宇宙からみた 2016年台風第16号

2016年9月西日本に大雨をもたらした台風第16号についてリポートします。JAXAの全球降水観測計画(GPM)主衛星の観測により、九州に接近中の台風の鉛直構造画像(3次元画像)が得られました。地上の気象レーダの観測結果をGPM主衛星によって補完することで、気象データの精度が上がり、防災への貢献が期待されます。

2016年は日本への台風上陸数歴代2位

2016年は台風の影響が色濃い1年になりました。その前年である2015年は、毎月台風が発生していましたが、 2016年に入ると台風の発生がパタリと止まり、半年間全く台風が発生しませんでした。2016年7月3日に、 1951年の統計開始以来2番目に遅い記録でやっと台風第1号が発生し、その後は平年を上回るペースで毎月台風が 発生したのは記憶に新しいと思います。一年が終わってみると、2016年は26個の台風が発生し、そのうち6個の 台風が日本に上陸しました(図1参照)。2016年の日本への台風上陸数は、1951年の統計開始以来2番目に多い記録です。

図1 2016年に発生した台風経路図(日本付近の抜粋)
図1 2016年に発生した台風経路図(日本付近の抜粋)

「秋台風」のルートを辿った台風第16号を解説

2016年は北海道に台風が連続して上陸したり、東北の太平洋側に上陸したり、異例続きの台風ニュースが世間を騒がせました。 異例の進路をとることが多かった2016年の台風ですが、いわゆる「秋台風」のルートを辿った台風が、今回とりあげる台風第16号です。

台風第16号は、9月13日3時に北マリアナ諸島の西の海上で発生し、はじめは上空の東風に流されて、自転車くらいのスピード (時速20km程度)で北西へ進みました。その後、東シナ海付近で偏西風の流れに沿って進路を北東に変え、9月20日0時過ぎに 強い勢力で鹿児島県大隅半島に上陸しました。

このとき、図2のように日本はシベリア高気圧と太平洋高気圧に挟まれて、本州付近に秋雨前線が停滞していたため、 前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込みました。その結果、9月17日から20日にかけては、西日本を中心に荒れた天気になったのです。

台風と前線の影響で、鹿児島県枕崎市では20日0時19分までの1時間で115ミリの猛烈な雨を記録し、 九州や四国では17日~20日の総降水量が400ミリを超える大雨になるなど、各地で土砂災害や浸水害が発生しました。

(左)図2 地上天気図2016年9月19日9時(右)図3 地上レーダ画像2016年9月19日9時
(左)図2 地上天気図2016年9月19日9時(右)図3 地上レーダ画像2016年9月19日9時

宇宙からレーダがとらえた!台風に伴う降水域

九州に台風接近時の地上レーダ画像(図3)をみると、降水域が東シナ海の途中で切れてしまい、台風に伴う降水域全体をとらえることができていませんでした。 これは地上で観測する気象レーダの観測可能な範囲を超えてしまっているためで、これから来る台風本体の雨雲を把握するには残念ながら情報が足りません。

そこで、GPM主衛星に搭載されたDPRレーダで観測した地表面降水量(図5)を見ると、台風による降水を広域にとらえており、台風の中心から 半径200km以内(特に中心から東~北にかけて)に強い降水域があることを確認できます。 このように、地上だけでなく宇宙からもレーダ観測をすることで、気象データの精度が上がり、防災への貢献が期待できます。

図4 アメダス東北地方(上:降水量 下:風向風速 2016年8月30日18時) ※ ×は欠測を表す
(左)図4 台風第16号経路図とDPRの走査面 (右)図5 DPR地表面降水量(2016年9月19日9時)

3次元画像でみる 降水の雨雪判別

GPM主衛星により得られるのは前述した2次元の降水分布だけではありません。図6や図7のような3次元の降水分布データも作成できるため、 降水現象を立体的に把握することが可能です。

図7については、降水の形態を表していて、地表に近い青色の部分は「雨」、地表から遠い白色の部分は「雪」、その中間は雨と雪がまじった「みぞれ」という意味です。 台風であっても、日本付近まで近づくとさすがに上空は「雪」になっているということがよく分かる図です。

今回は台風の事例でしたが、このような3次元画像は、冬の南岸低気圧による太平洋側の雨雪解析にも一役買うでしょう。

(左)図6 DPR立体降水分布(降水強度) (右)図7 DPR立体降水分布(雨雪)
(左)図6 DPR立体降水分布(降水強度) (右)図7 DPR立体降水分布(雨雪)※ともに2016年9月19日9時(00UTC)


(解説:日本気象協会) 宇宙から見た気象現象シリーズ第2弾