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地球が見える 2007年

サハラ沙漠、ケビラ・クレータの謎

図1 エジプト・リビア国境周辺
人工衛星から地球を見ると地上からでは気がつかないような大きな地形が見つかることがあります。隕石が衝突してできたクレータ(衝突クレータ)はその代表的なものの一つです。ボストン大学のある研究者達は、最近、エジプトとリビアの国境の沙漠地帯の衛星画像を調査中に未知の大きな円形の地形があることに気づきました。図1は2004年11月2日に本ホームページの「地球が見える、サハラ沙漠の円形農場と衝突クレータ」で紹介した「C 領域」の画像です。画像の右上にこの円形地形が捉えられています。かなりはっきりとした地形なのですが、これまで誰も気づかなかったようです。

図2 ケビラ・クレータと名付けられた地形
(Google Earthで見るケビラ・クレータ (kmz形式、4.36MB、低解像度版))
(全体画像)
図2はこの地形を2007年7月に「だいち」が撮影したものです。風化が進んでいるので見分けるのが難しいですが、黒褐色の中央部山塊を取り巻くようにやや白っぽいリング状の砂地が見え、その周りを部分的に外輪山(赤線部分)が取り囲んでいます。外輪山はワジ(枯れ川)や風による侵食で一部分しか残っていませんが、全体として円形をしていることが分かります。中央部山塊もおおむねリング状をしています。この様な同心円状の二重円形地形は隕石の衝突でできたクレータに良く見られる構造で、月や火星などにも似たようなものが多数見つかっています。
外輪山の直径は約31km あり、これまでサハラ沙漠では最大のオアシス(Oasis)・クレータ(直径18km、同じく図1の中に見えています)の約2倍、有名な米国アリゾナ州にあるバリンジャー・クレータの25倍もあります。このようなことから、ボストン大学の研究者達はこの地形が新発見の隕石クレータの可能性が高いと考え、ケビラ・クレータと命名し、2006年3月3日に発表しました。ケビラとはアラビア語で「大きい」という意味です。発表当時はニュースとなり多くの関連記事を見つけることができました。これが衝突クレータだとすると、衝突した天体(隕石または彗星)は直径約1.2 km、爆発のエネルギーは10万メガトン以上の核爆発に相当し、数百キロ四方が破壊されたと考えられます。この衝突事件があった時期ははっきりとはわかりませんが周囲の地質などから数千万年前*1であろうと考えられています。
実は、ボストン大学の研究者達はリビア沙漠のガラス(Libyan Desert Glass:LDG)と呼ばれる謎のガラス塊の原因となった未発見の衝突クレータがあるのではないかと考え、衛星画像で探していたのです。LDG とはエジプト西部からリビアにかけた一帯で1932 年以来数多く見つかっている不思議な黄緑色のガラス塊(大きいものはフットボールサイズ) で、その起源が長年謎となっていました。有名なツタンカーメン王の墓から見つかった胸飾りにもLDG で作られたスカラベ(scarab、古代エジプト人がお守りなどに用いたコガネムシの像)が付いています。LDG は二酸化珪素(SiO2)の非結晶ガラスで、純度が98%もあって1,700 ℃以上でないと融けません。サハラ沙漠の石英を含んだ砂が高熱で融かされ、ゆっくりと冷え固まると、このようなものが出来上がります。
また、LDG には元素のイリジウム*2が含まれていることが分かっています。イリジウムは地上では非常にまれな元素ですが隕石や彗星には多く含まれています。従って、LDG は隕石衝突によって発生した高熱で沙漠の砂が溶け、それに隕石に含まれていたイリジウムが混ざって出来たのだろうと考えられていました。しかし、このあたりにそれらしき衝突クレータが見つかっていないことから謎となっていました。今回の発見はこの謎を解くことになるかもしれません。

ところで、この発見と同じころ(2006年3月)、ドイツの地質学者の一行がこの地帯を探検しています。彼らが見たものは、南方のギルフ・ケビル高原地域と同じく石炭紀(3億4,500万〜2億8,000万年前)に形成された堆積砂岩で出来た風化したテーブルマウンテン(台形上の山々)でした。中央山塊も風化が進んで分断されていますが、水平の地層がはっきりしていました。隕石の衝突があれば地層は破壊され、かき混ぜられてしまうと考えられます。ドイツの地質学者が言うように、円形をしているのは風雨による侵食で出来たもので単なる偶然だったのでしょうか。

また、ギルフ・ケビル高原地域には衝突クレータのように見える円形構造が沢山ありますが、この地域の地質調査をしたイタリアの天文学者達もこの地域の地形は熱水作用*3によって出来たものであろうと考えています。

はたしてケビラ・クレータは衝突クレータなのでしょうか。かえって謎は深まっているように見えます。結論を出すためには徹底的な現地調査と学際的研究が必要となるでしょう。



*1 放射性同位体元素による年代測定でLDG が出来たのは約2,800万年前と分かっています。
*2 6,500万年前の恐竜の大絶滅を引き起こしたのは直径約10kmの巨大隕石がメキシコのユカタン半島に衝突したのが原因であろうと言われています。その時できた衝突クレータは現在チクシュルーブ・クレータ(直径約180km)として知られています。世界中に分布している白亜紀とそれに続く第三紀の地層の境界(K-T 境界層)にイリジウム(白金族元素の一つで銀白色の金属)が多く含まれていることから隕石衝突説がアメリカのアルバレス親子により発表され(1980年)、有力な説になりました。
*3 海水などが地中に浸透し、マグマや火成岩の熱で暖められ、接触した岩石と反応をおこすこと。

観測画像について:


(図1、図をクリックすると二段階で拡大します)
観測衛星: 環境観測技術衛星「みどりⅡ」(ADEOS-II)
観測センサ: グローバルイメージャ(GLI)
観測日時: 2003年5月10日
GLI の250m 分解能の観測波長帯のうち、中間赤外域の2,210 ナノメートル(チャンネル29)、近赤外域の825 ナノメートル(チャンネル23)、可視域の545 ナノメートル(チャンネル21)のデータにそれぞれ赤、緑、青色を割り当ててカラー合成した画像です。雲は白ないし水色に、土壌は茶色っぽく、植生は緑色に、水面は黒くそれぞれ表現されています。

(図2、図をクリックすると二段階で拡大します)
観測衛星: 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)
観測センサ: 高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)
観測日時: 2007年7月28日09時06分頃(世界標準時)
地上分解能: 10m
地図投影法: UTM(ユニバーサル横メルカトール)
AVNIR-2は、衛星進行方向に直交する方向に観測領域を変更するポインティング機能を持っていて、4 つのバンドで地上を観測します。このうち、バンド4(760〜890ナノメートル)、バンド2(520〜600ナノメートル)とバンド1(420〜500ナノメートル)を赤、緑、青色に割り当てカラー合成した画像です。沙漠は薄茶色、岩石は濃紺や濃い茶色で表現されています。

関連サイト:
ALOS 解析研究ページ
北欧の衝突クレータ
サハラ沙漠の円形農場と衝突クレータ
地球が見える 陸地・地形
本文ここまで。
画像:人工衛星の情報を掲載 サテライトナビゲーター
画像:衛星利用の情報を発信 衛星利用推進サイト
画像:衛星から見た地球のデータ集
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