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GPM/DPRによる地表面降水分布の気候値

GPM/DPRによる地表面降水分布の気候値。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

図1: GPM/DPRによる地表面降水分布の気候値。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

北半球冬季(12, 1, 2月)気候値の図

図2:北半球冬季(12, 1, 2月)気候値の図

北半球夏季(6, 7, 8月)気候値の図

図3:北半球夏季(6, 7, 8月)気候値の図

図1~3で示すGPM/DPRによる地表面降水分布の気候値は、GSMaPの気候値と同様のパターンを示しています。これらの降水分布の説明は、GSMaPのページをご参照ください。

GPMの先駆であるTRMM衛星と降雨レーダ(PR)によって、熱帯・亜熱帯域の降水システムの気候学的研究が進みました。熱帯で大きいと言われてきた降雨の日周期、各地域における典型的な降水システム(例えば高度や大きさ)、極端降雨に関する統計などがPRによって明らかにされました。GPM/DPRでは観測域が中高緯度まで広がり、高緯度域の降雪を観測できるようになりました。その結果、TRMM/PRでは観測できなかった中高緯度の降水分布、たとえば、チリ沿岸やアラスカ沿岸といった沿岸部で活発な降水を新たに捉えることができています。このGPM/DPRの観測により、グローバルな降水科学が進展してます。詳細は、高薮縁 東京大学名誉教授の講演資料等を参照ください。

GPM/DPRは、異なる二つの周波数の電波で降水の三次元構造を観測することにより、①降水特性、②雨や雪の粒子判別が可能であることが特徴として挙げることができます。これらの気候値について次に示します。

① 降水特性の気候値

弱いながらも長い期間に降る降水と集中豪雨的に数時間で降ってしまう降水では、降水特性が異なると言えます。 上昇流の強さや水平方向・鉛直方向の広がり、時間スケールを反映して、降水は層状性(stratiform)と対流性(convective)の2種類に分類されます(水野, 2000)。 層状性の降水は広範囲で持続性があり、対流性の降水は局所的で一時的です。 層状性降水の典型は低気圧の進行前方に広がる乱層雲からの降水で、対流性降水の典型は発達した積雲や積乱雲からの降水です。

GPM主衛星に搭載された二周波降水レーダ(DPR)の降水推定アルゴリズムでは、二つの周波数で計測した降水の鉛直プロファイルの形状と水平パターンをもとに、その降水が主として層状性であるか対流性であるかの判定を行い、それを考慮して降水強度の推定を行っています。

図4, 5は、DPRの層状性・対流性降水の判定による、層状性と対流性の降水の分布を示したものです。 また、図6は、全体の降水量に占める、層状性の降水による降水量の割合で、600mm/yearを上回る領域のうち、赤色系統が層状性降水の多い領域、青色系統は対流性降水が多い領域を示しています。

これらの図をみると、熱帯において、大陸および海洋大陸上では対流性の雨が雨量の多くを占めています。 特に、夏半球のアフリカ大陸中部や南北アメリカ大陸において、対流性の降雨が卓越しています。他方、海上では層状性の雨による寄与が大きく、中緯度の降水(日本の東海上や南太平洋の南部)では、降水量の全体の6割以上が層状性の降水に起因しています。 また太平洋上の熱帯収束帯(ITCZ)においても層状性降水による寄与が大きい特徴があります。

GPM/DPRによる地表面での層状性降水分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

図4: GPM/DPRによる地表面での層状性降水分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

GPM/DPRによる地表面での対流性降水分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

図5: GPM/DPRによる地表面での対流性降水分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

全降水量に対する層状性降水量の割合で、単位は %。年間降水量が600mm/yearを下回る領域は灰色で示されている。

図6: 全降水量に対する層状性降水量の割合で、単位は %。年間降水量が600mm/yearを下回る領域は灰色で示されている。



② 雨や雪の気候値

DPRは、Ku帯(13.6GHz)降水レーダ(KuPR)とKa帯(35.5GHz)降水レーダ(KaPR)という2台のレーダで構成され、高感度化を目的としたKaPRは、KuPRでは測れない弱い雨や雪の検出に有効であり、強い雨の検出が可能なKuPRと同時に観測することによって、熱帯の強い雨から高緯度の弱い降雪までの降水量を高精度で観測することができるようになりました。またDPRは異なる二つの周波数の電波で観測することにより、雨や雪のような降水粒子の判別が可能です。その降雨の気候値について図7に、降雪の気候値について図8~9に示します。

図10は、全体の降水量に占める、降雪による降水量の割合で、高緯度で降雪が多いことを示しています。また亜熱帯から中緯度でも特にチベット高原のような山岳地帯で、降雪が観測されていることが分かります。

GPM/DPRによる地表面付近(地表面からの信号の影響を受けない高度)での降雨分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

図7: GPM/DPRによる地表面付近(地表面からの信号の影響を受けない高度)での降雨分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。

GPM/DPRによる地表面付近(地表面からの信号の影響を受けない高度)での降雪分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。カラーバーは図7と同じ。

図8: GPM/DPRによる地表面付近(地表面からの信号の影響を受けない高度)での降雪分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。カラーバーは図7と同じ。

GPM/DPRによる地表面付近(地表面からの信号の影響を受けない高度)での降雪分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。カラーバーは図7とは異なる(弱い降雪量を強調する色塗)。

図9: GPM/DPRによる地表面付近(地表面からの信号の影響を受けない高度)での降雪分布。期間は2014年3月~2024年2月までの10年間。単位はmm/30days。カラーバーは図7とは異なる(弱い降雪量を強調する色塗)。

GPM/DPRにより観測された、全体の降水量に占める、降雪による降水量の割合。青色が濃い領域ほど降雪が多いことを示している。

図10: GPM/DPRにより観測された、全体の降水量に占める、降雪による降水量の割合。青色が濃い領域ほど降雪が多いことを示している。

参考文献:

  • 水野量. (2000). 雲と雨の気象学.