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陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による中国青海省地震にともなう緊急観測

2010年4月14日8時49分頃(日本時間、以下同じ)、中国青海省(北京から西に約1900km)を震源とするマグニチュード6.9の地震が発生しました(地震の規模及び位置については米国地質調査所(USGS)による発表を参照)。宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)は地震による被害状況を把握するため、2010年4月18日1時頃に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による緊急観測を実施しました。本観測では2010年1月16日に取得した同じ軌道からの画像と比較し、地殻変動検出と差分抽出による被害地域の把握を試みました。「だいち」は夜間に南から北へ飛行しながら、大きな被害が報告されている玉樹(ぎょくじゅ)県を含む領域を観測しました。

青枠は図2で示すPALSAR観測領域を表します。赤い星印は本地震の震央位置を示しています。
図1: 全体図(数値標高データはSRTM3を使用)
図1: 全体図(数値標高データはSRTM3を使用)
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(1) 地殻変動検出

地震に伴う地殻変動を検出するため、地震前後に取得したPALSARデータの差分干渉解析を行いました。図2左は地震前(2010年1月16日)と地震後(2010年4月18日)のPALSARデータから得られた差分干渉画像(地殻変動図)、図2右は地震後の強度画像を示したものです。図2左の差分干渉画像から、震央のやや南を北西-南東方向に走る不連続線が見られ、その南北に明瞭な干渉縞(虹色の色の変化)が確認できます。干渉縞は断層運動に伴う地殻変動を表し、不連続線はその境界線に当たると思われます。図2左より、大きな被害の報告されている玉樹県がこの境界線近くにあり、大きな地殻変動が起こったことが分かります。今回「だいち」による観測から、震源断層の大まかな走向、断層運動に伴う地殻変動とその不連続線が明らかになりました。
図2: PALSAR差分干渉画像(地殻変動図)
図2: PALSAR差分干渉画像(地殻変動図)
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図2: 地震後のPALSAR強度画像
図2: 地震後のPALSAR強度画像
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(2) 差分抽出

地震に伴う地表面の変化を検出するため、地震前後のPALSAR強度画像を比較して差分抽出を試みました。図3は玉樹県(図2右の赤枠付近)を拡大した図で、地震前(2010年1月16日)の強度画像を赤色に、地震後(2010年4月18日)を緑色と青色に配色してカラー合成しました。このカラー合成図では、地震後に建物崩壊などで強度画像が弱くなった箇所が赤色で表されます。また、山岳地帯では斜面によって適正な観測ができない箇所も存在し、図3では黒い領域で表しています。このような山の斜面を除き、図3の中央から右側にかけて市街地に相当する地域で赤色が顕著な箇所が広く見受けられ、地震後には多くの建物に変化が生じているものと思われます。なお、図3の赤枠は「陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)による中国青海省地震にともなう観測結果」の図2に相当する箇所です。
図3: 地震前後の強度画像による差分抽出
図3: 地震前後の強度画像による差分抽出

地震前(2010年1月16日)を赤色、地震後(2010年4月18日)を緑色と青色に配色したカラー合成画像

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JAXAでは今後も「だいち」による中国青海省地震に関する観測を継続していく予定です。

(注1) パルサー(PALSAR):

フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ。衛星から発射した電波の反射を受信するマイクロ波レーダで、夜や曇天時も撮像が可能です。

(注2) 差分干渉処理:

PALSARは『2つのデータ取得時(例えば地震の前と後)における衛星-地面間の距離』に変化があった場合、それを高い精度で検出することが可能です。地震前後のデータを比較すると、地震によって発生した地面の隆起や沈降などの地殻変動は、衛星-地面間の距離の差となり、画像では干渉縞として表わされます。青→緑→黄→赤→青の色の変化は地面が衛星に近づくことを、逆の色の変化は地面が衛星から遠ざかることを表します。(今回の観測では画像の西側から東側に向けて観測しているので、地面が衛星に近づく場合は西向きの水平変動もしくは隆起を、地面が衛星から遠ざかる場合は東向きの水平変動もしくは沈降、を意味します)。なお、色の一周期は11.8cm分の距離変化(地殻変動;変動量は画像内での相対的な値)を示します。

(注3) この観測結果は即時軌道情報に基づいたものであり、軌道誤差による縞の除去処理を行っています。今後高精度軌道情報が得られ次第再解析を行う予定です。

JAXA EORC