EarthCAREの役割
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地球温暖化への雲・エアロゾルの影響を調べる

雲のない冬の夜と空一面が厚い雲に覆われた冬の夜では気温の下がり方が違うように、雲は地球表面や大気の温度変化と密接に関係しています。雲は、陸や海から上空に放射される熱を一度吸収し、一部を地球に戻すことで地表面を温める効果がある一方で、太陽光を反射して地球を冷やす効果もあります。この温室・冷却効果の程度は、多層になっている雲の厚さや高さ、構成する雲粒の大きさ、形、水分量などによって変わります。

EarthCARE衛星の観測の様子

EarthCARE衛星の観測の様子

例えば、上空の高い位置にある雲は地上を温め、低いところにある雲は地上を冷やす方向に働くことが知られています。 また、エアロゾル自体も太陽からの光を反射したり吸収したりする特性がある上、エアロゾルがあるかないかで雲の性質も大きく変わります。例えば、エアロゾルが多いところでできた雲と、少ないところでできた雲では、雲ができて消えるまでの時間(寿命)や、反射や吸収といった光学的な性質や雲粒のサイズといった物理的な性質などがそれぞれ違います。

しかし、これまで雲やエアロゾルの立体構造を高精度に全球的な観測が非常に限られているため、これらの現象がどうして起きるのかが科学的に解明されていません。雲はその大きさが数km~数百kmにもおよぶことがあることから、地上からの観測だけでは地球全体に出現する雲全体を詳細に観測することができなかったのです。

EarthCARE は、このような雲・エアロゾルを衛星によって地球規模で観測することによって、それらが地球温暖化にどのような影響を与えるのか、地球全体の気候の仕組みとどうつながっているのかを明らかにします。
上空高いところの雲と地面付近の雲

上空高いところの雲と地面付近の雲

雲・エアロゾルを詳細に観測し、気候変動予測モデルの精度向上に貢献する

雲やエアロゾルが地球の放射収支(太陽放射や地球放射によるエネルギーバランス)に与える影響を知るには、これまで観測データが少なかった地球全体の雲・エアロゾルの詳細な鉛直情報を蓄積することが重要です。

JAXAと情報通信研究機機構(NICT)が共同で開発する雲プロファイリングレーダは、94GHzの高い周波数の電波を使って、雲粒の大きさや水分量、雲の鉛直構造を観測します。さらに、衛星観測として史上初めて、地球全体の雲粒の上昇速度や下降速度なども測定し、雲の中の対流の様子を明らかにします。

レーダとは、対象物の有無や状態だけでなく、その距離も探知することができる装置です。雲のようなたくさんの小粒子からなる対象の場合、レーダの電波は雲の内部にまでもぐり込み、距離に応じて対象(雲粒)の情報を信号として返します。すなわち、どの距離にどれだけの雲粒があるかという断面的な情報が得られることから、雲の内部構造を計測することが可能なのです。衛星搭載雲プロファイリングレーダの場合はレーダを宇宙から地表に向かって真下に向けることから、雲がどの高度にどのような雲粒子で構成されているか、鉛直方向の内部情報を得ることができます。

雲粒は直径が小さいため、高い周波数の電波でなければ観測できません。そのためには電波を大出力で発信できる送信管と大型で鏡面精度の高いアンテナが必要です。しかも、ミッション実施予定の3年間、連続してずっと電波を出し続けなければならず、これまでは技術的に開発が困難とされてきました。

日本が開発する雲プロファイリングレーダの外観

日本が開発する雲プロファイリングレーダの外観

しかし、NICT の長年の研究によって、大出力送信管の寿命達成に目処が立ち、JAXA がおこなっている、94GHz 帯の衛星搭載観測センサとしては世界最大の直径2.5m を誇るアンテナの開発にも目処が立ちました。これにより、従来の衛星搭載雲レーダの約10 倍の高い感度での観測を実現することが可能になりました。この温室・冷却効果の程度は、多層になっている雲の厚さや高さ、構成する雲粒の大きさ、形、水分量などによって変わります。

一方、ヨーロッパが開発する大気ライダは、雲プロファイリングレーダでは観測できない、さらに直径の小さなエアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)や非常に薄い雲を観測します。ライダもレーダと同じく距離方向の観測情報を得ることができる装置です。このライダと雲レーダを組み合わせることによって、大きさの違う雲粒とエアロゾルがどの範囲に、どの高さに広がっているかを同時計測し、雲とエアロゾルの三次元構造を明らかにします。

先にも述べたように、EarthCAREの雲プロファイリングレーダは世界で初めて雲の上昇・下降速度の情報が地球全体の規模で得られるようになります。一般的に、成長中の雲は上昇気流や浮力を得ることによって上昇し、十分に成長すると雲は浮力を失い、重くなった粒子が重力に引きずられて落下します。つまり、雲粒子の鉛直運動は雲の成長過程と強い結びつきがあることが知られつつも、これまで雲の鉛直運動に関する観測は、地上の限られた地域にしか存在していませんでした。

また、EarthCARE衛星は雲とエアロゾルを同時観測することを前提に設計されています。これは、雲とエアロゾルが密接に関係するためです。雲粒子は、水蒸気がエアロゾルと接触し、水蒸気が水や氷の粒子になる(凝結する)ことで生成されます。さらに、雲の中にエアロゾルが取り込まれると、液体の水で構成された雲は粒子の大きさが小さくなったり、逆にエアロゾルの種類によっては、(水と氷の雲粒子が混ざった雲では)氷粒子の成長が促されたりと、雲自体の性質が複雑に変化します。

雲プロファイリングレーダと大気ライダを同時搭載するEarthCARE計画では、雲の鉛直構造だけでなく、雲の生成・消滅の過程や雲とエアロゾルの相互作用などについて新しい科学的知見が得られることが期待されています。このような雲の鉛直運動を含む情報は、これまで地球規模での観測データが不足し、科学的理解が十分でなかったことから、雲の鉛直運動が数値モデル適切に表現されていなかったため、気候変動予測をおこなう際に大きな誤差を生む要因となっていたものです。EarthCAREから得られる観測データは、気候変動の予測にもちいる数値モデルの飛躍的な精度向上に貢献します。