しかし、NICT の長年の研究によって、大出力送信管の寿命達成に目処が立ち、JAXA がおこなっている、94GHz 帯の衛星搭載観測センサとしては世界最大の直径2.5m を誇るアンテナの開発にも目処が立ちました。これにより、従来の衛星搭載雲レーダの約10 倍の高い感度での観測を実現することが可能になりました。この温室・冷却効果の程度は、多層になっている雲の厚さや高さ、構成する雲粒の大きさ、形、水分量などによって変わります。
一方、ヨーロッパが開発する大気ライダは、雲プロファイリングレーダでは観測できない、さらに直径の小さなエアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)や非常に薄い雲を観測します。ライダもレーダと同じく距離方向の観測情報を得ることができる装置です。このライダと雲レーダを組み合わせることによって、大きさの違う雲粒とエアロゾルがどの範囲に、どの高さに広がっているかを同時計測し、雲とエアロゾルの三次元構造を明らかにします。
先にも述べたように、EarthCAREの雲プロファイリングレーダは世界で初めて雲の上昇・下降速度の情報が地球全体の規模で得られるようになります。一般的に、成長中の雲は上昇気流や浮力を得ることによって上昇し、十分に成長すると雲は浮力を失い、重くなった粒子が重力に引きずられて落下します。つまり、雲粒子の鉛直運動は雲の成長過程と強い結びつきがあることが知られつつも、これまで雲の鉛直運動に関する観測は、地上の限られた地域にしか存在していませんでした。
また、EarthCARE衛星は雲とエアロゾルを同時観測することを前提に設計されています。これは、雲とエアロゾルが密接に関係するためです。雲粒子は、水蒸気がエアロゾルと接触し、水蒸気が水や氷の粒子になる(凝結する)ことで生成されます。さらに、雲の中にエアロゾルが取り込まれると、液体の水で構成された雲は粒子の大きさが小さくなったり、逆にエアロゾルの種類によっては、(水と氷の雲粒子が混ざった雲では)氷粒子の成長が促されたりと、雲自体の性質が複雑に変化します。
雲プロファイリングレーダと大気ライダを同時搭載するEarthCARE計画では、雲の鉛直構造だけでなく、雲の生成・消滅の過程や雲とエアロゾルの相互作用などについて新しい科学的知見が得られることが期待されています。このような雲の鉛直運動を含む情報は、これまで地球規模での観測データが不足し、科学的理解が十分でなかったことから、雲の鉛直運動が数値モデル適切に表現されていなかったため、気候変動予測をおこなう際に大きな誤差を生む要因となっていたものです。EarthCAREから得られる観測データは、気候変動の予測にもちいる数値モデルの飛躍的な精度向上に貢献します。