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地球が見える 2010年

南米、パタゴニアの巨大氷河が大きく後退(その3)

ホルヘ・モン氷河の後退
ホルヘ・モン氷河の後退
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図1 ホルヘ・モン氷河の後退

 図1は南パタゴニア氷原から流れ出てベーカー水道に注ぐホルヘ・モン氷河を示しています。左は1986年に米国のランドサット5号が観測した画像で、右は2007年に日本の陸域観測技術衛星「だいち」が捉えた画像です。 左右の画像を比べると、氷河の末端がこの21年間に8.5〜10.6 kmも後退し、水面が奥深くまで進行したことが分かります。
また、支流も含めて、氷河全体が痩せ細り、下側の矢印のところの氷河の幅は4.5 kmから1.5 kmに大きく減ったことが見て取れます。右側の図では、痩せた氷河の下流の両側に灰色の部分がありますが、かつて氷河に覆われていたものの、氷河が後退して、岩肌が露出し、まだ植生に覆われていない状態であると考えられます。

南パタゴニア氷原北部の広域図
南パタゴニア氷原北部の広域図
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図2 南パタゴニア氷原北部の広域図
(Google Earthで見る南パタゴニア氷原北部(kmz形式、565 KB高解像度版))

 図2は2006年9月と2007年3月にだいちが観測したデータを貼り合わせて作成した南パタゴニア氷原北部の広域図です。南パタゴニア氷原は南米のチリとアルゼンチンにまたがり、東西90 km、南北500 kmにわたって広がっており、ここでは白ないし薄紫色に見えています。この氷原からは数多くの氷河が流れ出ていて、図1のホルヘ・モン氷河は、南パタゴニア氷原の最北端に位置しています。そこから時計回りに見ていくと、東側にはオイギンス氷河とビエドマ氷河が、西部にはピオ11世氷河、グレーブ氷河、オクシデンタル氷河、ベルナルド氷河が、それぞれ見えています。
このうち、ビエドマ氷河はアルゼンチンの氷河国立公園に属しますが、他の氷河はチリのベルナルド・オイギンス国立公園に属しています。この国立公園は南パタゴニア氷原の大半とその西側の多島海、フィヨルド地帯を含み、面積は日本の面積の1/10近くの35,000 km2以上に及びます。また、南東側はアルゼンチンの氷河国立公園とチリのパイネ国立公園と接しています。
上記の氷河のうち、多くの氷河は後退しています(図1、図3及び図5参照)が、ピオ11世氷河だけは例外的に前進しています(図4参照)。

氷河の末端が前進したり後退したりする消長は、地球温暖化の指標の一つとなっています。しかし、パタゴニアの氷河を長く研究してきた成瀬廉二博士によると、パタゴニアの大氷河の末端部分はすべてフィヨルド(海水)または湖(真水)に流れ出ているので、何らかの原因で氷河末端の氷の崩壊が続いたり、大氷塊が割れて氷山が形成されると、その氷河は後退したと観測されるため、このような氷河の変動は気候変動とは直接は関係がない、と考えられるとのことです。

オイギンス氷河の後退
オイギンス氷河の後退
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図3 オイギンス氷河の後退

 図3は南パタゴニア氷原東部に位置し、オイギンス湖に注ぐオイギンス氷河を示しています。氷河の末端が1986年から2007年までの21年間で最大1.2 km後退したことが分かります。また、1986年の画像では氷河末端の南側に焦げ茶色に見えていた領域が、2007年の画像では水面に取って代わられたことが分かります。これについて考えると、1986年の茶色の領域はモレーン(氷河表面の堆積物)に覆われていた支氷河が伸びていたものの、2007年には水面に代わってしまったと考えるのが妥当に思われるので、そうすると、その支氷河の末端が約2.5 km後退したことを示しています。オイギンス氷河の上流でも氷河が痩せ細った場所が見られます(矢印参照)。
氷河末端の周辺や氷河湖の周囲には図1と同様に、露出した岩肌と思われる灰色の領域が見えています。

ピオ11世氷河の前進
ピオ11世氷河の前進
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図4 ピオ11世氷河の前進

 図4は南パタゴニア氷原西部に位置するピオ11世氷河を示しています。この氷河は下流の部分が金槌の頭のような独特の形をしており、北側の末端はグレーブ湖に、南側の末端はエイレ・フィヨルドに注いでいて、両末端は約15 kmも離れています。この氷河は他の多くの氷河と異なり、この21年間に前進した例外的な存在です。詳しく調べてみると、北側の末端は約440 m、南側の末端は約920 m、中流域の支氷河の末端は約360 mそれぞれ前進したことが分かります。
支氷河の末端の先や、中流域のところ(赤い矢印を参照)で、1986年に雪氷を示す薄紫色だったのに2007年には水面を示す濃い紫色に変わった領域がいくつか見えます。しかし、これらは氷河の後退などのような年々変動を示すものではなく、氷河湖の表面が凍っているかどうかという季節変動を表わしているにすぎないものと考えられます。
なお、この氷河はローマ教皇ピオ11世(在位1922〜1939年)にちなんで名づけられました。

ベルナルド氷河、テンパノ氷河、オクシデンタル氷河及びグレーブ氷河の後退
ベルナルド氷河、テンパノ氷河、オクシデンタル氷河及びグレーブ氷河の後退
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図5 ベルナルド氷河、テンパノ氷河、オクシデンタル氷河及びグレーブ氷河の後退

 図5は南パタゴニア氷原西部に位置するベルナルド氷河、テンパノ氷河、オクシデンタル氷河及びグレーブ氷河を示しています。ベルナルド氷河の末端は1986年から2007年までの21年間で約4.5 kmも後退したことが分かります。さらにオクシデンタル氷河の末端は1986年から2006年までの20年間で約1.1 km後退し、末端の形が崩れたこと、テンパノ氷河の末端は3.9 kmも、グレーブ氷河の末端は約5.5 kmも後退したことが分かります。
2006/2007年の画像では、ベルナルド氷河の北側の二つの矢印のところに氷河湖が見えています。1986年の画像の同じ場所を見ると、氷河や、氷河の先端がくずれてできた氷山に覆われていたように見えるので、この20〜21年間で、この場所にあった氷河は後退したものと考えられます。



監修:NPO法人 氷河・雪氷圏環境研究舎(成瀬廉二代表)

観測画像について


(図1の右側、図2、図3〜5の右側。図をクリックすると2段階で拡大します)
観測衛星: 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: 高性能可視近赤外放射計2 型(AVNIR-2)
観測日時: 2007年3月15日23時46分頃(日本標準時) (図2の主要部、図1、図3及び図4の右側、図5の右側の右半分)
2006年9月29日23時47分頃(日本標準時) (図2の左上、図5の右側の左半分)
地上分解能: 10 m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)

 AVNIR-2は、4つのバンドで地上を観測します。各図ではいずれも近赤外域のバンド4 (760〜890ナノメートル)、可視域のバンド3 (610〜690ナノメートル)、可視域のバンド2 (520〜600ナノメートル)の各バンドに緑、赤、青色を割り当ててカラー合成したので、植生は鮮やかな緑色に、雲や雪、氷は白、ピンクまたは薄い紫色に、露出した岩肌は濃い茶色に、水面は黒ないし濃い紫色に見えます。黒はデータのないところです。

より広い範囲を表現するため、図1、図3、図4では地上分解能を20 mに、図2では48 mに、図5では40 mにそれぞれ間引いています。

(図1の左側、図2、図3〜6の左側。図をクリックすると2段階で拡大します)
観測衛星: ランドサット5号(米国)
観測センサ: セマティック・マッパー(TM)
観測日時: 1986年10月4日(日本標準時)
地上分解能: 30 m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)

 ここでは米国メリーランド大学のGlobal Land Cover Facility (GLCF) Earth Science Data Interfaceのサイトから無料でダウンロードしたデータを用いました。
各図では、近赤外域のバンド4 (760〜900ナノメートル)、可視域のバンド3 (630〜690ナノメートル)、可視域のバンド2 (520〜600ナノメートル)の各バンドに緑、赤、青色を割り当ててカラー合成したので、植生は鮮やかな緑色に、雲や雪、氷は白またはピンクに、露出した岩肌は濃い茶色に、水面は黒ないし濃い紫色に見えます。黒はデータのないところです。より広い範囲を表現するため、図5の分解能は40 mに間引いています。 図1、図3、図4では、だいちの画像に合わせて見かけ上の分解能を20 mに変更しています。

本文ここまで。
画像:人工衛星の情報を掲載 サテライトナビゲーター
画像:衛星利用の情報を発信 衛星利用推進サイト
画像:衛星から見た地球のデータ集
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