サイエンスプログラム - ALOSの構想とその背景


ALOSサイエンスおよび利用化研究推進プログラム(ver.2)

はじめに
ALOSから得られるさまざまなデータプロダクトは、さまざまな分野のサイエンスの発展に大きな貢献をすることが期待されている。また、自然資源管理や災害モニタリング、被害の軽減、地域開発計画の策定など、多くの実利用分野に対してもきわめて有効に利活用できると考えられる。
本サイエンス及び利用化研究推進プログラムは、比較的近い将来の実利用化をめざした「利用化研究」、サイエンスへの貢献を目的とした「科学研究」の二つの研究カテゴリーを対象に、ALOSデータから作成すべきデータプロダクトとそのためのアルゴリズムの開発について、研究開発目標を設定している。同時に、目標達成のための宇宙開発事業団の研究開発活動、研究開発支援活動に関する計画を定めている。

ALOSの構想とその背景

1) 多様化する地球環境問題
これまで、地球環境問題に関する議論の多くは温室効果ガスによる地球温暖化のインパクトの予測・評価と防止に向けられてきた。一つの国から排出される温室効果ガスがたちまち拡散し、全球的な規模で影響を与えるという点において、気候変動はきわめてわかりやすい「地球」規模の環境問題である。
しかし、地球環境問題は、気候の変動だけでなく(場合によっては気候変動と関わりなく)、食糧問題に代表されるような資源問題としての側面も有している。突然、地球規模の飢餓が起こることはありそうにないが、主要穀物の生産不足や価格の高騰がまず脆弱な地域に大きなプレッシャーを与え、波及的に世界システムを不安定化する可能性がある。
たとえば、アフリカで頻発している内戦などにおいても土地資源の劣化や水資源の不足に伴う恒久的な貧困がその根底にあり、さらに戦乱による荒廃が輪をかけて、多量の難民などを発生させている。こうした土地・水に起因する資源問題は世界システムの不安定化などをを引き起こす可能性があることから、まさにグローバルに共通な重要課題であるといえよう。
しかし、食糧の生産基盤の強化や脆弱性の改善のためには、土地や水、植生などに関する「ローカル」な情報収集の積み重ねが必要である。また、生物多様性の維持に代表されるように、生態系の保全や遺伝子資源の保護も重要な地球レベルの課題と認識されはじめている。これにも同様にローカルな情報のグローバルな積み重ねが必要とされる。
すなわち「グローバルな問題を扱うためには、解像度の粗いデータで十分」というのではなく、地域スケールでも十分使える高精度なデータがグローバルスケールで必要なのである。そしてそれは技術的に十分可能になりつつある。

2) Think globally and act locally---地域のニーズと調和した地球環境対策の実現
京都議定書に象徴されるように地球環境問題は、その影響の大きさの評価や発生メカニズムの解明だけが議論される段階から、対策の立案と合意形成、実現戦略が議論される段階へと移りつつある。
温室効果ガス排出の抑制に限っていえば炭素排出税や排出権取引、省エネ技術開発などに加え、炭素蓄積・固定のための森林保全等が有効な対応策として考えられている。森林保全・再生といった政策は、地域に密着し直接的な利害関係が生じると考えられることから、円滑かつ効果的に実施するためには、地域のニーズと調和させることが不可欠である。地域の住民などが大きな不利益を被るグローバルな政策は「持続可能」ではない。
結果として、グローバルな視点からの政策を実現するために当該地域のローカルなデータが必要となる。特に土地や水資源の保全や持続的な利用による食糧生産の安定化や災害リスクの軽減、あるいは生態系の保全による種の多様性の維持といった目標は、まさにそれぞれの地域で行われてきた地域計画・管理本来の政策課題そのものである。
このようにグローバルな視点からの要求と地域のニーズを調和させた、実現可能な政策立案のために、グローバルなカバレッジを持ち、ローカルなニーズも検討に反映することのできる詳細な地域データが必要となる。

3) 地理情報システム(GIS)の普及
今日、多くの地域計画・開発の現場で地理情報システムの利用が本格化しつつある。地域計画や管理には、様々な情報をつきあわせた総合的な判断やシミュレーション(思考実験)による裏付け・評価が必要であり、数値地図を媒介として環境・資源、人間活動などに関する情報を統合することを可能にするGISは、不可欠なツールであるといえる。
しかし、現在、地域の計画や管理において特に慎重な検討を必要とする開発途上の多くの地域については、地形・植生といったきわめて基本的なデータですら、GISで管理すべきデータが存在しないか、あるいはあっても国防上の理由などにより公開されないことがきわめて多い。逆に言えば、受け皿となるGIS環境の整備が急速に進みつつあることを考えると、GISで利用できる新鮮な情報を円滑・効率的に流通させることができれば、その波及効果はきわめて大きいと期待される。特に、どんな利用にも不可欠な地形などの基礎情報(空間データインフラと呼ばれることが多い)の提供が望まれている。
こうしたGISの普及はさらに、一般の利用者がかなり強力なデータ処理能力を持ち始めていることも意味する。必要なソフトを添付し、最新の入力パラメータがネットワーク経由で簡単に入手できるようにするなど、利用者の処理しやすい形でデータを提供すれば、データ処理のある部分をを利用者に任せることも可能になると考えられる。また、高次処理を進めるためのソフトウェアも、広く配布することでデータの有効利用を進めることが可能になる。

4) ALOSの構想
食糧生産問題や水資源問題、災害問題、生物多様性の問題などローカルでありながらグローバルな視点からの調整や支援が必要な課題の解決を促進するためにはどのような情報を整備することが必要であろうか?
こうした問題の基礎にあるのは、土壌、水循環、植生(森林から農地まで)の現状とその変化に関する情報である。土壌の質そのものに関する情報は衛星リモートセンシングからとらえることは容易ではないが、土壌浸食などによる土壌劣化の危険性は、多くは気候的要因、地形的要因により左右される。また水循環や植生についても、気候、地形的な要因が支配的である。災害についても同様のことがいえる。もちろん、これらに加えその地域を人間がどのように利用しているか、という土地利用的な情報が不可欠である。
気候データは衛星リモートセンシングの直接の観測対象ではないので除くと、以上のような情報のベースは、いわゆる地形図であろう。図・1は大陸別に地形図の整備状況を整理したものである。これによると、最も縮尺の大きな1:1000から1:31,600の領域ではアフリカやアジアなどの発展途上地域を多く抱える大陸で非常に整備率が低いことがわかる。実はこの領域の地形図、特に(わが国での言い方に従えば)1:25,000に対応する程度の地形図は、国から地域スケールの環境計画・資源管理計画、開発計画などに不可欠な情報源であり、ODAなどによる途上国援助などにおいても中心的な役割を果たしている。
これまでこうした縮尺の地形図、そしてそれに対応するGISデータは、プロジェクトのために必要最低限構築されるか、あるいは古い紙地図をそのまま利用する、衛星画像で代用する等の応急処置によりカバーされてきた。そこで、衛星から効率的に取得できるデータという観点から、ALOS(Advanced Land Observation Satellite) は以下のようなミッションを掲げた。

図1:大陸別に見た地形図整備の状況
図1 大陸別に見た地形図整備の状況
(出典:United Nations,"World Cartography vol. XX" 1990)

(1) 全球スケールでの地形図(空間データ基盤)の作成・更新を行う。
特に地形標高を精度5m以下、グリッド間隔にして10m程度で面的に計測する(ほぼ1:25,000地形図に対応)ことを目標とする。地形標高は画像からの計測技術が比較的確立しており、また変化が少ないことから衛星による計測が有利である。さらに地形標高データに高分解能な光学センサ、合成開口レーダデータを重ね合わせることにより、植生や土壌に関する情報を一体として提供できる。標高データが完成した地域に関しては、地表面変化に焦点をあてた観測を行うことができる。なお、こうしたデータはグローバルスケールの空間データ基盤を構成する。

(2) 地域観測を通じて世界各地域の「持続可能な開発」を支援する。
上記のグローバルな空間データ基盤以外に、衛星画像から抽出されるさまざまな環境・資源情報を提供することにより、地域レベルでの環境・資源の保全・管理や持続的な開発・利用を支援する。

(3) 国内外の大規模災害の状況把握を行う。
干ばつや火山噴火、洪水などの突発的な災害は持続的、安定的な地域開発に対して、致命的な影響を与えることが少なくない。既に利用可能となっているさまざまな衛星や災害モニタリングシステムと一体となって、災害状況に関するデータの収集・提供を行う。

(4) 国内外の資源探査を行う。
土地・水資源などのモニタリングに加えて、鉱物資源などの探査に役立つ情報を提供し、地域開発を支援する。

(5) 将来の地球観測に必要な技術開発を行う。
ALOSは全球のデータを基本的に漏れなく収集することを目的とした高分解能衛星としてはほぼ唯一のものであり、センサー開発技術や取得データ処理技術にチャレンジングな研究・開発課題が多い。またこうした技術は次世代の地球観測技術に大きなインパクトを与えると考えられることから、技術開発プロジェクトとしての意義も大きい。