地球が見える 2004年
AMSR-Eで見えた黒潮大蛇行
AMSR-Eが黒潮大蛇行を捉えました。図はAqua衛星搭載のセンサAMSR-E(*1)が観測した、2004年8月4日〜8日の5日間平均の本州南方海域の海面水温を表しています。オレンジから赤で示された水温26℃以上の高水温域の北限がほぼ黒潮の流れに相当しますが、紀伊半島沖から東海沖にかけて黒潮がU字型に蛇行し、南側に大きく離岸している様子がよくわかります。気象庁は8月4日、昨年末に九州の東の海域で発生した黒潮の小蛇行が徐々に東へ移動し、東海地方沖で本州から大きく離岸する「大蛇行型流路(*1)」になったと発表しました。13年ぶりの大蛇行となる可能性が高く、潮位の上昇や、漁業への影響が懸念されています。
大蛇行が起こると、黒潮がU字形に流れている内側に反時計回りの円形の流れができ、渦巻きで外側の水位が高くなるのと同じように、周辺の海面の高さ(潮位)も上昇します。大蛇行が続く間は潮位上昇も続くため、大潮( *3)と重なると、沿岸域の低地では浸水に注意が必要で、さらに台風の際には高潮も起きやすくなります。愛知・静岡両県の水産試験場の魚海況情報によると、今年は東海沖ではシラスやサバが不漁、逆に御前崎沖では通常は取れないカツオが取れているという報告があり、大蛇行との関係について調査が進められています(*4)。このように 黒潮の流路や位置の情報は、船舶の安全で経済的な航行に利用されるだけでなく、沿岸防災や漁業にとっても非常に重要です。 今回の黒潮大蛇行は、気象庁の発表では今後数ヶ月は継続すると予想されています。宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 地球観測研究ンター (EORC)では、今後も海面水温の分布を衛星から観測することで、黒潮の動向を監視していきます。最新観測画像については 黒潮モニターのページをご覧ください。 (*1) AMSR-Eは、地表や大気から自然に放射される微弱な電波を複数の周波数帯で高精度に観測し、地球の水循環を解明するために必要なデータを取得するマイクロ波センサです。マイクロ波センサは、光学センサと異なり、昼夜の別なく、また雲に影響されることなく常に観測を行うことができるため、黒潮の動向を継続的に監視することが可能です。 (*2) 黒潮の流路などの一般的な説明については、過去のトピックス「黒潮のゆくえを追う」で紹介しています。 (*3) 地球上の海水は、月や太陽の引力によって移動しており、特に月の影響を大きく受けます。月の引力によって、海水が引き寄せられたところは潮位が上がり、満ち潮(満潮)となり、海水の少なくなるところは潮位が下がり、引き潮(干潮)となります。地球と月、太陽が一直線上に並ぶと(満月や新月の時)、海水は「月の引力+太陽の引力」の二つの力で引き寄せられることになり、この状態になると、通常よりも多くの海水が引き寄せられ、満ち潮と引き潮の差が一番大きくなります。これが大潮です。 (*4) 原因としては黒潮流路が沿岸に接近したり離岸したりすることによって、魚の分布海域が小さくなったり、回遊路が変化してしまったり、また、蛇行部分と本州南岸との間に海中から冷たい水がわき上がって水温の低い部分(冷水塊)が発生し、漁場が変わったりすること等が考えられています。
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