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陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)初期機能確認期間中の観測画像について(その4・アイスランド編)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、現在、2014年5月24日に打ち上げた陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)の初期機能確認試験・各センサの校正・検証作業を実施中です。同衛星の観測データは、災害発生時の状況把握や森林伐採の監視、オホーツクや極域の海氷観測などに貢献することが期待されています。

今後は随時、「だいち2号」に搭載されたLバンド合成開口レーダ (PALSAR-2)により、初期機能確認期間中に取得された画像の一部を紹介します。今回は、2014年8月9日から9月11日(UT(世界時)、以下同じ)にかけて、高分解能[10m]モードおよび広域観測モードで観測されたアイスランドの紹介です。

「だいち2号」観測データの品質を向上させるため、今後も引き続き校正・検証を行っていきます。観測データの一般利用者への提供は11月下旬を予定しています。

※PALSAR-2は、地殻変動や地球環境の監視に適したLバンドの周波数を用いた衛星搭載の合成開口レーダとしては世界唯一のもので、昼夜や天候によらず地表の画像を取得することができます。

以下の各図は、「だいち2号」(ALOS-2) に搭載されたLバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)の試験電波発射により取得された観測画像です。

アイスランドのバルダルブンガ火山では、2014年8月頃から火山性地震が多く発生しており、8月29日に噴火が確認されました。今回は、このバルダルブンガ火山を中心にPALSAR-2センサで観測された画像を紹介いたします。

図1に、観測範囲を示します。図中の青枠の範囲が広域観測(350km)モード(図2)、赤枠の範囲が高分解能(10m)モード(図3・図4)の観測範囲です。
図1: 観測範囲図

図1: 観測範囲図
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図2は、2014年8月9日(噴火以前)にPALSAR-2広域観測モードを用いて観測された、アイスランド東部の画像です。 中央やや南側の暗い色の領域は、バルダルブンガ火山の表面を覆う広大な氷帽、ヴァトナヨークトル(ヴァトナ氷河)です。 PALSAR-2は高分解能モード(3m / 6m / 10m分解能)に加えて広域観測モード(観測幅350km / 490km)での観測が可能です。このモードでは、一度の観測で広い範囲を同時に観測することができるため、被害範囲が広域に及ぶ大規模災害時や、アマゾンや東南アジア等の熱帯雨林を監視する用途などに役立ちます。

図2: アイスランド東部の観測画像(広域観測(350km)モード、2014年8月9日観測)

図2: アイスランド東部の観測画像(広域観測(350km)モード、2014年8月9日観測)
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図3は、2014年9月11日(噴火後)に高分解能(10m)モードで観測された、バルダルブンガ火山付近の画像です。赤+青にHH偏波、緑にHV偏波を割り当てたカラー合成画像となっています。 画像の南側の大部分は氷河域ですが、氷の状態によって見え方が異なっています。濃い紫色の領域は滑らかで安定した氷、濃い緑色の領域は粒子の粗い氷や雪に覆われていると見られます。南側の、明るい紫~白色の領域から画像南端部にかけては、氷塊の一部が南側に流れ下っている様子(流出氷河)が見てとれます。

図3: バルダルブンガ火山付近のPALSAR-2観測画像

図3: バルダルブンガ火山付近のPALSAR-2観測画像 (高分解能10mモード、2014年9月11日観測)
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図4: 差分干渉処理結果(2014年8月28日・2014年9月11日)

図4: 差分干渉処理結果(2014年8月28日・2014年9月11日)
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同じ範囲を別時期に2回観測したSAR画像を用いて差分干渉処理(インターフェロメトリ処理)を行うことで、地表面のわずかな変動を捉えることができます。図4は、2014年9月11日に観測された画像(図3と同じ領域)と2014年8月28日(噴火直前)に観測された画像を用いて作成した、差分干渉画像です。

等高線のように引かれたカラーの縞模様は、地表面の動いている様子を表しています。画像上で、線を【緑色→赤色→青色→緑色】の順に1回跨ぐごとに、衛星からの相対的な距離が11.9 cm長くなった(衛星から遠ざかる方向に移動した)ことを意味します。逆に【緑色→青色→赤色→緑色】の順に跨いでいる場合は、衛星に11.9 cm近づいていることになります。

画像の広い範囲に、東西方向に長い楕円状の縞が見られますが、これらは地表の変動によるものではなく、上空の電離層(高度60~500km付近に存在する、電子やイオンが大量に分布する空間)の影響で生じたノイズ成分と考えられます。

氷河の上に、多くの縞模様が確認できます。これらは、2回の観測の間(14日間)に氷河の氷が移動した様子を捉えたものです。氷河でも、きれいな縞模様が出ずにノイズ状になっている範囲があります。こちらは、干渉SARで捕捉しきれないほど大きく移動したか、あるいは融解・再凍結などにより氷の表面の状態が大きく変化したものと考えられます。

画像の中段右端部、氷でない領域に同心円(の左半分)のような縞模様が見られます。これは、円の内側ほど衛星から大きく遠ざかっている(沈降、もしくは東方に移動)様子を示しており、変動量は画像に含まれている範囲だけで4周期≒47.6cm程度に相当します。この変化が火山性の地殻変動かどうかは断定できませんが、凍土の融解による地すべりなど、火山活動による何らかの影響を捉えている可能性があります。

注: 地形補正にはSRTM-DEM(90m)を使用し、大気補正は行なっていません。

なお、同火山の観測は、同じALOS-2衛星に搭載されている地球観測用小型赤外カメラ「CIRC(Compact Infrared Camera: シルク)」でも行っており、溶岩流とみられる高温の領域が検出されています。詳しくはこちらをご覧ください(注: 観測日は同じ9月11日となっていますが、PALSAR-2は同日の0時43分頃、CIRCは23時28分頃の観測です)。

以上

JAXA EORC