PR推定降雨量(実線)とTMI推定降雨量(点線)の帯状平均値での比較。 期間は 1998年2月から12月の11ヶ月間。 バージョンによって、線の色が異なる。海上(上図)と陸上(下図)に分けて比較を行った。
世界中の降雨を計測するためのPRによる地上降雨強度推定アルゴリズムは大きな発展を見た。 PRはKバンドの13.8GHzという周波数の電波を使っており、CバンドやSバンドの周波数を使う地上レーダとは異なる。 そのため、宇宙からのレーダ降雨強度推定アルゴリズムという新しい分野が開けた(中村、 2007)。 アルゴリズムの開発には井口俊夫博士(NICT)ら多数の日本人が大きな寄与をなしており、開発されたアルゴリズムによって推定された降雨強度はPRの標準降雨プロダクト(2A25/3A25)として採用されている。
TRMMにはマイクロ波放射計(TMI)も搭載されている。 マイクロ波放射計単独のアルゴリズムはC.Kummerow教授(コロラド州立大学)らによって開発されたNASA GSFCによるGPROF(Goddard profiling)アルゴリズムがよく知られており、それによる降雨強度がTMIの標準降雨プロダクト(2A12/3A12)に採用されている。 TRMMでは、PRはcross-track走査、TMIはconical走査、と異なるため最大で1分程度の時間差があるが、実質上ほとんど同時に同じ降雨システムの観測が行われる。 TMIとPRとではマイクロ波電波を用いるが、TMIは受動型、PRは能動型であり、異なる物理量を測定する。 またTMIに比べて高いPRの距離分解能力による降雨システムの3次元構造の観測は、TMIの降雨推定精度の向上に大きく寄与した。
図は海上、陸上それぞれで、1998年2月から12月の11ヶ月間で平均した、PRからの推定降雨量(3A25)とTMIからの推定降雨量(3A12)の比較である。 アルゴリズムのバージョンアップが活発になされ(2015年2月で最新はVersion 7)、バージョンがあがるごとに、PRでは増加し、TMIでは減少することで、特に海上で、両者の値が近づいていくことがわかる。 これはTRMMでの複数センサによる同時観測により、それぞれの降雨推定アルゴリズムにおける仮定の問題点が明らかになり、アルゴリズムの大幅な改善が進んだことを示している。