地球温暖化と雲・エアロゾル
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気候変動の仕組み

気候変動とは、気温や気象パターン(降水量、雲など)の平均的な状態が(数十年規模の)長い時間スケールで変化することを指します。気候変動を引き起こす要因は、地球温暖化で注目される人間活動のみならず、自然の要因もあります。例えば、太陽活動の変化や大規模な火山噴火によっても地球の気候はこれまで変動しており、その都度温暖化や寒冷化(氷河期)を経てきました。ただし、その自然要因だけでは説明がつかない急激な気温上昇が1900年以降に観測され、地球温暖化と呼ばれています。

では、気候変動はどのような仕組みでおこるのでしょうか。気候変動は、①まず、上述したような火山活動や人為起源の温室効果ガス・エアロゾルの排出など外的要因によって引き起こされ、②雲や水蒸気、海氷・雪氷による「フィードバック」が働き、③新しい気候の状態に移ります(図1)。

気候変動を引き起こす要因には、太陽活動・火山噴火などの自然起源以外に、エネルギーを作るための化石燃料(石炭・石油・天然ガスなど)の燃焼などで発生する二酸化炭素や、家畜のゲップ・天然ガスの掘り起こす際に発生するメタンなどの温室効果ガスの排出など人為起源のものがあります。こういった要因がどの程度気候変動へ寄与するか定量化する指標として、放射強制力があります。(詳しくは次のセクションで取り上げましょう)。

二酸化炭素が大気中に放出されたときなど、なんらかの変化が起きたときに、その変化を加速させたり、減速させたりするメカニズムをフィードバックと言います。正のフィードバックは温暖化を加速させ、負のフィードバックは温暖化を減速させる方向に働きます。例えば、温暖化すると海氷や雪氷が溶けます。溶けたことにより露わになった陸面や海面は(雪氷面よりも)たくさん太陽光を吸収するため、地球の温度は上がり、温暖化を加速させます。これを「雪氷アルベドフィードバック」と言います。また地球の気温が上がると、大気中に含まれる水蒸気の量が増加し、水蒸気は温室効果ガスなので、温暖化を加速させます。これを「水蒸気フィードバック」と言います。地球上でさまざまなフィードバックが起きて、気温や気象パターンは前とは異なる状態に落ち着き、気候は新たな状態に移ります。

雪氷アルベドフィードバックや水蒸気フィードバックに並んで、代表的なフィードバックに「雲フィードバック」があります。雲も、また、地球の気温が上昇すると変化し、その変化によって気候に影響を与えます。温暖化すると、雲がどのように変化すると考えられているか、次のセクションで見ていきましょう。

温暖化すると雲はどう変化するか?

気候変動予測における難題の1つとして、二酸化炭素などの増加などにより気温が上昇すると、雲がどのように変化し、その変化が温暖化の加速と減速のどちらに働くのかを予測することです。雲は地球の表面積の2/3を覆っており、その影響は非常に大きくなります。

産業革命以降、地球の気温は上昇し、①雲の高度、②雲の量、③雲の相(水・氷)といった雲の特性が変化し、地球の放射収支に影響を与え、よって地球の気温を変化させてきました(図2)。このような「雲フィードバック」と呼ばれる過程は、気温上昇を増幅させる効果と一部相殺させる効果の両方があります。具体的には、気温が上昇すると、高層の雲は上昇し、地球からの熱を逃さない効果がより強く表れると推察されます。また、亜熱帯海洋上では、低層の雲の量は少なくなり、地表に届く日射が多くなると見込まれています。いずれも、温暖化を加速させる効果があります。一方、高緯度の雲では、気温の上昇により、氷粒が水滴に融解します。液体の水から氷へ変化する相変化では、大きい氷粒が、粒径は小さく多数の水滴の集合体に変わるので、雲が地表に達する日射量を遮る効果が強くなり、地表を冷やし、温暖化を減速させる方向に働きます。

つまり、気温の上昇に起因する雲の高度・量の変化によって加速される気温上昇の一部は、雲の相変化により冷却化されますが、全体としては、雲は温暖化を加速させると考えられています。

このように、温暖化への雲の影響を定量的に評価するには、温暖化時にどの高さの雲がどのような高度に移動し、雲の特性が変化するか、科学的な理解が重要となります。近年では、観測や数値モデルの高度化により、雲プロセスに関する研究が進んできたため、温暖化時の雲の振る舞いの理解が進んできました。しかし、雲による温暖化への影響は十分に定量化されておらず、温暖化予測における最大の不確実性要因となっています。このように、雲が気候への定量評価には、雲の高度毎に特性を詳細に観測する鉛直観測が求められています。

気候変動予測の誤差要因 - 雲とエアロゾルの未知なるはたらき

温暖化・冷却化といった地球の気候システムにおける温度の状態は、太陽から受ける放射エネルギーや地球から放出される熱エネルギーの収支や伝達過程に強く依存しています。

これらを左右する要因はさまざまで、温室効果ガスや大規模な火山噴火、雲やエアロゾルによる放射への直接的・間接的効果、太陽活動の変化などです。こうした(外的な)要因が気候変動に与える影響を定量的に表す指標に、放射強制力というものがあります。

放射強制力は、ある要因が地球の放射エネルギー収支に対して与える影響をW/m2の単位であらわしたものです。 図3は、人為起源・自然起源の気候変動要因について、放射強制力の大きさを示したものです。放射強制力がプラスであるほど温暖化へ寄与し、マイナスであるほど冷却化に寄与すると考えられます。放射強制力のグラフに示されている黒い線はエラーバー、すなわち誤差の大きさを示しています。

この図では、たとえばCO2やCH4などの温室効果ガスの放射強制力は正の値で、温暖化への寄与が高いことが示されています。これらのエラーバーは小さく、予測誤差が小さいことがわかります。
一方でエアロゾルの効果は負の放射強制力を示し、冷却化に寄与すると考えられます。なかでも雲とエアロゾルの相互作用の効果に関してはエラーバーがとても大きく、放射強制力の理解が低いことが示されています。つまり、温室効果ガスによる気温上昇の一部をエアロゾルが相殺しますが*1、どのくらい相殺するかは不確実性が高く、将来の気温予測全体に対して最も大きな不確実性をもたらしています。この不確実性の原因は、エアロゾルの放射収支への影響や、雲との相互作用に関する科学的な理解が不十分であるためと考えられます。そのため、雲とエアロゾルの地球上での振る舞いや気候への影響を理解するため、雲とエアロゾルを効果的に観測する必要性が求められています。

*1 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 政策決定者向け要約