1)降雨レーダ(PR)は、電波を発射してはね返ってきた電波の強さから雨量を測定する装置で、地表付近だけでなく上空の雨量も観測することができます。地上に設置されている気象レーダの原理をもとに、情報通信研究機構(NICT)(旧通信総合研究所(CRL))及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)(旧宇宙開発事業団(NASDA))により世界で初めて衛星搭載用に開発されました。 (*2) 図3でハリケーン中心付近の灰色の部分は、強い降水域のためAMSR-Eが水蒸気量を観測できない範囲です。 (*3) ハリケーンが発生しやすい条件として、赤道付近を除く海洋上で、海面水温が27℃以上であることや、南北方向で大気の気温の差が小さいこと、大気の下層と上層の風速の差が小さいことなどが挙げられています。このような条件を満たすのは、南大西洋やペルー沖の南太平洋を除いた低緯度の海域です。
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