地球が見える 2005年
パキスタンの大雨
2月初めからパキスタン各地で強い雨や雪が断続的に降り続き、深刻な水災害が多発しましたが、熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載された降雨レーダ(PR)がパキスタン南西部と北部の豪雨の様子を捉えました。図1は、降雨レーダが2月10日午前2時頃(地方時)に観測したパキスタン南西部の豪雨の様子です。 降雨レーダの観測幅は約245 kmですが、南北約230 km、東西約300 kmに及ぶ強い雨域(図1上の赤い部分)があることが分かります。またこの降雨の鉛直断面(図2)を見ると、赤色で示した強い降雨域が高い高度まで延びていることがわかります。このときの降雨の一部の高さは地上13 kmに達し、南側で局所的に非常に発達した雲(積乱雲)が強い降雨をもたらしていたことが分かります。 同日夜、この強い雨域の南に位置するパスニ近郊では、雪解け水と大雨によって貯水を支えきれなくなったダムが決壊し、死者・行方不明者500名以上という深刻な被害がもたらされました。さらに同州では数日後、3つのダムが決壊し、大きな被害が発生しました。またパキスタン北西辺境州やカシミール地方では数十年ぶりとなる記録的な大雪によって家屋倒壊や雪崩などの甚大な被害が発生しました。
図3は、2月8日深夜にTRMMが観測したパキスタンの首都イスラマバード近郊に降る降水です。この地域は三大山脈(ヒマラヤ山脈、カラコルム山脈、ヒンドゥークシ山脈)の接合点のすぐ南にあたり、発達した降水がしばしば観測される地域です。鉛直断面を見ると、地上6 kmほどの高さまで発達した降水が見られる地域もありますが、低い高度で広域にわたって降っていることが分かります。2月18日に発表されたパキスタン内閣府の調べでは、この大雨・大雪によって544名の人命が失われました。さらに22日には、インド最北部のジャム・カシミール地方で雪崩が発生し、252名の犠牲者が出ました。一連の大雪・大雨の被害は、イラン、アフガニスタン、パキスタン、インドに渡る大規模なものとなりました。
図5はGLIが2003年4〜5月に捉えたパキスタン、アフガニスタンを含む広域画像です。図1と図3の場所が四角い枠で示されています。図1の場所は中央マクラーン山脈などの岩肌が露出していて乾燥地帯であることが分かります。一方、図3の場所は豊かな植生に覆われていることが分かります。川の流量やダムの貯水量の変動を把握するために、人が入るのが難しい上流の山岳域で降る雨を観測することは重要な課題とされています。降雨レーダにより図1に示すように、そのような山間で強く発達する雨も観測できるようになりました。また、地形の影響を受けて発達する降水システムのメカニズムを解明し、様々な地域の降水量の正確な把握を行うために、衛星観測データが活用されています。 TRMMは、NASA, NICT及びJAXAの共同プロジェクトです。
関連サイト: アジア南西部の大規模な褶曲構造 |