AMSR搭載衛星カタログ:
GCOM-W (AMSR2搭載)
AMSRと衛星のことを知る -- 高性能マイクロ波放射計
AMSRシリーズ
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    [開発中]
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    GCOM-W (AMSR2搭載)
    [運用中]
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    ADEOS-II (AMSR搭載)
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水循環変動観測衛星 しずく
GCOM-W (AMSR2搭載)

ミッション

「しずく」の形状や搭載パーツ

GCOMは、宇宙から地球の環境変動を長期間に渡って、グローバルに観測することを目的とした人工衛星プロジェクトで、地球環境変動観測ミッション(Global Change Observation Mission)の英語略です。 このミッションの中で、水循環に関わる観測を「しずく」が担います。

地球上の「水」は、太陽からのエネルギーが再分配される過程で重要な役割を果たしているので、水の動きを詳しく調べることは、気候変動の予測精度を向上させるために不可欠です。 「しずく」に搭載されている高性能な観測装置(AMSR2)は、直径約2mの大きなアンテナで、約700kmの高度から海面水温・海上風速大気中の水蒸気などから放射される微弱な電波をキャッチすることができます。 この微弱な電波を解析することで得られる、様々な情報を使って、異常気象などをもたらす気候変動の解明を目指します。

  • 海面水温

    海面水温

  • 積雪

    積雪

  • 土壌水分

    土壌水分

  • 降水量

    降水量

  • 雲水量

    雲水量

  • 海上風速

    海上風速

GCOM-Wとは

GCOM-Wは、気候や水循環の変動メカニズムを解明するために必要となる観測データを全球規模での長期継続して観測するシステムの構築とその利用実証を行います。具体的には、地球温暖化の兆候がいち早く、最も顕著に現れるとされる海氷・氷床・積雪などの雪氷圏変動、エルニーニョに代表される大気・海洋相互作用に伴う海面水温・降水量・水蒸気量などの変動、及びこれらの変動を理解する上で不可欠な大気・海洋・陸面間の水・エネルギー交換の定量的把握のため海上風や土壌水分などの物理量を観測し、その利用実証を行うことを目的としています。

GCOM-Wの目的と観測対象
地球温暖化と地球環境変動

地球温暖化と地球環境変動: 気象災害の事例

主な気象災害分布 2005年
主な気象災害分布図 (2005年)
出典:気象庁 気候変動監視レポート 2005年
主な気象災害分布 2006年
主な気象災害分布図 (2006年)
出典:気象庁 気候変動監視レポート 2006年

近年、大型台風や集中豪雨等に伴う水害が多発しています。その一方で、異常少雨や熱波による被害も世界各地で報告されています。 これらの気象災害は、IPCCの第4次評価報告書(AR4)において、近年の人為起源温室効果ガス濃度の増加による地球温暖化との因果関係が指摘されています。 温室効果ガス濃度は今後も増加傾向が続くと予想されています。気象災害の発生動向を見極め、適応対策を考えていく上でも、将来を正確に予測していく必要があります。


温暖化に伴う水循環変化の例

温暖化に伴う水循環変化の例:降水量

2090-2099年の降水量の変化割合(1980-1999年平均との比較)
2090-2099年の降水量の変化割合
(1980-1999年平均との比較)
出典:環境省 IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書 概要 (公式版) 2007年5月22日
高緯度の地域では、かなり高い可能性で年間平均降水量の増加が見込まれる。
東アフリカ、中央アジア、赤道近くの太平洋においても、同様に増加が見込まれる。
多くの亜熱帯の地域では、年間平均降水量が減少(最大で現在より20%減)する可能性が高い。
最大の減少が予測されているのは、地中海やカリブ海、各大陸の亜熱帯気候地域の西海岸。

衛星観測の必要性

衛星観測の必要性

高層気象観測
高層気象観測
衛星観測 (マイクロ波放射計)
衛星観測 (マイクロ波放射計)

例えば、気温、気圧、風向・風速、湿度、降水量などの気象要素は、現在そして未来の気象・気候変化や水文循環を知るうえで欠くべからざる観測項目です。 これらの項目を、地上に設置された気象測器、ラジオゾンデ、そして海上ブイ・船舶等、気象要素を直接計測できる測器のみに頼って観測しようとしても、観測頻度の少なさや観測領域が限定されるため、全球規模の分布の様子は伺い知ることはできません。特に、気象観測が手薄な外洋上や人口の少ない内陸部・極域においては、ほとんどデータ取得を期待できないのです。 このような気象観測の空白域を含め、全地球の気象・水文データを高頻度・高時間分解能で取得するためには、人工衛星による遠隔観測が最も適しているのです



GCOM-Wミッションが目指すもの
GCOM-Wミッションが目指すもの

GCOM-Wミッションが目指すもの

GCOM-Wミッションが目指すもの

地球システム変動の原動力となる地球表層の水循環の長期・継続的な定量観測による監視・解明を行い、さらに気象・気候の数値モデル(全球モデル、陸面モデル、雲解像モデル等)への同化やこれらの検証によって、地球温暖化に伴う水循環変動の精密な予測に貢献します。


GCOM-Wによる水循環変動観測

GCOM-Wによる水循環変動観測

GCOM-Wによる水循環観測
地球表層の水循環
地球は、様々な姿の水を豊富に有する稀有な「水の惑星」。
気体・液体・固体の相変化によるエネルギー交換を伴い地球表層を循環し、気象変化から気候変動に至る地球システム変動の原動力となります。
温暖化による水循環への影響の予測
地球温暖化に伴う海氷や積雪域減少などの雪氷圏変動。
降水域・積雪環境の変化による水資源、ひいては食料資源への影響。
熱波・大雨等の極端気象現象の頻発、台風の大型・強大化。
人間生活への直接的な影響。
GCOM-Wによる水循環変動観測
全球水循環変動の長期・継続的な定量観測による監視・解明を行います。
気象・気候の改良型数値モデル(陸面モデル、雲解像モデル等)への同化や検証により、地球温暖化に伴う水循環変動の精密な予測に貢献します。

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  • 衛星の仕様

水循環変動観測衛星 しずく
GCOM-W (AMSR2搭載)

衛星の仕様

GCOM-W 「しずく」の仕様
項目 仕様
重量 1991 kg (最大)
発生電力 3,880 W 以上
衛星形状 2翼太陽電池パドルを有する
5.1m (X) × 17.5m (Y) × 3.4m (Z) (軌道上展開形状)
設計寿命 5年
軌道 種類 太陽同期準回帰軌道
高度 高度 699 km (赤道上)
傾斜角 98.186 度
周期 98.8 分
回帰日数 16日
周回数 233 回帰/周回
赤道通過時刻
昇交軌道 13時30分 ±15分
,
降交軌道 1時30分 ±15分
,
(地方太陽時)
打上げ日 2012年 5月 18日
打上げロケット H-IIA ロケット 21号機
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高性能マイクロ波放射計2 (AMSR2)

AMSR2の概要

AMSR2

「しずく」に搭載される高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)は、地表や海面、大気などから自然に放射されるマイクロ波とよばれる電磁波を観測するセンサです。 自然に放射されるマイクロ波の強度は、当然のことながら人間の目には見えませんし、感じることもできません。また、放送や通信に使われる電波に比べれば無視できるほど弱い電磁波です。 AMSR2はこのような微弱なマイクロ波を700kmも離れた所で受信し、そのマイクロ波の強さを非常に高い精度で測定することができます。 例えば、AMSR2で海面から放射されるマイクロ波の強度を測定することにより、0.5℃の精度で海面水温を知ることができるのです。


わずか2日間で地球上の99%の場所を観測 観測範囲がスゴイ!

地上からのマイクロ波を受信するAMSR2のアンテナ部分は、1.5秒間に1回転のペースで地表面を円弧状に走査し、1回の走査で約1450kmもの幅を観測します。 この走査方法によって、AMSR2はわずか2日間で地球上の99%以上の場所を昼夜1回ずつ観測することができます。


1.5秒に1回転、1日24時間、5年以上の無休 スピーディーかつ超ハードな仕事ぶりがスゴイ!

アンテナの直径は衛星搭載用の観測センサとしては世界最大の約2m、回転部分は高さが約2.7mで、重さは約250kgもあります。 AMSR2は、このような大きくて重いアンテナ部分を、1.5秒間に1回転という速さで、1日24時間、5年以上も休まずに回転し続けることができます。


AMSR2を知る

AMSR2は、GCOM-W衛星に搭載される高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)です。AMSR2は、ADEOS-2衛星搭載の高性能マイクロ波放射計(AMSR)およびAqua衛星搭載の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)の後継であり、地球表面および大気から放射される微弱なマイクロ波帯の電波を多周波・多偏波で測定し、主に水に関する様々な地球物理量を推定するセンサです。

AMSR2は、AMSR/AMSR-Eによる、高空間分解能、かつ、低周波チャネルを含む多周波・多偏波での全球観測の継続することで、気候変化の理解・監視・予測に貢献する、信頼性が高く長期的なデータセット(海氷密接度、海面水温、海上風速、水蒸気量、降水量、および海洋フラックスを含む)を作成します。

AMSR2の観測波長

AMSR2の観測波長

AMSR2の観測波長
海域の物理量について、輝度温度の周波数変化に対する相対的な感度を示した図 (最大値にて平滑化)
[計算条件]
  1. 海面水温や海上風速の値は、大気の影響を無視
  2. 水蒸気量や積算雲水量の値は、それら自身のみを考慮 (例; 酸素の吸収は考慮せず)
  3. 入射角は55度
大気の観測

大気の観測: 降水量, 水蒸気量, 雲水量

大気中に含まれる水は、地球全体の水のわずか0.001%程度にしかすぎません。しかし、これらは水蒸気、雲、雨、雪など様々な形で存在し、潜熱の吸収・放出を通じて活発な大気現象の原動力となっています。水蒸気は大規模な水循環の担い手であるとともに、地球上で最大の温室効果を持つ気体であり、現在の気温を決める上で重要な役割を果たしています。雲は太陽放射を反射する一方で地球からの赤外放射をよく吸収するため、その白さや高さによって冷却と温室効果の両方を持ち合わせています。降水は地球表面へ水を還元する役割を持ち、水収支の算定に不可欠であるとともに、潜熱放出による大気へのエネルギー供給源としても重要です。AMSR2は水蒸気量、雲水量、降水量などの全球観測を行い、これらの現象の定量化に貢献します。

月平均値分布(左)と降水量の月積算値分布(右)
AMSRによる2003年4月の水蒸気量の月平均値分布(左)と降水量の月積算値分布(右)

気候変動による降水現象の変動は、水資源や風水害の面で直接的に人間活動に影響を与えるため、実用面でも不可欠な情報となっています。また、マイクロ波帯で観測される輝度温度は、これらの大気物理量に良好な感度を有しているため、すでに気象数値予報モデルに同化され、日々の天気予報に用いられています。

可視光(GLI、左)とマイクロ波(AMSR、右)でみた2003年台風14号
可視光(GLI, 左)とマイクロ波(AMSR, 右)でみた2003年台風14号
海洋の観測

海洋の観測: 海面水温, 海上風速

海洋の観測は、船舶やブイによる限られた観測を除けば、衛星に頼るしかありません。衛星によって、広い範囲での海面水温の分布をいち早く知ることができるのです。

衛星による海面水温の観測は、静止気象衛星やAVHRRのような光学センサによるものが、歴史も長く、主流ですが、光学センサには、海面の上空に雲があるとその下の水温を測ることができないという欠点がありました。AMSR2やAMSR-Eのようなマイクロ波放射計は、空間分解能は光学センサに劣るものの、雲があってもその下の海面の水温を測ることが可能であるという大きな利点を持っています。

衛星は海の表層部分しか観測することができませんが、大気と海洋は海の表層を通じて相互作用し、変動しています。これらの変動は、ときには、エルニーニョのように、熱帯太平洋全体の水温場が変化し、大気循環場を変え、さらには遠く離れた地域で異常気象を引き起こすこともあります。

スペイン語で「男の子(神の子)」すなわちキリストを意味するエルニーニョは、本来はペルー沖に南から暖かい海流が入り込んでくるローカルな現象を指す言葉でした。現在では、もっと広い熱帯太平洋全域にわたる、大気・海洋変動を示す言葉となりました。赤道に沿って吹く貿易風(東風)が弱まることで、ペルー沿岸での冷たい水の湧昇が弱まり、普段は温度の低い中・東部赤道太平洋で海面水温が平年よりも上昇します(図中段・下段)。このため、強い対流が起こる場所が変わって、大気の循環場を大きく変え、世界中で異常気象が起こります。他方、「女の子」を意味するラニーニャはエルニーニョとは反対の現象で、赤道の東風が強まって、中・東部赤道太平洋の海面水温が平年よりも下がるため、大気循環場にも影響を与えます。エルニーニョほどではありませんが、ラニーニャも異常気象を起こすことで知られています。

AMSR2は、大気側から見た境界条件である海面水温(海洋の熱源)と、海洋側から見た境界条件である海上風速(大気の運動の強さ)を、AMSR2は観測します。

AMSR-Eによる2009年11月27日~12月1日のエルニーニョ時期の熱帯太平洋・インド洋の海面水温分布(上段)と平年からの偏差(中段)、及び、エルニーニョ監視区域(上中段の黒枠内)の海面水温変動(下段)。
AMSR-Eによる2009年11月27日~12月1日のエルニーニョ時期の熱帯太平洋・インド洋の海面水温分布(上段)と平年からの偏差(中段)、及び、エルニーニョ監視区域(上中段の黒枠内)の海面水温変動(下段)。
陸面の観測

陸面の観測: 土壌水分量, 積雪深

陸域における水循環は時間的にも空間的にも変動性が大きく、その結果、洪水や渇水のように人間社会に大きな被害を与えています。水循環システムを理解し予測精度を向上させるためには、水循環の個々の構成要素を水量と熱のフローの観点から定量的に、しかも、時間・空間的に連続的に把握することが不可欠です。AMSR2では、土壌水分や積雪のモニタリングを通じて水循環システムの理解と予測精度の向上に貢献します。

AMSR-Eによる全球土壌水分量分布 (2003年7月, 月平均体積含水率)
AMSR-Eによる全球土壌水分量分布 (2003年7月, 月平均体積含水率)
AMSR-EによるAMSR-Eによる北半球積雪深分布(2003年1月、月平均値)
AMSR-Eによる北半球積雪深分布 (2003年1月, 月平均値)
海氷の観測

海氷の観測: 海氷密接度

北極の海をおおう海氷は、2007年9月に過去に例のない速度で減少を続け、観測史上最小面積の記録を更新しました。また、カナダ北部のいくつもの島が浮かぶ多島海の海氷まで消失してしまい、太平洋−大西洋を結ぶ北極海の航路が長く開きました。その後2008年、2009年は、2007年と比較し9月の海氷面積は広がってきました。海氷は、温度上昇の影響を受けやすいと考えられ、継続的に観測していくことが重要です。

左: 2007年9月24日の海氷密接度, 右: 2003年9月24日の海氷密接度
左: 2007年9月24日の海氷密接度、右: 2003年9月24日の海氷密接度
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高性能マイクロ波放射計2 (AMSR2)

AMSR2の仕様

「AMSR2」の仕様
直径2mの展開型主反射鏡 (AMSR-Eでは1.6m).
AMSR-Eと同一の周波数チャンネルセットに7.3GHz(電波干渉軽減)を追加
改良型高温校正源による2点外部校正と、主反射鏡と低温校正用反射鏡との整合性を確認する深宇宙校正
信頼性向上のための冗長系モーメンタム・ホイールを追加
AMSR2 主要諸元
項目 仕様
スキャンレート コニカル走査方式 (40 rpm)
アンテナ オフセットパラボナ (2.0 m φ)
観測幅
公称 1450 km
,
実効 1620 km
*1
量子化ビット数 12 bits
ダイナミックレンジ 2.7 〜 340 K
偏波 垂直偏波 (V) および 水平偏波 (H)
  1. 性能保証範囲は走査角 ±61° (1450 km) の範囲。プロダクトには、走査角 ±75° (1620 km) のデータが格納されている。
AMSR2チャンネル一覧
中心周波数 バンド幅 偏波 温度分解能 ビーム幅 瞬時視野 サンプリング間隔 入射角
6.925 GHz 350 MHz V, H 0.34 K 1.8° 35 x 62 km 10 km 55.0°
7.3 GHz 350 MHz 0.43 K 1.8° 34 x 58 km
10.65 GHz 100 MHz 0.7 K 1.2° 24 x 42 km
18.7 GHz 200 MHz 0.7 K 0.65° 14 x 22 km
23.8 GHz 400 MHz 0.6 K 0.75° 15 x 26 km
36.5 GHz 1000 MHz 0.7 K 0.35° 7 x 12 km
89.0 GHz - A系 3000 MHz 1.2 K 0.15° 3 x 5 km 5 km 55.0°
89.0 GHz - B系 3000 MHz 1.2 K 0.15° 3 x 5 km 54.5°
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  • 参考資料

参考資料

ハンドブック, フォーマット説明書

地球環境衛星データ提供システム(G-Portal)のツール・ドキュメントの「共通」の項目をご覧ください。

アルゴリズム記述書

AMSR2 アルゴリズム記述書 (B版)