防災・災害

PALSARオルソ補正画像

合成開口レーダーは天候にさほど左右されず、昼夜に関係なく観測できるマイクロ波高分解能映像センサで災害観測、地球環境に関連の深い森林、陸地の観測に向いています。これらの長所と裏腹なのが地球を斜めにしか見ることができないという点です(斜視観測)。これはレーダーの原理上仕方のないことで、地面を薄くスライスする為に必要なことなのです。そして、地図との重ね合わせが非常に困難になります(図1参照、ここで一例として北海道白老町の地図に、SARの標準成果品を重ねたものを用意しました。海岸線はあっていますが、樽前山の山頂、風不死岳山頂、支笏湖湖岸がずれているのがおわかりいただけるでしょう)。というのも、地図は地球の中心に目を置いて(視点)、地表方向を放射状に観測したものだからです(これを正射投影と言います)。地球が真っ平らであれば、斜視も正射も簡単に合わせることができますが、高さのある自然地形はそうは行きません。そこで、斜視観測を擬似的に地図と同じ視点(正射)で観測したものが求められる訳です。ここで擬似的といいましたが、対象物の光やマイクロ波の反射特性までも正射にできれば、これ以上の文句は無いのですが、そこまで自然現象を変更するのは不可能です。ただ、視点だけを幾何学的に変えることは可能です。これを、オルソ変換(Ortho-rectification)といいます。ここでは、SARのオルソ変換を紹介します。PALSARに限定してはいませんが、PALSAR用にオルソ変換ソフトウェアを開発しましたので、紹介します。
2011年霧島山(新燃岳)噴火前後のPALSAR干渉画像

©METI, JAXA

図1: 北海道白老町近くのPALSAR画像と地図の重ね合わせ。細部がずれる。特に山頂がずれている。

図2に基本的な幾何学関係を示します。オルソ処理とはSARのビーム面内での画像の引き起こし処理であり、P'点をP点に引き起こすことを言います。ただ、ややこしいのはSARの画像は衛星と観測対象物の間の角度のコサインで効くドップラー周波数の変化を受けており、微妙に衛星進行方向にずれ(特に高い山ほど大きくずれます)、それを補正しなければならないということです。

変換したい点の高さは一度SARの画像と合う擬似画像を作り、それから高さを取得するのが簡単です。これは、そのままSARの幾何精度に合致するのですが、これまでの評価から幾何精度は8メートルであっており、基本的に地上基準点は無くてもSARの軌道とドップラー周波数がわかれば、緯度経度がわかり、そして高さを求めることができます。後は、図2の手順に沿っての処理です。
図2: オルソ変換図
図2: オルソ変換図

処理手順は3段階あり、各々内挿処理を必要とします。図3がこのようにして作成した画像と、地図との重ね合わせです。海岸も、支笏湖、樽前山山頂もしっかり合っていることがわかります。

図3: 北海道白老町近くのPALSARオルソ画像と地図の重ね合わせ

©METI, JAXA

図3: 北海道白老町近くのPALSARオルソ画像と地図の重ね合わせ。細部まで一致する。高低差のある海岸と山頂で両画像が一致することが確認できる。
SARはスペックル雑音という高周波雑音があり、内挿するたびに画質が劣化します。画質を劣化させないで、画像の引き起こしをするには内挿用のテーブルを各段階で持っておき、最後に原画像から一気に補正をかけるのが一番です。いくつかの例の比較を示しますが、やはり内挿を一回に限定したもの(Case4)が、画質が良好なことが確認できます。特に、市街地の分解能が維持されています(図4参照、ここでcase1,3,4の区分は表1参照)。もちろん、必要なメモリ量が増えるとか、処理アルゴリズムが複雑になるといった点はあります。

©METI, JAXA

白老町周辺
図4: 画像比較。白老町周辺のSAR画像を表1に示す内の3種類について示す。Case4がよく細部を表現する。
表1 オルソ補正に関する比較表
ケース    入 力    ステップ1(ortho→grange) ステップ2(ortho→map)
Case1 振幅画像 振幅画像の倒れ込み補正を実施。刻みは10m間隔。内挿はCC 地図面に投影
Case2 振幅画像 振幅画像の倒れ込み補正量の計算 地図面に投影時,倒れ込み補正量表を使用
Case3 複素画像 複素画像から倒れ込み補正した振幅画像の作成。刻みは10m間隔。内挿はCC、ドップラー表使用 地図面に投影
Case4 複素画像 複素画像の倒れ込み補正量のみを計算する 地図面に投影時,倒れ込み補正量表を使用
ccはcubic convolution
最後になりましたが、SARは通常対象物の衛星方向への反射係数を表します。明るいものは反射しやすく、暗いものは反射し難い、或は電波を吸収するものです。本稿の頭で、反射特性までは難しいといいましたが、唯一電波の反射面積を補正することはできます。これは、反射係数が単位面積あたりの値を表し、対象物の勾配によって変化するのですが、それは補正することができるからです。図5に、補正前後の変化を紹介します(向かって左が勾配補正画像、右がオルソ補正画像です(Case4を使用しています))。勾配補正をした方が明らかにのっぺりとしています。ただ、レーダー反射の定義にはより近いので、地物の分類等にはこちらの画像が使用されます。
図5: 左:倒れ込みのみを補正したもの
図5: 左:倒れ込みのみを補正したもの。右:地面のでこぼこに伴う明るさの効果を補正したオルソ画像。 (右図: クリックで拡大画像へ)
オルソ処理を行ったPALSARのムラピ山近辺のオルソ重ね合わせ画像を図6に示します。オルソ処理により、異なる入射角で取得した衛星データが同じ土俵上で議論できるようになります。
図6: ムラピ山の重ね合わせ画像。

©METI, JAXA

図6: ムラピ山の重ね合わせ画像。 (クリックで拡大画像へ)

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