地球が見える 2004年
黒潮のゆくえを追う
世界の海にはたくさんの海流が流れていますが、その中でも北大西洋を流れるメキシコ湾流に次いで流れが強く、速いことで知られているのが黒潮(別名、日本海流)です(*1)。黒潮は、北太平洋を循環する大きな流れの一部であり、与那国島近海で東シナ海に入り、沖縄本島の西側を北上して、種子島・屋久島と奄美大島との間のトカラ海峡から太平洋に入り、日本の南岸に沿って流れ、房総半島沖を過ぎて東に流れる暖流です(図2参照)。
気象庁のホームページによると、本州の南岸に沿って流れる黒潮は、時によって、東海沖で大きく南に蛇行したり(大蛇行型:図2-A)、関東近海で小さく蛇行したり(離岸型:図2-B)、本州南岸近くを直進する(接岸型:図2-C)など、その流路が変わることがあります。黒潮蛇行の詳しいメカニズムはまだわかっていませんが、こうした黒潮の流れを、衛星が観測した海面水温の分布から推測することができます。図1は、Aqua衛星搭載のセンサAMSR-E(*2)が観測した、2004年5月11日〜15日の5日平均の本州南方海域の海面水温を表しており、赤で示された水温25℃以上の高水温域の北限がほぼ黒潮の流れに相当します(*3)。気象庁によると、昨年12月に九州の東の海域で発生した黒潮の小蛇行は、今年4月上旬には足摺岬沖、5月上旬には室戸岬沖、と徐々に東に移動し、5月下旬には四国の南の沖合いから大きく北上して潮岬に接近しており、今後、この蛇行はさらに東に進み、7月には東海沖に達すると予測されています(*4)。 黒潮の動向は、漁業やマリンスポーツの関係者にとって、また船舶の安全航行や沿岸防災のためにも必要な情報です。黒潮が蛇行する形によって、黒潮にのってやって来るカツオやマグロの漁場位置が変わり、漁獲高に影響があるともいわれています。地球観測研究センター(EORC)では、今後も海面水温の分布を衛星から観測することで、黒潮の動向を監視していきます(最新観測画像はこちらから)。 (*1)黒潮の流速は毎秒2m超、流れの幅は100kmに及ぶことがあり、運ばれる水量は毎秒5,000万トンにも達します。一方、メキシコ湾流の流速は毎秒2〜2.5m、幅は80km程度、厚さは2000mで、流量は8,000万トンと推測されています。 (*2) AMSR-Eは、地表や大気から自然に放射される微弱な電波を複数の周波数帯で高精度に観測し、地球の水循環を解明するために必要なデータを取得するマイクロ波センサです。マイクロ波センサは、光学センサと異なり、昼夜の別なく、また雲に影響されることなく常に観測を行うことができるため、黒潮の動向を継続的に監視することが可能です。 (*3)アニメーション中で海域に現れる灰色の範囲は、強い雨を伴う雨雲によりデータが取得できなかった部分を示しています。また、伊豆諸島付近に赤く見える高水温域はノイズと思われます。 (*4) 黒潮の大蛇行は1953年以降6回発生しており、最近では1989年12月に発生し、1991年5月まで続きました。
関連サイト: ・気象庁ホームページ ・海上保安庁ホームページ |