地球が見える 2005年
8,000m峰と氷河群:ヒマラヤ、シシャパンマ
図はAVNIRが捉えたヒマラヤ山脈のシシャパンマ(希夏邦馬峰)(別名:ゴサインタン)とランタン山群を含む地域です。白く見えるのは、雪に覆われた山岳地帯で、急峻な山々は頂上や尾根の左上に自らの陰を伴っています。これは、観測時刻が現地時間の昼前なので、右下の方から太陽光が当たっているためです。図の下側はネパール、上側は中国・チベットで、国境線が東西方向に複雑に走っています。図右のチベット側に標高8,012 mのシシャパンマが見えています。これに次いで、ランタン・リ(標高7,239 m)、ガン・ペンチェン(標高7,211 m)、ランタン・リルン(標高7,245 m)などの7,000 m級の山々も見えています。図中央のネパール側のランタン渓谷の奥の方にはいくつかの氷河が見えており、チベット側ではシシャパンマ周辺から北西の方向にも大きな氷河が多数並んでいるのが見えます。チベット側の氷河のいくつかはその下流に緑青や薄いエメラルドグリーンに見える氷河湖を伴っています。 氷河の消長は地球温暖化の指標の一つと言われていますが、ヒマラヤ、チベットなどの比較的低緯度で、標高の高いところでは地球温暖化の影響を受け易いという報告があります。氷河が後退・縮小すると氷河湖が決壊して下流域に洪水をもたらしたり、ひいては海面上昇につながるので、注意深く観測を続ける必要があります。 図の左下の谷の所や下側の標高が低いところ(標高約1,500 m以下)では、地表が少し霞んで見えています。これは図下(範囲外)にあるカトマンドゥ盆地の大気汚染の影響と思われます。一方、山岳部やチベットの高原(標高3,000 m以上)では大気が薄いので、大気の影響が少なく、くっきりと見えています。
関連サイト: カトマンズの谷 [ネパール] 付録: ヒマラヤ山脈の形成: ヒマラヤ山脈とチベット高原はインド亜大陸を載せたインド・プレートが北上を続けてユーラシア・プレートに衝突し、テチス海の海底であった地殻が両プレートに挟まれて押し曲げられたり、インド・プレートがユーラシア・プレートの下に潜り込むことによって、およそ4,000万年前以降に形成されました。このため、ヒマラヤ山中では、大規模な褶曲構造や、三葉虫、ウミユリ、アンモナイトなど海の生物の化石が見られ、岩塩が採れます。また、それに先立つおよそ2,500万年前までにテチス海が閉じられました。現在の黒海、カスピ海及びアラル海はこのテチス海の名残です。インド・プレートは現在でも年におよそ1 cmの速度で北上し続けており、ヒマラヤ山脈は年に2 mmの速度で隆起を続けています。このため、ヒマラヤ山脈とチベット高原は地震の多い地域となっています。 気候に与える影響: ヒマラヤ山脈はインド亜大陸とチベット高原だけでなく東南アジア、東アジアの気候にも大きな影響を与えています。ヒマラヤ山脈は冷たく乾燥した北風を遮るので、南アジアでは他の大陸よりもずっと暑くなっています。また、南からの湿った季節風も遮るため、インド北部やネパールに多くの雨を降らせる一方、タクラマカン沙漠やゴビ沙漠のような乾燥地帯を作り出しました。 また、ヒマラヤ山脈は北緯28〜35°前後に位置するので、中緯度において常時吹いている西寄りの風、偏西風の流れに大きな影響を与えます。偏西風の吹く位置は季節によって変動し、冬期にはヒマラヤ山脈の西部にぶつかるので、その南側のカシミール地方に雪を、さらにその南のパンジャブ地方には雨をもたらします。(「パキスタンの大雨」を参照願います。) さらに、冬の間、ヒマラヤ山脈の南側を通っていた偏西風は、春から夏にかけてその位置を徐々に北上させようとしますが、ヒマラヤ山脈やチベット高原があるために、一気にヒマラヤ山脈の北側を通るように切り替わらないため、長期間同じ場所で降雨が発達するようになります。この時、日本では、梅雨の時期に当たります。 |