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「だいち2号」、「だいち4号」による2026年8月26日のネパール洪水・土砂災害の観測結果
概要
- 2026年8月26日(現地時間)、ネパール北部の中国との国境付近で大規模な洪水・土砂災害が発生しました。氷河を含む斜面崩壊との関連が指摘されており、下流の河川沿いに被害が広がりました。
- 「だいち2号」(ALOS-2)搭載の合成開口レーダ「PALSAR-2」が取得した災害前後の観測データを用い、地表面の変化を把握するためのカラー合成画像を作成しました。
- 災害前の画像を赤、災害後の画像を緑と青に割り当てることで、災害後に後方散乱強度が低下した場所を赤色で表示しています。この変化に着目し、土砂の流下・堆積などに伴う地表面の変化を調べました。
- (9月11日追記)「だいち4号」(ALOS-4)搭載PALSAR-3による災害前後の観測データを加えて被害状況把握と堰止湖の変化を調べました。
- (9月11日追記)また、「だいち4号」による災害前後の4偏波解析による建物被害状況について調べました。
はじめに
2026年8月26日(現地時間)、ネパール北部の国境付近で大規模な洪水・土砂災害が発生しました。ネパールにある国際総合山岳開発センター(ICIMOD)によると、大量の水や土砂、岩塊がボテコシ川・トリシュリ川水系を流下し、周辺地域に被害をもたらしました(ICIMOD*1)。米国地質調査所(USGS)は、国境付近の山岳地で発生した、氷河を含む急激な斜面崩壊が、今回の洪水・土砂災害の起点となった可能性を指摘しています。ただし、USGSの初期解析では、氷河の一部を巻き込んだ斜面崩壊であったのか、氷河自体の崩壊であったのかは明確ではないとされています(USGS*2)。
本記事では、「だいち2号」や「だいち4号」による災害前後の観測データから被害状況の把握を試みました。モンスーン期のヒマラヤは、雲に覆われることが多く、光学衛星による地表の観測が難しい場合があります。一方、「だいち2号」や「だいち4号」に搭載されている合成開口レーダ(SAR)は、夜間や雲に覆われた状況でも地表を観測でき(JAXA*3)、洪水や土砂災害に伴う地表面の変化を把握するうえで有効です。
図1に解析対象範囲を示します。

JAXAにおける解析例
1) 「だいち2号」災害前後のカラー合成画像による解析
| 観測日時(日本時間) | 衛星 | パス番号 | 観測モード | ビーム番号 | 軌道・観測方向 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026年1月30日15時20分頃(災害前) | だいち2号 | 49 | Stripmap 10m | F2-5 | 降交・右 |
| 2026年8月28日15時20分頃(災害後) | だいち2号 | 49 | Stripmap 10m | F2-5 | 降交・右 |
ここでは「だいち2号」が災害前の2026年1月30日と災害後の8月28日に取得したデータを用いた解析例を紹介します。表1に本解析で使用したデータを示しますが、これらのデータは無償公開されております(JAXA*4)。
図2、3は、災害前後のHH偏波の後方散乱強度画像を用いたカラー合成画像です。HH偏波は、水平偏波の電波を送信し、地表から戻ってきた電波の水平偏波成分を受信する観測方式です。
カラー合成では、「災害前の画像を赤(R)、災害後の画像を緑(G)と青(B)」に割り当てています。両時期に共通の明るさの表示条件を適用することで、①:赤色で災害後に後方散乱強度が低下した場所、②:水色で災害後に後方散乱強度が増加した場所、③:白・灰色・黒などの無彩色で両時期の後方散乱強度が近い場所、すなわち災害前後で変化が少ない場所を表しています。
図2-1は、斜面もしくは氷河崩落の発生箇所付近を拡大したものですが、崩落箇所から谷筋に沿って(図2-1では崩落箇所から左上方向)赤色や水色に見えるため、今回の崩落にともない削られた土砂や堆積した土砂があるものと推察されます。また図2-2は、図2-1を鳥観図表示したものですが、この谷筋に沿った変化がよく分かります。
図3は、崩落箇所から約80km下流の河川周辺を拡大した画像を示します。
河道の拡幅や土砂の流下・堆積が想定される場所と重なる赤色域は、今回の災害に伴って地表面の状態が変化した可能性を示しています。ただし、今回比較した画像は、2026年1月30日と8月28日に観測されたものであり、約7か月の間隔があるため、季節的な変化や別の出水・土砂移動などによる変化も含まれる可能性があります。光学衛星画像や現地情報などと併せて、今後さらなる詳細な解析が必要です。
2) 「だいち2号」と「だいち4号」災害前後のカラー合成画像による解析
| 観測日時(日本時間) | 衛星 | パス番号 | 観測モード | ビーム番号 | 軌道・観測方向 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026年7月6日15時13分頃 | だいち4号 | 48 | Stripmap 3 m(UWD) | 01(サブビーム09) | 降交・右 |
| 2026年8月28日15時20分頃 | だいち2号 | 49 | Stripmap 10 m(FBD) | F2-5 | 降交・右 |
| 2026年8月31日15時13分頃 | だいち4号 | 48 | Stripmap 6 m(HBQ) | 08(サブビーム09) | 降交・右 |
図4は、「だいち4号」が取得した国境検問所付近の災害前後の観測データを用いたカラー合成画像です。災害前の画像を赤、災害後の画像を緑と青に割り当てており、災害後に後方散乱強度が低下した場所は赤色で示されます。災害前の7月6日の画像では、国境検問所の建物に対応する場所に強い後方散乱が見られます。一方、災害後の8月31日の画像では、同じ場所の後方散乱強度が低下しています。この変化は、報道されている建物の流失と整合しています。また、さらに下流(図4では下側)の河川沿いにもいくつか赤色に見える箇所があります。これらも同様に、建物被害が発生した可能性が高いと推察されます。
図5は、8月28日の「だいち2号」と8月31日の「だいち4号」から見付けられた堰止湖付近の拡大画像を示します。8月28日の画像では、崩落した土砂によって河川がせき止められ、その上流側に堰止湖(画像中、黒く見える範囲)が形成されている様子が確認されました。8月31日の画像では、この大きさは小さくなっており、3日間で約75%縮小したと推定されました。「だいち2号」と「だいち4号」の観測を組み合わせることで、災害直後の状況に加え、その後数日間における変化を捉えることができます。
3) 「だいち4号」災害前後の4偏波解析による結果
| 観測日時(日本時間) | 衛星 | パス番号 | 観測モード | ビーム番号 | 軌道・観測方向 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026年7月20日6時13分頃(災害前) | だいち4号 | 48 | Stripmap 6m (フルポラリメトリ) | 08(サブビーム09) | 降交・右 |
| 2026年8月31日6時13分頃(災害後) | だいち4号 | 48 | Stripmap 6m (フルポラリメトリ) | 08(サブビーム09) | 降交・右 |
図6、7は「だいち4号」で発災前後に取得された4偏波観測データ(HH、HV、VH、VV)を用いた解析結果例で、今回の対象領域から2か所を拡大したものです。「だいち2号」や「だいち4号」の多偏波観測モードでは、H偏波(水平偏波)を送信してH偏波とV偏波(垂直偏波)を同時に受信し、続いてV偏波を送信してH偏波とV偏波を同時に受信することで4つの観測量を取得することができます。反射電波は地表の物体の形状によって散乱特性が異なり、例えば、水面や裸地では表面散乱、建物と地面からなる直角構造からは二回反射散乱、森林や植生領域では体積散乱が生じます。4偏波観測データはこれらの散乱特性の違いをとらえることができるため、建物や森林、水面といった土地被覆状態を識別することが可能です。
図6、7のカラー合成画像では、表面散乱を青、二回反射散乱を赤、体積散乱を緑に割り当ててカラー合成しています。つまり、赤い点は建物が存在していることを意味します。図6左の災害前と右の災害後の画像を比較すると、画面中央付近の赤い領域が災害後には一部消失しており、建物が倒壊または流出した可能性があることを示唆しています。図7も同様に、災害前には画像の左側に見えていた赤い領域が、災害後には一部消失していることが確認できました。このように、4偏波観測データを用いることで災害前後の変化だけでなく、その被害状況も推察できることが示唆されます。
JAXAでは引き続きこの地域の観測を継続する予定です。





