陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)による平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震の緊急観測結果について(4)

平成20年6月14日(日本時間、以下同じ)に岩手県南西部で発生したマグニチュード7.2(気象庁発表)の地震(岩手・宮城内陸地震)による被害状況を把握するために、宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)は、平成20年6月23日(21:00頃)に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による現地の緊急観測を実施しました。この観測データについて、平成20年3月23日および平成19年6月21日に取得した過去の同じ軌道からの画像を使用し、災害前後の画像の比較による変化の抽出を行ないましたのでお知らせいたします。

図1: 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)により平成20年3月23日に取得した画像を水色(青+緑)、地震後の同6月23日に取得した画像を赤に割り当てたカラー合成画像

図1: 全体図
水色: 地震前(平成20年3月23日)、赤: 地震後(同6月23日)の色合成画像
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図1は、平成20年3月23日に取得した画像を水色(青+緑)、地震後の同6月23日に取得した画像を赤に割り当てたカラー合成画像です。合成開口レーダの画像では土砂被災域は明るく写る傾向があり、図1では地震後の画像を赤色に割り当てているため、地震によって生じた土砂崩れは赤色に表示されます。また水面などは暗く写る傾向があり、地震により生じた堰止湖や川の増水箇所は、地震前の画像(水色)で明るかった部分が地震後の画像(赤)で暗くなるため、この図では水色で表示されます。震央付近を中心に、土砂崩れや河道閉塞、それにともなう堰止湖など多くの変化が検出されました。
なお、平野部(画像右上付近の暗い領域)が全体的に水色に見えるのは、2つの画像が田植えの時期を挟んでおり、地震後の画像で水田が冠水して水面となっているためです。また、栗駒山の山頂付近など標高の高い地域が赤く表示されているのは、地震前の画像(3月23日)で積雪があった影響によるものです。それ以外の、局所的(十メートル〜数百メートルの大きさ)に色がついた領域は、地震による何らかの変状を示していると考えられます。


図2:宮城県栗原市の荒砥沢ダム北西側(図1内の白枠1)の拡大図(左: 地震前、右: 地震後)です。地盤が広い範囲にわたって崩落しており、この画像からその面積は約1平方キロメートルと推定されます。また、崩落域の西側には堰止湖が出現していることが分かります。

図2: 荒砥沢ダム北西側(図1内の白枠1)の拡大図 左: 地震前、右: 地震後
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図2は宮城県栗原市の荒砥沢ダム北西側(図1内の白枠1)の拡大図です。地盤が広い範囲にわたって崩落しており、この画像からその面積は約1平方キロメートルと推定されます。また、崩落域の西側には堰止湖が出現していることが分かります。

図3:荒砥沢ダムの北に位置する駒ノ湯温泉付近(図1内の白枠2)の拡大図です。円で示した領域で大規模な山体崩壊が発生しています。

図3: 駒ノ湯温泉付近(図1内の白枠2)の拡大図 左: 地震前、右: 地震後

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図3は荒砥沢ダムの北に位置する駒ノ湯温泉付近(図1内の白枠2)の拡大図です。円で示した領域で大規模な山体崩壊が発生しています。合成開口レーダの画像では、山などの、高さのある物体は衛星方向(図では左側)に傾いて見える性質があり、山体崩壊によって山の稜線が陥没すると逆に稜線が衛星と反対方向(図では右側)へ移動して見えます。この移動量から、この山体崩壊で山の稜線が約60メートル落下したと推定されました。

図4:荒砥沢ダムの西に位置する湯の倉温泉付近(図1内の白枠3)の拡大図です。多数の山体崩壊やがけ崩れの様子が示されています

図4: 湯の倉温泉付近(図1内の白枠3)の拡大図 左: 地震前、右: 地震後
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図4は荒砥沢ダムの西に位置する湯の倉温泉付近(図1内の白枠3)の拡大図です。多数の山体崩壊やがけ崩れの様子が示されています。

図5:震源に近い磐井川・矢櫃ダム付近(図1内の白枠4)の拡大図です。赤枠で示した領域では大規模な土砂崩れが起きており、上流の水面(暗い領域)が拡大していることから、ダムの水位が上昇していることが分かります。

図5: 矢櫃ダム付近(図1内の白枠4)の拡大図 左: 地震前、右: 地震後
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図5は震源に近い磐井川・矢櫃ダム付近(図1内の白枠4)の拡大図です。赤枠で示した領域では大規模な土砂崩れが起きており、上流の水面(暗い領域)が拡大していることから、ダムの水位が上昇していることが分かります。

図6:荒砥沢ダムの北に位置する駒ノ湯温泉付近(図1内の白枠2)の拡大図です。円で示した領域で大規模な山体崩壊が発生しています。

図6: 栗駒山中腹のがけ崩れ(図1内の白枠5) 左: 地震前、右: 地震後(崩れ領域を丸で囲む)

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図6は栗駒山中腹のがけ崩れの様子(図1内の白枠5)を示しています。本年3月23日に取得されたデータでは積雪の影響で地表の変化の抽出が難しいため、ここでは昨年の同じ時期(平成19年6月21日)に取得された画像との比較を行ないました。

図7:地震後の画像(平成20年6月23日)と、昨年の同じ時期の画像(平成19年6月21日)との比較で、画像の明るさ(後方散乱係数)が大きく変化した部分に、その度合いに応じて緑、黄色、赤(赤が最も変化が大きい)の色をつけたものです(背景の白黒画像は地震後の振幅画像)。

図7: 地震前後の画像の差による変化抽出マップ
色は、地震前後で画像の明るさの変化が大きい領域を示しています。(赤が最も変化が大きい)
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図7は、地震後の画像(平成20年6月23日)と、昨年の同じ時期の画像(平成19年6月21日)との比較で、画像の明るさ(後方散乱係数)が大きく変化した部分に、その度合いに応じて緑、黄色、赤(赤が最も変化が大きい)の色をつけたものです(背景の白黒画像は地震後の振幅画像)。このような変化箇所マップを作成することにより、被災箇所をすばやく発見することができます。

JAXAでは今後も「だいち」による岩手・宮城内陸地震被災地の観測を継続していく予定です。

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