地球が見える 2005年
合成開口レーダで森林を見る
図1は、航空機搭載合成開口レーダPi-SAR(*1)によるLバンドの波長(23.6cm)の電波で見た、北海道苫小牧市北西部に広がる森林の様子です。この付近は国有林や北海道大学の演習林などがあり、カラマツ、アカエゾマツ、エゾマツ、トドマツをはじめとする針葉樹や、他の広葉樹などが、画像内に見られる四角の領域に、それぞれ植えられています。また、画像左上には支笏湖、右上に新千歳空港が写っており、右下が苫小牧市街地方面になります。
合成開口レーダでは、電波をアンテナから地表に向けて斜めに放射し、戻ってきた電波をとらえることで、地表の状態を画像にしています。電波センサは光学センサと異なり、雲を透過して地表を観測する事が可能で、天候や昼夜に関係なく、データを取得する事が出来ます。地表が空地やアスファルト面、水面などの場合、電波はアンテナの方向に戻ってこないために、画像では暗くなります(図2)。一方、地表に森林がある場合、電波は樹木と相互作用を起こして、その一部はアンテナの方向に電波を返します。その返ってくる量が、木の種類や数によって変わってくるため、森林を見た場合、図1の合成開口レーダで得られたカラー画像(“観測画像について“参照)では、異なった色を示します。また、木の生えていない空地などでは、電波がアンテナの方向に返らないため、図1で見られるように画像で暗く写ります。このようなLバンド合成開口レーダの性質を利用する事で、森林が伐採された場所の検出や、森林の樹木の量(バイオマス)を調べる研究が行われています。
この森林では2004年9月7日に北海道を襲った台風18号の強い風によって倒木が起こりました(*2)。図4の画像内のエリアでは、ほとんどの樹木が倒木しており、倒木や伐採によって、SARの画像全体が図3に比べて暗くなっている事が分かります(空地内でピンク色に明るく写っているのは、実験用の校正機器(コーナーリフレクタ)が置かれているためです)。また、図4右上の赤枠内は、倒木後、樹木が片付けられて空地になった場所で、図5はその現地写真です。 JAXAが今秋打ち上げる予定の陸域観測技術衛星ALOSでは、同タイプの合成開口レーダが搭載されることから、日本だけではなく、世界の主要な森林を調べる事などが計画されています。 苫小牧での研究は、国立環境研究所の協力の元で行われています。 (*1) Pi-SARは、情報通信研究機構(NICT)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が1997年より共同で、開発/運用している航空機搭載合成開口レーダのことを言います。Pi-SARは、NICTが担当しているXバンド合成開口レーダとJAXAが担当しているLバンド合成開口レーダから成り、いずれも多偏波で同時観測できる機能を持ちます。Pi-SARの詳細や他の観測画像についてはこちらをご覧ください。 (*2)この地域の森林は、1954年(昭和29年)9月25〜27日の台風15号(洞爺丸台風)による強風のために広い範囲にわたって倒木が起こり、壊滅状態になりましたが、その後の植林などで、現在の姿になったということです。
関連サイト: 西表島のマングローブ林を合成開口レーダで見る Pi-SAR L-band画像データアーカイブ |