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陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による2010年チリ地震にともなう緊急観測 (5)

2010年2月27日15時34分頃(日本時間、以下同じ)、チリ中部の沿岸(チリの首都サンティアゴの南西325km、深さ35km)を震源とするマグニチュード8.8の地震が発生しました(地震の規模及び位置については米国地質調査所(USGS)による発表を参照)。宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)は地震による被害状況を把握するため、3月14日13時頃に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による緊急観測を実施しました。本観測では2007年12月7日に取得した同じ軌道からの画像と比較し、地殻変動検出を実施しました。「だいち」は夜間に南から北へ飛行しながら、震央や大きな被害の報告された都市・コンセプシオンを含んだ領域を観測しました。なお、本解析には高精度軌道情報を使用しました。

青枠は図2で示すPALSAR観測領域を表します。赤い星印は本地震の震央位置を示しています。
図1: 全体図(数値標高データはSRTM3を使用)
図1: 全体図(数値標高データはSRTM3を使用)
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図2: (左)PALSAR差分干渉画像(地殻変動図)赤枠は図3で示す領域を表す
図2: PALSAR差分干渉画像(地殻変動図)赤枠は図3で示す領域を表す
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図2:(右)地震後のPALSAR強度画像
図2: 地震後のPALSAR強度画像
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地震に伴う地殻変動を検出するため、地震前後に取得したPALSARデータの差分干渉解析を行いました。図2左は地震前(2007年12月7日)と地震後(2010年3月14日)のPALSARデータから得られた差分干渉画像(地殻変動図)、図2右は地震後の強度画像を示したものです。図2左の差分干渉画像から、沿岸部に非常に多くの明瞭な干渉縞が確認でき、この領域で大きな地殻変動があった事が分かります(図3)。

図3は図2左中、コンセプシオンを含む沿岸部を拡大したものです。この画像内で少なくとも18周期(約2.1m)、コンセプシオンでもおよそ1.1mの衛星に近づく向きの(隆起もしくは西向きの水平変位を含む)地殻変動があったことが分かります。今回「だいち」による観測から、震央近くの沿岸部で2m以上の地殻変動が生じた事が明らかになりました。

JAXAでは今後も「だいち」によるチリ地震に関する観測を継続していく予定です。
図3: 差分干渉画像(地殻変動図、図2左中赤枠)の拡大図
図3: 差分干渉画像(地殻変動図、図2左中赤枠)の拡大図
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図4: これまでに実施した観測の結果
図4: これまでに実施した観測の結果
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(注1) パルサー(PALSAR):

フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ。衛星から発射した電波の反射を受信するマイクロ波レーダで、夜や曇天時も撮影が可能です。

(注2) 差分干渉処理:

PALSARは『2つのデータ取得時(例えば地震の前と後)における衛星-地面間の距離』に変化があった場合、それを高い精度で検出することが可能です。地震前後のデータを比較すると、地震によって発生した地面の隆起や沈降などの地殻変動は、衛星-地面間の距離の差となり、画像では干渉縞として表わされます。今回の画像にあるように、内陸から沿岸部に向かって、青→緑→黄→赤→青の変化は地面が衛星に近づくことを表わします。(※今回の観測では画像の西側から東側に向けて観測しているので、近づくすなわち西向きの水平変動もしくは隆起を意味します)。なお、色の一周期は11.8cm分の距離変化(地殻変動)を示します。

JAXA EORC