衛星と観測センサ

雲プロファイリングレーダ(CPR)

雲プロファイリングレーダ(Cloud Profiling Radar, CPR)は、ミリ波帯の電波をパルス状に発信し、鉛直下方の雲や雨からのエコー(反射・散乱されて戻ってきた信号)を受信する能動型のセンサです。送信パルスに対するエコーを時間ごとにサンプリングすることにより、雲や雨エコー強度の鉛直プロファイル(鉛直方向のデータ分布)が得られます*1。さらに、二つのパルス間でのエコーの位相変化を計測すること(ドップラ速度計測)により、雲や雨粒子の上昇・下降速度を計測することができます。

CPR

ドップラ計測機能を持つレーダは地上では広く利用されていますが、衛星に搭載されるレーダとしてはEarthCARE搭載CPRが世界初となります。
レーダのエコー検出感度は、波長、送信電力、アンテナの大きさ、対象物までの距離などによって決まりますが、EarthCARE搭載CPRは現在運用中の米国CloudSat衛星搭載のCPRより6dB(約4倍)以上の高い感度があります。これにより放射収支にとって重要な氷雲の98%が検出可能と推算されています。
また、CPRで鉛直のドップラ速度を計測することにより、雲や雨粒子の落下速度の違いによる粒径の推定や、雲、雨、雪、あるいはドリズルの判別に利用できるパラメータが得られ、粒子タイプによる放射過程の違いを考慮する際に大きな貢献すると期待されています。

パルスレーダのレンジ分解能(視線方向の分解能)は送信パルス幅によって決まりますが、CPRは3.3μ秒のパルス波を送信するので、鉛直方向に500mの分解能を持つことになります。さらに詳しい鉛直情報を得るためCPRは100m間隔でデータサンプリングします。
鉛直探知範囲は、低緯度では高緯度より高い雲が出現することを考慮して、低緯度では地上~高度約20km、高緯度では地上~12kmとなるように観測モードを切り替えます。また、衛星高度に合わせてPRF(パルス繰り返し周波数)を6100Hz~7500Hzに変化させることにより、その高度でできる限り高いPRFを実現できるようにして、ドップラ計測精度の高精度化を図ります。

衛星から地上へのデータ伝送容量の制限から、衛星上で衛星進行方向に約500mのパルス積分をしたエコーの強度とドップラ情報が地上に送られるため、オリジナルの水平方向のサンプリングは約500mということになります。

*1 送信パルス波が雲・雨などに反射されて戻ってくるまでの時間が衛星までの距離に対応するので、地上~上空までの各距離(各時間)でデータ取得することにより、雲や雨エコー強度の鉛直プロファイルが得られます。

CPRの観測対象

CPRが直接測定しているものは、雲や雨からの後方散乱信号の強度および位相情報で、衛星直下方向の鉛直プロファイルとして得られます。これらをレベル1アルゴリズムでレーダの送信出力強度や受信器利得などを用いて補正して工学値変換することにより、レーダ反射因子やドップラ速度、ドップラスペクトル幅が得られます。 さらに伝搬経路で大気減衰補正、ドップラの折り返し補正、1kmおよび10kmの水平積分処理などの高次的な処理をした後に物理量に変換することで、雲マスク、雲水量、雲氷量、水雲および氷雲の雲粒有効半径、雲の光学的厚さなどの物理量が推定されます。また、雨・雪などの降水量や大気鉛直流(大気鉛直速度、沈降速度)に関するパラメータに関しても推定アルゴリズムを開発中です。

CPRのデータプロダクト

上記のようなCPR単体の観測データは、「L1b(JAXA作成)」「L2a echo(高次処理したレーダ工学値)」「L2a cloud(雲の分布や物理特性)」プロダクトとして提供されます。さらに、ATLIDの観測情報と組み合わされることにより、レーダとライダで相互に補完された雲やエアロゾルの分布や物理特性に関するデータが「L2b」プロダクトとして提供されます。 L2aおよびL2bの主要パラメータにおいては、2つの水平積分距離(1kmおよび10km)のデータが1つのプロダクトファイルに格納されています。
CPRの標準プロダクト:
CPRの研究プロダクト:
CPRのおもな観測諸元
センサの種類
Sensor type
94GHz(Wバンド)ドップラー速度
計測機能つきパルスレーダ
開発担当
Developer
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
情報通信研究機構(NICT)
中心周波数
Center frequency
94.05 GHz
送信パルス幅
Pulse width
3.3 μs
アンテナビーム幅
Antenna beam width
< 0.095 deg.
パルス繰り返し周波数
PRF
6100 ~ 7500 Hz
(variable)
最小受信感度
Sensitivity
< -35 dBZ at 大気上端
(10 km 積分時)
ドップラー速度精度
Doppler accuracy
< 1.3 m/s
(10 km 積分時)
探知範囲(高度)
Measurement range
-1 ~ 12/16/20 km
(緯度帯に依存)
フットプリント径(*2)
Footprint (IFOV)
< 750 m
(衛星高度に依存)
水平サンプリング間隔
Horizontal sampling
約 500 m
鉛直分解能
Vertical resolution
約 500 m
鉛直サンプリング間隔
Vertical sampling
約 100 m
(オーバーサンプル)
*2 実際に得られるデータは、複数のパルスによる受信信号をアロングトラック方向に一定距離の積分により得られるため、アロングトラック方向の実質的な解像度は、1パルスの地表面投影径(フットプリントの大きさ)より大きくなります。