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地球が見える 2018年

グリーンランド氷床上での「しきさい」検証観測

「地球が見える」では、普段、JAXAの地球観測衛星により観測された地球環境の最新状況を紹介していますが、今回は、2017年12月に打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」の観測物理量を日本から遠く離れたグリーンランドの氷床上で検証する観測活動についてご紹介します。

人工衛星による観測は、実際にその場へ行くことなく自然現象を把握することができる大きなメリットがあります。しかし、このような観測データは、実際に現地に出向いて行われる現場検証観測の裏付けなしには安心して使うことができません。「地球が見える」でも度々紹介している気候変動観測衛星「しきさい」も例外ではなく、2017年末の打ち上げ以降、ハードウェアの性能試験と並行して、衛星観測データと現場検証観測データとの比較を通じて、科学的な裏付けのある物理量(プロダクトと呼んでいます)としてデータを公開する準備を行っています。今回は、その活動の中から、「しきさい」の観測ターゲットの一つである雪氷圏の現場検証観測活動について紹介します。

「雪氷圏」とは読んで字の如く、雪や氷の世界のことを指します。雪や氷は土壌や海面と比較して白く、光の反射率(アルベドと呼びます)が高いため、太陽光を効率的に反射し地球を冷やす冷源の役割を担っています。そのため、積雪の分布やその変化は気候変動を理解する上で重要な情報になります。また、雪や氷の変化の兆候は、その分布や被覆面積だけでなく、表面温度や積雪粒径という形でいち早く捉えることができます。特に、積雪粒径は気温の変化に敏感であるだけでなく、それ自体の変化が地球表面のアルベドを変動させることが知られています。「しきさい」の観測では、積雪の分布・雪氷面温度・積雪粒径を特に重要なプロダクトと位置づけています。

宇宙から見えている地球と、現場で見る地球がきちんと整合しているのかを検証するため、JAXAの地球観測研究センター(EORC)と岡山大学(代表研究者:青木輝夫教授)との共同研究で立ち上げた「しきさい雪氷検証チーム」の3名(北海道大学低温科学研究所 的場澄人助教、気象研究所気候研究部 庭野匡思主任研究官、JAXA/EORC 島田利元研究開発員)は、2018年6月下旬、雪と氷に覆われたグリーンランドに向かいました。

「しきさい」搭載SGLIセンサが2018年7月13日に観測したグリーンランド氷床のカラー合成画像(R:G:B=VN08:VN06:VN03)。Aはカンゲルススアーク空港、BはEast GRIPサイト、CはRussel氷河サイトの位置をそれぞれ示している(詳細は本文参照)。

図1 「しきさい」搭載SGLIセンサが2018年7月13日に観測したグリーンランド氷床のカラー合成画像(R:G:B=VN08:VN06:VN03)。Aはカンゲルススアーク空港、BはEast GRIPサイト、CはRussel氷河サイトの位置をそれぞれ示している(詳細は本文参照)。

グリーンランドは北極海と大西洋の間にある世界最大の島です(図1)。大部分が北極圏(北緯66度以北)に位置し、島の80%以上が万年雪と氷に覆われています。この氷はグリーンランド氷床と呼ばれる世界で二番目に大きな氷の塊です(ちなみに一番大きいのは南極氷床)。極寒のグリーンランドはデンマーク領のため、日本からはデンマーク・コペンハーゲン経由で向かいます。コペンハーゲンから、グリーンランドの航空会社「Air Greenland」の飛行機に乗って約5時間、グリーンランド空の玄関口カンゲルススアーク空港(図2左、位置は図1のA)に到着します。この空港はグリーンランド最大級の空港で、大型旅客機の発着陸が可能な立派な滑走路が整備されています。また、この地域はグリーンランドでも南側に位置しているため、夏の間は雪もなく、涼しくて過ごしやすい気候です。

カンゲルススアーク空港

East GRIPへ向かう米軍機

図2 カンゲルススアーク空港(左)およびEast GRIPへ向かう米軍機(右)

ここからいよいよ雪と氷の世界、グリーンランド氷床へ向かいます。今回、しきさい雪氷検証チームは、氷床の北東部に位置するEast GRIP観測拠点(図1のB)で現場検証観測活動を行います。East GRIPは世界のアイスコア*研究をリードする7カ国(デンマーク、アメリカ、ドイツ、ノルウェー、フランス、日本、スイス。日本からは国立極地研究所が協力機関として参加)を中心とした国際共同研究で、2015年から現地に大規模な拠点を設置しています。今回の観測は、East GRIP及び北極域研究推進プロジェクトArCSの国際共同研究推進メニューの一つ、テーマ2「グリーンランドにおける氷床・氷河・海洋・環境変動」(実施責任者:国立極地研究所 東久美子教授)の協力を得て、現地に三週間ほど滞在し、積雪粒径や雪氷面温度などをはじめとした様々な観測を行っています。
*アイスコア:氷の柱。氷に穴を開けて数千メートルの長さの氷柱を取り出す。氷の物理的性質・化学成分、中に入っている気泡などを調べて昔の気候を復元するのに用いる。

East GRIP観測拠点にはカンゲルススアーク空港から米軍機(図2右)に乗って向かいます。しきさい雪氷検証チーム以外にも、East GRIP本来の目的である各国のアイスコア研究者・エンジニアが一緒に向かいます。空港を飛び立ち、耳栓をして荷物とともに揺られること約3時間、雪と氷に覆われたEast GRIP観測拠点に到着しました。

East GRIP観測拠点の様子

メインドーム

図3 East GRIP観測拠点の様子(左)とメインドーム(右)

図3左はEast GRIP観測拠点の様子です。広大な拠点内を移動するためにスノーモービルを使います。奥に見えている赤いカマボコ型のテントは居住用で、二段ベッドが置いてあります。また、図3右は観測拠点のシンボルである二階建てのメインドームです。一階はダイニングとキッチン、シャワーなどが整備され、30人を超える参加者が生活する拠点になっています。二階はミーティングスペース、一番上はフィールドリーダーが拠点全体を見渡せるよう、展望台になっています。また、拠点全体に電気はもちろん、無線LANまで整備されています。

標高2700mの氷の上にこのような巨大な観測拠点が整備されていて、おどろきですね。降り立った瞬間、ここは本当に氷の上なのか?と目を疑いました。しきさい雪氷検証チームは、ここで各国の研究者たちと共同生活をしながら2018年6月29日から7月20日まで検証観測を行っています。

現地について、最初に行わなければならないのが、観測地点決めです。East GRIPには人間活動の影響が及ばないように、風上に広大なクリーンエリアと呼ばれる科学研究観測用のほぼ手付かずの雪面が定められています。ガソリンで動くスノーモービルは立ち入り禁止とされているため、歩いて移動します。他の研究者の観測に影響を及ぼさないよう、慎重に観測地点を決めねばなりません。

クリーンエリアでの観測地点模索の様子

決定した観測地点

図4 クリーンエリアでの観測地点模索の様子(左)と決定した観測地点(右)

East GRIPのフィールドリーダーや他の参加者たちと相談し、メインドームから約1km離れた場所を観測地点にすることにしました(図4)。さっそく定点観測用の測器を設置し、滞在期間中、天候の許す限りは、毎日ここに歩いて通いながら様々な観測を行っています。それでは、具体的にどのような観測を行っているのか、以下でご紹介します。

雪面の反射率を測定する様子(測定者:庭野主任研究官)

図5 雪面の反射率を測定する様子(測定者:庭野主任研究官)

図5は太陽光が雪面にどれくらい反射しているかを測定する様子です。センサを雪面側と太陽側に交互に向けて測定し、その比をとることで波長別アルベドを測ります。測った波長別アルベドの結果から積雪粒径を計算することができます。

雪面の反射率を方向・角度別に測定する様子(測定者:島田研究開発員)

図6 雪面の反射率を方向・角度別に測定する様子(測定者:島田研究開発員)

図6は、「しきさい」がEast GRIP地点を観測する時刻や角度をあらかじめ人工衛星の予測軌道から計算しておき、地上でまったく同じ条件で雪面を測っている様子です。グリーンランド氷床は積雪が広い範囲で均質なため、人工衛星のセンサ自体の校正性能を確認するためのデータも取得することができます。「しきさい」以外にも、「いぶき」や海外の人工衛星についても同じ測定をしています。

大気エアロゾルを測定する様子

図7 大気エアロゾルを測定する様子

図7は大気中に浮遊する微粒子(エアロゾル)を測定する様子です。測器を直接太陽の方向に向け、太陽直達光の減衰量を計測することにより、大気中でのエアロゾルの光学的な厚さを測っています。エアロゾルの光学的厚さは、地上で計測した雪面反射率を用いて人工衛星センサの校正性能を確かめる際に必要となる情報です。

積雪断面構造の観測の様子(観測者:的場助教)

図8 積雪断面構造の観測の様子(観測者:的場助教)

現地では、光の観測だけでなく、積雪の観測も行っています。その際、積雪表面の状態だけでなく、積雪の内部構造も詳細に調べています。図8は雪面に2mほどの縦穴(ピットと呼びます)を掘り、積雪の層構造や種類、粒径、温度、密度などを測っている様子です。白い保護服を着て、コンタミネーション(本来分析対象とする物質以外の混入)を防いでいます。なお、このような積雪断面構造の観測は、人工衛星が観測する積雪プロダクトの検証に必要なのはもちろんですが、時間とともに変化しやすい積雪の物理特性や積雪の融解プロセスを詳細に理解・モデル化し、それを計算機上で数値的に再現する積雪変質モデルを開発・改良していく上でとても重要な観測です。

雪結晶の顕微鏡写真

図9 雪結晶の顕微鏡写真

図9は積雪断面観測で撮影した雪結晶の写真です。このような氷粒子の大きさを地上で計測し、図5の波長別アルベドの測定結果から計算される積雪粒径や「しきさい」が観測する積雪粒径プロダクトと比較することで、光の観測に基づいて算出される積雪粒径の正しさを評価することができます。

「しきさい」搭載SGLIセンサが2018年7月13日に取得した観測データを解析して得られたグリーンランド氷床上の積雪粒径

「しきさい」搭載SGLIセンサが2018年7月13日に取得した観測データを解析して得られたグリーンランド氷床上の雪氷面温度

図10 「しきさい」搭載SGLIセンサが2018年7月13日に取得した観測データを解析して得られたグリーンランド氷床上の積雪粒径(左)と雪氷面温度(右)の空間分布。寒色系は積雪粒径が小さく雪面温度が低い様子を、暖色系は粒径が大きく温度が高い様子を表している。図中の白い四角がEast GRIPサイトの位置を示す。

2018年7月13日15時2分(UTC)頃にEast GRIPにて撮影された全天画像

図11 2018年7月13日15時2分(UTC)頃にEast GRIPにて撮影された全天画像

図10は2018年7月13日に「しきさい」が実際にグリーンランド上空で観測した積雪粒径および雪氷面温度プロダクトの画像例です。また図11は、「しきさい」が上空を通過している時刻に現地で撮影された空の様子です。現地は快晴の天候に恵まれ、地上での積雪物理量の測定にも成功しています。今後、現地観測で取得された地上観測値と「しきさい」の観測プロダクトを比較することで、プロダクトの精度を評価していく計画です。

しきさい雪氷検証チームのメンバー(左から的場助教、島田研究開発員、庭野主任研究官)

図12 しきさい雪氷検証チームのメンバー(左から的場助教、島田研究開発員、庭野主任研究官)

このように、しきさい雪氷検証チームは、現在、グリーンランドの過酷な環境の中で、「しきさい」観測データの品質向上のため、日々検証観測活動に取り組んでいます。今後、East GRIPには7月20日まで滞在し、その後、グリーンランド南西部のRussel氷河周辺(図1のC)に移動し、引き続き氷河や氷床上で観測を継続する計画です。

今回は雪氷分野の検証観測の様子を紹介しましたが、この他にも、大気、陸域、海洋のそれぞれの分野でも検証観測活動を行っています。このような活動に裏付けられた「しきさい」の観測プロダクトの公開は、いよいよ2018年末に迫っています。JAXAでは、今後も国内外の研究機関と連携しながら気候変動の解明に向けた活動に取り組んでいきます。

観測画像について

画像:観測画像について

図1、10

観測衛星 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)
観測センサ 多波長光学放射計(SGLI)
観測日時 2018年7月13日

関連情報

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画像:人工衛星の情報を掲載 サテライトナビゲーター
画像:衛星利用の情報を発信 衛星利用推進サイト
画像:衛星から見た地球のデータ集
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