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2008年9月3日掲載


  南米、パタゴニアの巨大氷河が大きく後退(その2)

 
図1 ペリト・モレノ氷河の終端崩落の前後
 ニュース報道によると、南米、パタゴニアのペリト・モレノ氷河のアーチ状になった高さ60mの終端が2008年7月9日、真冬にもかかわらず大崩落したとのことですが、図1の左右の画像はその前後に陸域観測技術衛星「だいち」搭載のPALSARが観測した画像です。
 矢印のところを見ると、左の画像では氷河の終端からマガジャネス半島に至る明るい橋のようなものが見えますが、右側の画像ではこの明るい部分はなく、代わりに幅約60 mの黒い隙間が氷河の終端とマガジャネス半島との間に見えています。左右の画像を見比べると、ここがアーチ状になった氷河の終端が崩落したところで、大崩落後にリコ湖とテンパネス水道との間に水路が開けたことが分かります。
 一方、上流側のリコ湖の湖面面積を比べると、右側の崩落後の方が面積が小さいことがわかります。これは、上記の水路を通って、せき止められていたリコ湖の水がテンパネス水道へ流れ、水位が下がったことを意味します。
 ペリト・モレノ氷河の終端はマガジャネス半島に達することで、上流側のリコ湖の水をせき止め、その結果、下流側のテンパネス水道との水位の差が次第に大きくなって、氷河の終端の下側の水の流れが速くなって、氷河の終端の下部に穴を開け、その穴がだんだん大きくなってアーチ状に残された部分が時々崩れ落ちるということを繰り返してきました。このような大崩落は数年毎に夏の終り頃に起きますが、南半球の冬の間に大崩落が起きるのは非常に珍しいとのことです。

図2 ペリト・モレノ氷河
 図2はペリト・モレノ氷河の画像です。左側は1986年1月の様子で、右側は2008年3月の様子です。氷河の中央部の幅は5km、長さは32km以上に及び、淡い筋が見えています。
 右上の矢印が示すペリト・モレノ氷河の終端は左右いずれの画像でも対岸のマガジャネス半島に達しており、その位置は約22年間ほとんど変化せず、後退は見られません。なお、左上の矢印の所では小さな氷河が約2km後退し、一番下の矢印の所では氷河湖が2倍以上に大きくなったことが分かります。左右の画像で黄色の矢印は同じ位置に描かれています。
 アルヘンティーノ湖に注ぐペリト・モレノ氷河はアルゼンチン側の世界自然遺産、氷河(ロス・グラシアレス)国立公園の中にあり、轟音とともに氷河の終端が崩落することで有名です。その位置関係については「南米、パタゴニアの巨大氷河が大きく後退」の図2を参照願います。

図3 ペリト・モレノ氷河の終端の立体視用画像
(目が疲れないように、あまり長い時間、見ないでください。カラー印刷してから見る場合は、pdfファイルをご利用下さい。左目用pdfファイル右目用pdfファイルも用意しました。)
 図3は2008年3月に「だいち」が捉えたペリト・モレノ氷河の終端の様子です。拡大して、赤青の色眼鏡をつけて見ると、氷河の終端が断崖絶壁になっていることがよく分かります。終端の近くの水面には、崩落した氷河の一部からできた氷山や崩落の痕跡の輪が見えています。図の左側のリコ湖の水面と右側のテンパネス水道の水面を見比べると、リコ湖の方が水位が高いことが分かります。図の下部のマガジャネス半島の先端には展望台が見えます。

図4 グレイ氷河の後退
 グレイ氷河と下記のティンダル氷河はチリ側のパイネ国立公園の中にあります。
 図4はグレイ湖に注ぐグレイ氷河の1986年1月の様子と2008年3月の様子を示しています。氷河の下流部の幅は5.3km、長さは40km以上に及び、淡い筋が見えています。やはり、左右の画像で黄色の矢印は同じ位置に描かれており、左側の矢印の所では約22年間に2.3km氷河の終端が後退したことが分かります。これは、平均して1年間におよそ100mずつ後退したことを意味します。1986年には終端が二股に分かれてカニのはさみのように見えていましたが、2008年には三ツ股に分かれてカメノテのように見えています。

図5 グレイ氷河の終端の立体視用画像
(目が疲れないように、あまり長い時間、見ないでください。カラー印刷してから見る場合は、pdfファイルをご利用下さい。左目用pdfファイル右目用pdfファイルも用意しました。)
 図5はグレイ氷河の末端の様子を2008年3月に「だいち」が捉えた画像です。氷河の表面には多くの深いしわが刻み込まれて、無数の針山の集合のようになっていることが分かります。

図6 ティンダル氷河の後退
 図6はティンダル湖に注ぐティンダル氷河の1986年1月の様子と2008年3月の様子を示しています。氷河の中流部の幅は9.6km、長さは42km以上に及び、淡い筋が見えています。左右の画像で黄色の矢印は同じ位置に描かれており、下の矢印の所では約22年間に1.6km氷河の終端が後退したことが分かります。これは、平均して1年間に70mずつ後退したことを意味します。真ん中右の矢印のところでは、氷河の幅が約22年間で4.2kmから2.2kmに狭まったことが分かります。上の矢印のところでも幅が狭くなり、ティンダル氷河全体がやせ細ったことが分かります。



参考文献:
*北大パタゴニア計画委員会編、氷河と岩と森の国、北海道大学図書刊行会、1974

参照サイト:
赤青メガネの作り方について(「榛名山を立体視」付録参照)

観測画像について:


(図1、図をクリックすると2段階で拡大します)
観測衛星: 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)
観測日時: 2008年6月28日04時27分頃(世界標準時)(図1左側)
2008年7月15日04時29分頃(世界標準時)(図1右側)
観測周波数: 1,275 MHz (Lバンド)
観測偏波: HV
地上分解能: 12.5m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)
 図1の左右の画像はいずれも、PALSARから送信された電波が地表面で反射されて再びPALSARに戻ってくる電波の強さを表しています。このため、電波がほとんど戻ってこない水面や電波の照射方向と並行に近い斜面は黒く、電波をよく反射する氷河や電波の照射方向と垂直に近い斜面が明るく見えています。この時期は南半球の冬に当たり、高緯度地域では日差しが弱くなるので、昼夜の別、雲のあるなしにかかわらず地表を観測することのできる合成開口レーダが威力を発揮します。なお、PALSARはJERS-1衛星に搭載された合成開口レーダ(SAR)の機能・性能を向上させたセンサです。

(図2, 4, 6の左側、図をクリックすると2段階で拡大します)
観測衛星: ランドサット5号 (米国)
観測センサ: セマティック・マッパー(TM)
観測日時: 1986年1月14日(世界標準時)
地上分解能: 30m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)
 ここでは米国メリーランド大学のGlobal Land Cover Facility (GLCF) Earth Science Data Interfaceのサイトから無料でダウンロードしたデータを用いました。可視域のバンド3(630〜690ナノメートル)、可視域のバンド2(520〜600ナノメートル)、可視域のバンド1(450〜520ナノメートル)の各バンドに赤、緑、青色を割り当ててカラー合成したので、肉眼で見たのと同様に、雪や氷は白または薄紫色に、露出した岩肌は焦げ茶色に、水面は青または灰色に見えます。

(図2, 4, 6の右側、図2の左側、図3及び図5、図をクリックすると2段階で拡大します)
観測衛星: 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: パンクロマチック立体視センサ(PRISM)
観測日時: 2008年3月29日14時40分頃(世界標準時)
地上分解能: 2.5m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)
 PRISMは地表を550〜720nm (ナノメートル:10億分の1メートル)の可視域1バンドで観測する光学センサであり、3組の光学系(望遠鏡)を持ち、衛星の進行方向に対して前方、直下、後方の3方向の画像を同時に取得します。得られる画像は白黒画像です。
 図2, 4の右側、図2の左側では直下視の画像を、図6の右側では後方視の画像をそれぞれ用いています。図3では直下視の画像(赤)と前方視の画像(緑と青)を、図5では後方視の画像(赤)と直下視の画像(緑と青)を用いています。左目で衛星の直下を、右目で衛星の前方を(または左目で衛星の後方を、右目で衛星の直下を)見るので、左側が衛星の進行方向になり、左側が南の方向に対応します。図3及び5以外の図では上側が北になっていますが、図3及び5では右側が北になっているので、注意しましょう。


関連サイト:
ALOS 解析研究ページ
南米、パタゴニアの巨大氷河が大きく後退
ブータン・ヒマラヤの氷河湖
エヴェレスト周辺でも融ける氷河(その2)
地球が見える 陸地・地形
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