地球が見える 2007年
サハラ沙漠、ケビラ・クレータの謎
外輪山の直径は約31km あり、これまでサハラ沙漠では最大のオアシス(Oasis)・クレータ(直径18km、同じく図1の中に見えています)の約2倍、有名な米国アリゾナ州にあるバリンジャー・クレータの25倍もあります。このようなことから、ボストン大学の研究者達はこの地形が新発見の隕石クレータの可能性が高いと考え、ケビラ・クレータと命名し、2006年3月3日に発表しました。ケビラとはアラビア語で「大きい」という意味です。発表当時はニュースとなり多くの関連記事を見つけることができました。これが衝突クレータだとすると、衝突した天体(隕石または彗星)は直径約1.2 km、爆発のエネルギーは10万メガトン以上の核爆発に相当し、数百キロ四方が破壊されたと考えられます。この衝突事件があった時期ははっきりとはわかりませんが周囲の地質などから数千万年前*1であろうと考えられています。 実は、ボストン大学の研究者達はリビア沙漠のガラス(Libyan Desert Glass:LDG)と呼ばれる謎のガラス塊の原因となった未発見の衝突クレータがあるのではないかと考え、衛星画像で探していたのです。LDG とはエジプト西部からリビアにかけた一帯で1932 年以来数多く見つかっている不思議な黄緑色のガラス塊(大きいものはフットボールサイズ) で、その起源が長年謎となっていました。有名なツタンカーメン王の墓から見つかった胸飾りにもLDG で作られたスカラベ(scarab、古代エジプト人がお守りなどに用いたコガネムシの像)が付いています。LDG は二酸化珪素(SiO2)の非結晶ガラスで、純度が98%もあって1,700 ℃以上でないと融けません。サハラ沙漠の石英を含んだ砂が高熱で融かされ、ゆっくりと冷え固まると、このようなものが出来上がります。 また、LDG には元素のイリジウム*2が含まれていることが分かっています。イリジウムは地上では非常にまれな元素ですが隕石や彗星には多く含まれています。従って、LDG は隕石衝突によって発生した高熱で沙漠の砂が溶け、それに隕石に含まれていたイリジウムが混ざって出来たのだろうと考えられていました。しかし、このあたりにそれらしき衝突クレータが見つかっていないことから謎となっていました。今回の発見はこの謎を解くことになるかもしれません。 ところで、この発見と同じころ(2006年3月)、ドイツの地質学者の一行がこの地帯を探検しています。彼らが見たものは、南方のギルフ・ケビル高原地域と同じく石炭紀(3億4,500万〜2億8,000万年前)に形成された堆積砂岩で出来た風化したテーブルマウンテン(台形上の山々)でした。中央山塊も風化が進んで分断されていますが、水平の地層がはっきりしていました。隕石の衝突があれば地層は破壊され、かき混ぜられてしまうと考えられます。ドイツの地質学者が言うように、円形をしているのは風雨による侵食で出来たもので単なる偶然だったのでしょうか。 また、ギルフ・ケビル高原地域には衝突クレータのように見える円形構造が沢山ありますが、この地域の地質調査をしたイタリアの天文学者達もこの地域の地形は熱水作用*3によって出来たものであろうと考えています。 はたしてケビラ・クレータは衝突クレータなのでしょうか。かえって謎は深まっているように見えます。結論を出すためには徹底的な現地調査と学際的研究が必要となるでしょう。
|