地球が見える 2013年
気候変動と炭素循環 〜温室効果を緩和する植物〜
大気中の二酸化炭素は地球温暖化に影響が最も大きい温室効果ガスです。私たちの生活や生産活動に伴う化石燃料の消費、森林破壊などの土地利用の変化により、大気中の二酸化炭素濃度は、産業革命以前の1750年の約280ppmから増加し続けています(参照1)。日本の大気中の二酸化炭素濃度は、気象庁の国内観測地点(岩手県大船渡市綾里、東京都小笠原村南鳥島、沖縄県八重山郡与那国島の国内3地点)で継続的に観測されています。なかでも、綾里の観測地点では、2012年3月と4月の月平均値が、それぞれ401.2ppm、402.2ppmとなり、1987年の観測開始以降初めて400ppmを超える値を記録しました(参照2)。 地球規模の気候変動に対して、二酸化炭素など炭素の循環がどの様なプロセスで変化するのかを予測するには、大気、海洋、陸域の三つの領域に及ぶ全球の炭素循環の仕組みを理解し、モデル化するためのプロセスの解明が前提となります。衛星観測は、地上観測と共に重要な現状を把握し情報化するツールとなります。温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による大気中の温室効果ガス濃度、大気・海洋間の二酸化炭素フラックス(吸収・排出)、生態系による光合成・呼吸などの二酸化炭素の固定に関係する観測データを、国立環境研究所が解析し、得られた二酸化炭素の吸収・排出量推定値データと、このデータをもとに計算した全球の二酸化炭素濃度分布データを、それぞれレベル4A/4B プロダクト(バージョン02.01)として、2012 年12 月5 日に一般公開しました(参照3、4)。これは大気中の二酸化炭素濃度の観測値と大気輸送モデルによる広域評価を行ったもので、上空の大気から大気層の底にある地表面の状態を推定することからトップダウンのアプローチと言われます。その反対の地上での観測や衛星による地上観測データとモデルを統合し、広域の炭素収支を評価するのがボトムアップのアプローチですが、両者の比較、検証により、陸や海の炭素収支推定値の不確実性を狭め、高精度化しています。
図1 植物プランクトン量(クロロフィルa濃度)月平均画像(2012年8月)
地表面の炭素収支に重要な役割を果たしている生態系としては、海洋生態系と陸域生態系の二つの領域があります。海洋の植物プランクトンの濃度分布(図1)は、海洋一次生産量の推定に必要なデータとなります。一般に外洋は低く、沿岸は高い傾向が見られます。沿岸は陸上からの懸濁物質流入や大気中の黄砂などの風送ダスト、雲、エアロゾルの影響もあり、日本ではADEOS衛星搭載の海色海温走査放射計(OCTS)、ADEOS-II衛星搭載のグローバル・イメージャ(GLI)の観測データによる研究成果1)(参照5)の上に、誤差要因の補正法を改善し観測精度向上を進めつつあります。さらに、次期衛星のデータ処理解析技術をMODISデータに適用し、データの定常利用に向けて準備中です。 陸上の生態系には森林生態系の他にも草地生態系、湿地生態系、農業生態系などがあります。炭素循環プロセスとしては、植物個体の成長の直接計測から、光合成によって二酸化炭素を吸収して植物体内に炭素を固定する生態系としての炭素固定量(純一次生産量、Net Primary Production (NPP))の推定が行われています。純一次生産量は1年間の固定量を集計することが多く、植物の総光合成量(総一次生産量、Gross Primary Production (GPP))から呼吸量(Respiration (R))を差し引いた差(NPP=GPP-R)になります(参照6, 参照7)。 これまでに植生毎の純一次生産量の概要が把握され、実際の植生分布には不明確な部分もありましたが、衛星観測により、全球分布を同一センサで整合性のある純一次生産量の全球分布図を生成することが可能になりました。しかし急激な気候変動が発生する今日では、年々の純一次生産量の変動も大きく、精密な推定法を開発し検証する必要があります。このため、気候変動の影響を評価できるように、炭素循環プロセスに基づくモデルを構築し、純一次生産量の全球分布図を生成するため、衛星データで分類・解析された植生タイプや光環境などに基づくプロセス・モデルのパラメータを設定することにより、精度向上が重要な課題となっています。
植生分布(正規化植生指数、図2上図)は、南アメリカ大陸アマゾン川流域の世界最大の熱帯雨林をはじめ、中央アフリカ、東南アジアの熱帯雨林では、図下のカラー・バーで示された正規化植生指数(INDEX)がほぼ最高レベル1.0の濃い緑に達し、植生の活性度、分布密度が高く、二酸化炭素の吸収源としての炭素固定量の大きさを示しています。植生分布の2012年8月の値の平年値からの偏差(図2下図)では、赤色(0.2)は平年値より高く、青色(-0.2)は低いことを示しています。この図からアメリカ合衆国中央部が青色になり、平年に比べて植生の活性度や分布密度の低下している状況が見られ、2012年夏の干ばつの影響によるものと推測されます。 図3 全球の光合成有効放射量分布図(2012年8月平均値)
2012年8月の光合成有効放射量(図3)は、アマゾン川流域北側はやや弱く、南側が強く、雲の分布によるものと見られます。
2012年8月の地表面温度(図4上図)から、アフリカ北部のサハラ砂漠、アラビア半島、イラン高原、中央アジアにかけての広域にわたり高温部が見られますが、アメリカ合衆国西部から中央部にかけてやや高い温度分布が見られます。 参考文献1) Teruyuki Nakajima, Hiroshi Murakami, Masahiro Hori, Takashi Y. Nakajima, Hirokazu Yamamoto, Joji Ishizaka, Ryutaro Tateishi, Teruo Aoki, Tamio Takamura, Makoto Kuji, Nguyen Dinh Duong, Akiko Ono, Satoru Fukuda and Kanako Muramatsu: Overview and Science Highlights of the ADEOS-II/GLI Project, Journal of The Remote Sensing Society of Japan, Vol.29, No. 1, pp. 11-28, 2009. 参照サイト観測画像について
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