衛星と観測センサ

大気ライダ(ATLID)

大気ライダ(Atmospheric Lidar, ATLID)は、波長355nmの紫外線によるレーザー光を発信し、大気中の雲やエアロゾルなどの粒子や、大気分子からの後方散乱を受信する能動型のセンサです。

ライダはレーザーレーダーとも呼ばれるように、レーダーの原理をもとに、マイクロ波よりもさらに波長の短い可視光線や紫外線などを送信波として用いたもので、エアロゾルなどの微粒子や大気分子などに感度を持ちます。また、レーダーと同様、受信信号の時間変移量(時間のずれ)から対象までの視線方向の距離を計測することができます。ATLIDの場合は、巻雲や海面などからの鏡面反射の影響を避けるため、衛星直下より約3度後方に送信信号を発信する設計のため、この視線方向における後方散乱の強さの高度プロファイルが得られます。
また、ATLIDは水平偏波の信号を送信し、受信器に偏光成分を観測する機能を備えています。これにより粒子の形状に関する情報を得ることができます。

ATLID

ライダの送信波にはレーザーが用いられ、ビームの広がりが小さく非常に指向性の高い観測ができることが特徴です。そのため、地上フットプリント(瞬時視野)の大きさは非常に小さくなります。
ATLIDは、高スペクトル分解ライダ(HSRL)とよばれる種類のライダです。HSRLとは、スペクトル幅の非常に狭いレーザーを送信信号として用いて、エアロゾルや雲によるミー散乱(スペクトル幅が狭い)と大気分子によるレイリー散乱(スペクトル幅が広い)が合成された後方散乱信号を受信し、これを受信系におけるフィルターにより高分解能で分光することにより、エアロゾルや雲によるミー散乱と大気分子によるレイリー散乱成分を分離して求める技術です。これにより、ライダ方程式で未知数となる雲やエアロゾルの後方散乱係数と消散係数を独立に求めることできます。
衛星搭載のライダとしては、CALIPSO衛星のCALIOPが2006年から運用されました。ATLIDは高スペクトル分解ライダ技術を用いることにより、エアロゾルの光学的性質にもとづいた分類や光学的厚さの推定をより正確におこなうことが可能です。

ATLIDの観測対象

ATLIDが直接測定しているものは、レイリー散乱とミー散乱が合成された後方散乱信号で、視線方向の距離に応じて大気中の高度プロファイルとして得られます。後方散乱信号は高スペクトルフィルターによりレイリー散乱およびミー散乱の情報に分離でき、さらにミー散乱は水平偏波と垂直偏波に分離できます。このような部分をレベル1処理が担い、その結果としてレイリー、ミー(水平偏波)、ミー(垂直偏波*1)の3つのチャンネルにおける後方散乱強度データの鉛直プロファイルが得られます。
さらに高次的な計算処理をすることにより、エアロゾルと雲の検出や、雲粒子の相や形状、エアロゾルの種類の分類、エアロゾルと雲のそれぞれについて消散係数、後方散乱係数、ライダ比、偏光解消度、大気境界層高度を導出します。

*1 クロス偏波ともよばれます。

ATLIDのデータプロダクト

上記のようなATLID単体の観測データは、受信信号の強度は「L1b」(ESA作成)、上記のような高次物理量は「L2a」プロダクトとして提供されます。L2aプロダクトでは、エアロゾルと雲の検出をフィーチャー・マスク、雲粒子の相や形状、エアロゾルの種類の分類をターゲット・マスクとよんでいます。
ATLIDとCPRの観測情報と組み合わされることにより、レーダとライダで相互に補完された雲やエアロゾルの分布や物理特性に関するデータが「CPR-ATLID複合 L2b」プロダクト、さらにMSIの観測情報も含めた「CPR-ATLID-MSI複合 L2b」プロダクトなどが提供されます。
ATLIDの標準プロダクト:
ATLIDの研究プロダクト:
ATLIDのおもな観測諸元 (設計要求)
センサの種類
Sensor type
高スペクトル分解ライダ(HSRL)
開発担当
Developer
欧州宇宙機関(ESA)
中心波長
Center wavelength
355 nm
探知範囲(高度)
Measurement range
地上 ~ 40 km
フットプリント径
Footprint (IFOV)
< 32 m
水平サンプリング間隔
Horizontal sampling
約 280 m
(目標 140 m)
鉛直サンプリング間隔
Vertical sampling
約 100 m