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日本域高解像度土地利用土地被覆図【2020・2022・2024年】
(バージョン25.04)
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1. はじめに
宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 地球観測研究センター (EORC) は, 人工衛星で観測されたデータを活用して, 地域や国レベルを対象とした高解像度の土地利用土地被覆図を作成しています。これらは生態系評価 (動植物の生育・生息域, 各種生態系サービス) , 資源管理 (農林水産業, 景観等) , 災害対策 (洪水・土砂災害等) 等, 地域・国土の保全の基盤情報としてご活用頂くことを目的としています。
本プロダクトは2020・2022・2024年合わせて3時期の日本全域の状況を反映した日本域高解像度土地利用土地被覆図バージョン25.04(以下それぞれ2020JPN_v25.04, 2022JPN_v25.04, 2024JPN_v25.04 (*1) )です。使用衛星およびセンサは欧州のSentinel-2/MSIおよび米国のLandsat-8/OLI (いずれも光学センサ), 日本のALOS-2/PALSAR-2 (合成開口レーダ) です。
2023年12月にリリースした2022JPN_v23.12では, 湿地 (Wetland) と農業用温室 (Greenhouse) の2つのカテゴリを追加しましたが, 本プロダクトはさらに浅海域の生態系保全等に対する関心やニーズを考慮し岩礁・干潟 (Rock reef and Tidal flat) を追加しました。これにより, 全15カテゴリとなりました。また, 3時期間の時系列整合性を担保するため, 2022JPN_v23.12で作成した深層学習モデルに対して2020年用の教師点と, 2024年用の教師点を新規に用意し, ファインチューニングすることでそれぞれの年に特化した深層学習モデルを作成し分類をしました。独自に取得した検証点を用いて混同行列を作成した結果, 2020JPN_v25.04は94.49 [%], 2022JPN_v25.04 は95.53 [%], 2024JPN_v25.04は92.99 [%] の全体精度を達成しました。
今後は現在運用中の先進レーダ衛星 (ALOS-4) の活用, 時系列方向の整合性向上と長期化, カテゴリの細分化等, さらなる改善に取り組んでいこうと考えております。
(*1):「2020JPN_v25.04」という略称は以下のフォーマットにて定義されます。
フォーマット:YYYYRRR_vyy.mm
- YYYY: 観測データ年を示します。
- RRR: 国や地域を示します。国の場合はISO 3166-1 alpha-3に準拠した3文字のコードを採用しています。
- yy: リリース年下2桁を示します。1桁の場合は0パディングをしています。
- mm: リリース月2桁を示します。1桁の場合は0パディングをしています。
2020JPN_v25.04, 2022JPN_v25.04, 2024JPN_v25.04では, 以前のバージョンと比べて, 主に以下の点を更新しました。
- 教師・検証点を全数目視検査・選別
- 分類カテゴリを15に統一
- 時系列整合性を取るため2022JPN_v23.12で作成した深層学習モデルをファインチューニングしてそれぞれの年に特化した深層学習モデルを作成
この結果, 日本全域の土地利用・土地被覆の変化を2年毎3時期で経時的に把握することが可能となりました。
2. 使用したデータ
- Sentinel-2/MSI Level-2A (L2A) 地表面反射率 データ
- Landsat-8/OLI Collection2 Tier1地表面反射率データ (Sentinel-2の観測がない一部の離島域)
- ALOS-2/PALSAR-2 (HBQ , UBS)
- 教師情報
- ALOS PRISM Digital Surface Model (AW3D)
- DSMから求めた傾斜のラスターマップ
- 農林水産省 筆ポリゴン ラスターマップ (*2)
- オープンストリートマップによる道路網ベクターデータ © OpenStreetMap contributors
- 緯度経度情報
(*2): 筆ポリゴンデータ (2022年度公開) (農林水産省) を加工して作成
3. 分類方法
2020JPN_v25.04, 2024JPN_v25.04で採用された分類方法を以下に示します。2022JPN_v25.04に関しては, 2022JPN_v23.12の分類結果に岩礁・干潟を追加し, はさみうち処理 (後述) を実施した後に提供しています。
3.1 前処理
- Sentinel-2/MSI およびLandsat-8/OLI について, 1年を6分割して2ヵ月毎 (1-2月, 3-4月, 5-6月, 7-8月, 9-10月, 11-12月) のコンポジット処理を実施しました。
- コンポジット処理: 雲マスクを実施した後に当年の2ヵ月の重みを3, 前年の2ヵ月の重みを2, 当年2ヵ月の前後1か月の重みを1として中央値コンポジット処理をしました。
- 特徴空間の構築:
Sentinel-2/MSI バンドB2, B3, B4, B5, B6, B7, B8, B8a, B11, B12; NDVI, GRVI, NDWI1, NDWI2, NDSI, GSIの時系列データ
Landsat-8/OLIバンド B2, B3, B4, B5, B6, B7; NDVI, GRVI, NDWI1, NDWI2, NDSI, GSIの時系列データ
ALOS-2/PALSAR-2 HBQ, UBS, それらから計算される各種物理パラメータ
補助データ (AW3D DSM, Slope, 筆ポリゴン, OSM, 緯度経度情報) の非時系列データ - 平均と標準偏差を用いた標準化を特徴量毎に適用しました。
3.2 分類
- 3.1に示した特徴量を使用し, SACLASS2.5 (*3) で分類を実施しました。本手法は多時期データと1時期データを入力時点で切り分け, 多時期データに対しては畳み込みニューラルネットワーク (CNN) アルゴリズムで, 1時期データに対してはニューラルネットワーク (NN) アルゴリズムで分類を実施しました。入力データを切り分けることで特徴量の次元削減に繋がり, 分類精度の向上や計算コストの低減を達成しました。
- 2020・2022・2024年間の時系列整合性を確保するために, 既にリリースされている2022JPN_v23.12で作成した深層学習モデルに対して2020年用, 2024年用の教師点を用いてファインチューニングを実施しました。これにより各々の年に特化した深層学習モデルを作成し, それらを用いて分類を実施しました。
(*3): マルチスペクトル・時系列特徴空間でのパターン認識に特化したCNN アルゴリズムおよびNN アルゴリズム。
3.3 後処理
- アンサンブル学習の適用
- ガウシアンフィルタの適用
- 土地利用が変化しやすい畑地・水田・裸地・農業用温室を除いたカテゴリを対象としてはさみうち処理。(*4)
- 内陸部 (AW3D30m標高値 > 1 [m]) に存在する岩礁・干潟を裸地へ変更 (精度評価には含まない)
- 目視検品による異常値修正 (精度評価には含まない)
(*4): あるピクセルのカテゴリ値が2020年と2024年で同じ場合, 2022年もそのカテゴリ値に変更する処理。
4. データ形式
対象期間 | 2020・2022・2024年 |
---|---|
座標系 | 等緯度経度座標系 (WGS84) |
格納単位 | 緯度経度1度単位のグリッドタイル, 12,000ピクセル × 12,000ライン |
メッシュサイズ | (1/12,000) 度 × (1/12,000) 度 (およそ10 m x 10 mに相当) |
ディレクトリ・ファイル命名規約例 |
2020JPN_v25.04 |--
(上記の場合、2025年4月にリリースされた2020年の日本域を対象に作成されたプロダクトのうち、北緯45から46度、東経142から143度の範囲を指します。)
|
格納形式 | GeoTIFF形式 |
ファイル数 | ファイル数: 131 タイル×3時期 |
各画素の値は分類カテゴリのID番号であり, 下記の通りです:
- #1: 水域 (Water bodies)
- #2: 人工構造物 (Built-up)
- #3: 水田 (Paddy field)
- #4: 畑地 (Cropland)
- #5: 草地 (Grassland)
- #6: 落葉広葉樹林 (DBF; Deciduous broad-leaved forest)
- #7: 落葉針葉樹林 (DNF; Deciduous needle-leaved forest)
- #8: 常緑広葉樹林 (EBF; Evergreen broad-leaved forest)
- #9: 常緑針葉樹林 (ENF; Evergreen needle-leaved forest)
- #10: 裸地 (Bare)
- #11: 竹林 (Bamboo forest)
- #12: ソーラーパネル(Solar panel)
- #13: 湿地 (Wetland)
- #14: 農業用温室(Greenhouse)
- #15: 岩礁・干潟 (Rock reef and Tidal flat)
5. 精度検証
教師情報とは独立の検証情報を用いて, 15カテゴリの混同行列による精度検証を実施しました。以下にそれぞれの精度検証結果を示します。
- 2020JPN_v25.04では2,016点の検証情報から, 全体精度 94.49 [%], κ係数0.940
- 2022JPN_v25.04では2,438点の検証情報から, 全体精度94.53 [%], κ係数0.952 (*5)
- 2024JPN_v25.04では1,041点の検証情報から, 全体精度92.99 [%], κ係数0.923
(*5): 2022JPN_v23.12の精度検証結果については2022JPN_v23.12の情報を記載
混同行列の詳細を表1, 2, 3に示します。
精度検証については, 検証点がランダムサンプリングでない理由等で誤差が生じることをご留意ください。
表1 コンフュージョンマトリクス (2020JPN_v25.04)

表2 コンフュージョンマトリクス (2022JPN_v25.04)

表3 コンフュージョンマトリクス (2024JPN_v25.04)

図1, 2, 3に2020JPN_v25.04, 2022JPN_v25.04, 2024JPN_v25.04の全域図を示します。

赤枠はLandsat-8/OLIで分類されたタイル

赤枠はLandsat-8/OLIで分類されたタイル

赤枠はLandsat-8/OLIで分類されたタイル
図4に岩礁・干潟を加えたことによる変化を, 図 5, 6, 7に3時期の経時変化が顕著であった場所を紹介します。

2022JPN_v23.12では裸地とされていましたが, 2022JPN_v25.04では新設された岩礁・干潟に正しく分類されました。

4年間で水田および畑地の面積が増加したことが分かります。また, 2020JPN_v25.04において, 土や草木などの除染廃棄物を詰め込んだ通称“フレコンバック”と呼ばれる袋を埋め立てた場所 (画像左部) が2022JPN_v25.04で自然植生の発達により湿地へ変化し, 2024JPN_v25.04ではさらに植生が繁茂することで草地になっていることが分かります。

2020JPN_v25.04, 2022JPN_v25.04では草地および裸地の割合が多かった大阪万博会場が, 2024JPN_v25.04では会場準備が進み人工構造物が増えていることがわかります。

経時変化により太陽光メガソーラーの面積が拡大していることがわかります。
注釈:二毛作、果樹園、お茶畑をはじめとした土地利用土地被覆カテゴリは定義されていないため、実情と異なる場合があります。予めご承知おきください。
6. 参考文献
- 平山颯太, 田殿武雄, 大木真人, 水上陽誠, 奈佐原 (西田) 顕郎, 今村功一, 平出尚義, 大串文美, 道津正徳, 山之口勤 (2022): JAXA高解像度土地利用土地被覆図日本域21.11版 (HRLULC-Japan v21.11) の作成. 日本リモートセンシング学会誌, 42(3), pp. 199-216
- 平山颯太, 田殿武雄, 水上陽誠, 大木真人, 奈佐原(西田)顕郎, 伊藤駿, 平出尚義, 今村功一, 佐竹崚, 大串文美(2023): 2022年度版日本域高解像度土地利用土地被覆図の作成に関する事前検討, 日本リモートセンシング学会第75回学術講演会論文集, pp. 25-28.
- 平出尚義, 今村功一, 田殿武雄, 平山颯太, 奈佐原(西田)顕郎, 道津正徳, 佐竹崚, 大串文美(2023): 光学・SAR衛星データに対する高精度な教師・検証データを低コストで取得するためのRIL及び判読システムの開発, 日本リモートセンシング学会第75回学術講演会論文集, pp. 29-30.
- 平出尚義, 今村功一, 佐竹崚, 大串文美, 田殿武雄, 平山颯太, 水上陽誠, 伊藤駿, 奈佐原 (西田) 顕郎 (2025): 時系列整合性を考慮した2020年版JAXA日本域高解像度土地利用土地被覆図の作成及び高精度化に関する検討, 日本地理学会2025年春季学術大会要旨集, No.107, p. 91
- 伊藤駿, 平山颯太, 今村功一, 平出尚義, 大串文美, 佐竹崚, 奈佐原 (西田) 顕郎 (2023): 農業・生態系保全のための関東域高解像度土地利用土地被覆図の開発, 日本写真測量学会令和5年度秋季学術講演会予稿集, pp. 37-38