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AVNIR-2で見た2006年春から初夏の赤潮

AVNIR-2で見た2006年春から初夏の赤潮 - はじめに

赤潮とは海洋プランクトンの異常な増殖による水色の着色現象のことを言います。赤潮は、気温が上がり日射量が増える春-夏季に沿岸域の流れが滞り易い場所で生じ易く、それ自体、あるいはそれに伴う水中環境の変化が漁業や養殖などの人間活動にもしばしば影響を与えます。

海面の色が変わることから、人工衛星からもある程度は赤潮を捉えることが出来ます。しかし、その色は原因となったプランクトンの種類と量によって異なり、また、赤潮以外の水質や上空の雲やエアロゾルによって特定しにくくなることもあります。

ここでは、10m空間解像度で青(460nm)、緑(560nm)、赤(650nm)、近赤外(825nm)の4チャネルを持つAVNIR-2によって捉えられた、2006年春から入梅前の日本の沿岸における赤潮とみられる5つの事例と、その波長特性(4波長の観測値の相対関係)について調べます。
(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

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事例1)2006年6月1日の東京湾

AVNIR-2の2006年6月1日の画像において、横浜港~千葉港にわたる東京湾の広い範囲で、周囲の海域と違う変色域が現れていました。横浜市環境科学研究所によると、 5月下旬から6月始めにかけて渦鞭毛藻(Prorocentrum minimum)による赤潮が東京湾で大規模に発生していたことが報告されており、それに対応するものと考えられます。

AVNIR-2による反射率(大気上端)の4チャネルの関係を見ると、赤潮と思われる変色域において、近赤外が他の海域に比べて明らかに高くなっています。

図1: AVNIR-2による2006年6月1日の東京湾
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左(a)は赤、緑、青チャネルによるRGB画像、右(b)は近赤外、赤、緑によるRGB画像

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

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事例2)2006年5月21日の東京湾

図2は大規模な赤潮が現れる前の5月21日の画像です。色の違いをよりよく見るために強調して表示しています。図1のような近赤外が明らかに高い海域は見られていませんでしたが、東京港の一部でやや赤くなっている海域がありました(図中の水色の楕円)。

この海域についてAVNIR-2の反射率データを見ると、図1に比べると違いは小さいですが、変色域では非変色域に比べて赤や近赤外の反射率が若干高くなっていたことがわかります。

図2: AVNIR-2による2006年5月21日の東京湾
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左(a)は赤、緑、青チャネルによるRGB画像、右(b)は近赤外、赤、緑によるRGB画像

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

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事例3) 2006年4月7日の鹿児島湾

図3はAVNIR-2による2006年4月7日の鹿児島湾です。左図で桜島の南に筋上の赤い筋が見えます。鹿児島県水産技術開発センターによると、これは夜光虫(Noctiluca scintillans)による赤潮であることが報告されています。

図1の東京湾と比較すると、図3の赤潮では、近赤外よりも赤色が特に高くなっています。この特徴はこの種類の赤潮が人の目で鮮やかな赤色に見えること対応しています。

図3: AVNIR-2による2006年4月7日の鹿児島湾
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左(a)は赤、緑、青チャネルによるRGB画像、右(b)は近赤外、赤、緑によるRGB画像

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

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事例4) 2006年5月24日の大阪湾東部

2006年5月下旬から6月上旬に堺市から泉大津市にかけての沿岸域で珪藻類(Skeletonema costatum)の赤潮が大阪府立水産試験場によって確認されています。図4はその期間中の5月24日の大阪湾です。衛星画像では赤潮が報告された沿岸域(図中の水色で囲んだ領域)で緑色~近赤外がわずかに高くなっていますが、図1や図2の赤潮に比べるとあまりはっきりと識別することはできません。

図4: AVNIR-2による2006年5月24日の大阪湾
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左(a)は赤、緑、青チャネルによるRGB画像、右(b)は近赤外、赤、緑によるRGB画像

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

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事例5) 2006年5月25日の伊勢湾

図5は2006年5月25日のAVNIR-2で観測された伊勢湾です。伊勢湾も東京湾や大阪湾と同様に赤潮が頻繁に発生する海域です。伊勢湾西岸で褐色の海域が、知多半島には規模は小さいですが図1と同じように近赤外が高くなっている海域が見られました(図中の水色で囲んだ領域)。

これらの海域について、AVNIR-2で観測された4チャネルの反射率を見ると、伊勢湾西岸では赤と近赤外が若干高く、知多半島沿岸の着色域では6月1日の東京湾の赤潮の反射率と同様に近赤外が非常に高くなっていたことがわかります。ただし知多半島沿岸の着色域については、この時間ちょうど干潮の時間に当たり、藻場などの水中植物が見えていた可能性があります。

図5: 2006年5月25日のAVNIR-2による伊勢湾
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左(a)は赤、緑、青チャネルによるRGB画像、右(b)は近赤外、赤、緑によるRGB画像

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

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事例6) 2006年5月4日の天草沖

図6は2006年5月4日のAVNIR-2で観測された天草諸島周辺です。長崎沖から天草諸島西部にかけて筋状に赤くなっている領域が確認できます。

これらの海域について、AVNIR-2で観測された4チャネルの反射率を見ると、着色域では赤と近赤外が非常に高くなっています。この分布や波長の特徴は4月7日の鹿児島湾のものと良く似ていることから、これは夜光虫(Noctiluca scintillans)による赤潮であると推測されます。

図6: 2006年5月4日のAVNIR-2による天草沖
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左(a)は赤、緑、青チャネルによるRGB画像、右(b)は近赤外、赤、緑によるRGB画像

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

(c)は画像中の変色海域(赤系色)と非変色海域(青系色)を2組(計4点)抽出してプロットした図。横軸は波長、縦軸はAVNIR-2観測の反射率。○と×は左図中の記号と対応。

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AVNIR-2で見た2006年春から初夏の赤潮 - まとめ

衛星センサによる赤潮の観測では、広範囲の分布が一度に得られるというメリットがありますが、以下のような課題もあります。

  • 海面の「色」しか見えないので、種別や量を直接推定できるわけではない
  • 上空からの観測となるので、周囲の水色と赤潮の色の違いが小さい場合には判別しづらい
  • 海面のサングリントや上空のエアロゾルの状況によって見えづらくなる
  • 衛星センサの観測スケジュールや雲によって観測できない日がある

このうち1)については、多くの衛星観測データと現場の状況との対応関係を類型化することにより、衛星データからある程度の種類や量の情報を見積もることが可能となるかもしれません。2)と3)については、衛星観測で判別しづらい赤潮の種類やサングリントや大気の状態など衛星観測の得手不得手を予め知っておくことで、赤潮の誤認識を回避できると思われます。4)については、異なる空間解像度や観測頻度の複数の衛星データや現場データと組み合わせて用いることが重要だと思われます。

まだいくつかの課題はあるものの、今回試みたように、 AVNIR-2を始めとした衛星観測と現場の赤潮観測データを蓄積し、解析手法の検討を行なうことによって、赤潮の効果的なモニタリングや赤潮プロセスの解明へ繋がっていくことが期待されます。
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