多波長イメージャ(MSI)

多波長イメージャ(Multi-Spectral Imager, MSI)は、可視~赤外域に7つの感度チャンネルをもつ受動型センサで、大気を含めた地球表面から反射・放射される電磁波を計測します。それぞれのチャンネルにおける観測データからは、雲やエアロゾルなどの性質や分布に関する情報が得られます。

MSIはEarthCAREの搭載センサの中では唯一クロストラック方向(衛星進行方向と直交する方向)に観測幅を持つもので、地表付近に換算して約150km幅の範囲のデータを取得します。鉛直方向の観測データの取得はおこなわないため、得られるデータは大気を含めた地球表面を宇宙から撮像したような平面的情報です。このようなMSIによる平面的な観測情報は、CPRやATLIDの鉛直情報を水平方向に補い、4センサを統合したシナジーデータの3次元情報としての有効性を高める役割を果たすほか、BBRによる大気上端放射フラックスの算出において重要な入力情報となります。

MSI

MSIの7つの感度チャンネルは、地球による太陽光の反射を計測する4チャンネル(可視・近赤外・短波長赤外)と、地球放射を計測する3チャンネル(熱赤外)から構成されます。夜間は熱赤外3チャンネルのみの観測データが得られます。

また、昼間の海面によるサングリント(太陽の鏡面反射)の影響を避けるため、観測幅は衛星直下に対して左右非対称(日中のディセンディング時に衛星直下に対して東側約115km、西側約35kmをカバー)となるように設計されています。

MSIの観測対象

MSIの観測からは、大気を含めた地球表面からの放射量のデータ(放射輝度、あるいは輝度温度)が各チャンネルごとに得られます。これらをもとに、さらに高次的な計算処理をすることにより、雲・エアロゾルの分布や物理特性に関するパラメータである雲フラグ、雲フェイズ、雲の光学的厚さ、雲粒有効半径(1.6 μm, 2.2 μm)、雲頂温度、雲頂高度、雲頂気圧などの各物理量が算出されます。なお、氷雲の物理特性やエアロゾルの光学的特性に関するパラメータ算出は、研究開発的な位置づけです。

MSIのデータプロダクト

MSI単体の観測データは「L1b(ESA作成)」「L2a」プロダクトとして提供されます。 さらに、他センサの観測情報と組み合わされることにより、雲やエアロゾルのリトリーバルに関するデータ、放射収支に関するデータが、いくつかの「L2b」プロダクトとして提供されます。
MSIの標準プロダクト:
MSIの研究プロダクト:
MSIのおもな観測諸元 (設計要求)
センサの種類
Sensor type
プッシュブルーム方式スキャナ
開発担当
Developer
欧州宇宙機関(ESA)
地上での観測幅
Swath
150 km (進行方向左側約115km、右側約35km)
チャンネル 中心波長
Channel center wavelength
可視 VIS 0.67 μm
近赤外 NIR 0.865 μm
短波長赤外
SWIR
1.65 μm
2.21 μm
熱赤外
TIR
8.80 μm
10.80 μm
12.00 μm
フットプリント径
Footprint (IFOV)
約 500 m
サンプリング間隔
Sampling
約 500 m
MSIのチャンネル設定とラジオメトリック特性 (設計要求)
チャンネル チャンネル中心波長
Channel center wavelength
波長幅 (50%)
Bandwidth(50%)
ダイナミックレンジ
Dynamic range
信号対雑音比
S/N
(@ albedo=1.0)
雑音等価温度差
NEdT
(@ 293K, 200K)
可視 VIS 0.67 μm 0.02 μm 0~110 % 500 -
近赤外 NIR 0.865 μm 0.02 μm 0~110 % 500 -
短波長赤外
SWIR
1.65 μm 0.05 μm 0~112 % 250 -
2.21 μm 0.1 μm 0~100 % 250 -
熱赤外
TIR
8.80 μm 0.9 μm 170~350 K - 0.25K, 0.8 K
10.80 μm 0.9 μm 170~350 K - 0.25K, 0.8 K
12.00 μm 0.9 μm 170~350 K - 0.25K, 0.8 K