「だいち2号」によるカナダの森林火災の観測結果について

概要:

  • カナダで発生している森林火災について、国際災害チャータの要請によりJAXAは2016年5月9日に「だいち2号」によりアルバータ州フォートマクマレー付近を観測した。
  • 観測には地表の状況の変化を解析できる4偏波モード(フルポラリメトリ)を使用し、およその被災範囲を把握できた。

カナダで2016年4月下旬から発生している森林火災について、JAXAは国際災害チャータを通じた現地機関からの要請に基づき、2016年5月9日に「だいち2号」(ALOS-2)搭載の合成開口レーダ、パルサー2(PALSAR-2)によりアルバータ州フォートマクマレー付近を観測し、データを提供しました。また、提供と併せてJAXAでも独自にデータの解析を行い、パルサー2のデータから被災範囲を読み取りました。
図1に今回の観測範囲を示します。

図1: 2016年5月9日「だいち2号」PALSAR-2データの観測範囲 図1: 2016年5月9日「だいち2号」PALSAR-2データの観測範囲
カナダ・アルバータ州フォートマクマレー付近の火災後のPALSAR-2観測画像 (2016年5月9日).
カナダ・アルバータ州フォートマクマレー付近の火災前のPALSAR-2観測画像 (2015年5月11日).
図2: アルバータ州フォートマクマレー付近の災害前後の画像比較

マウス等の操作により、画像中央に現れるスライダを左右に移動することで、災害前後の画像を視覚的に比較することができます(対応していないブラウザでは、単純に2つの画像が並べて表示されることがあります)。
* 対応ブラウザ: IE9 およびそれ以降、Safari5.1 およびそれ以降、Chrome、Firefox、Opera

図2は今回2016年5月9日に取得された画像と、災害前の2015年5月11日に取得された画像を比較したもので、アルバータ州フォートマクマレー付近を含みます。これらの観測は、地表の状況をより詳しく把握できる4偏波モード(フルポラリメトリ)で行われており(注)、画像は疑似カラー合成で、赤色に建物や幹などの垂直構造物からの反射を示すHH-VV偏波、緑色に森林の枝葉などのランダムな構造からの反射を示すHV偏波、青色に地面や水面などの平面からの反射を示すHH+VV偏波の画像を割り当ててカラー画像化しています。

これらの画像では川、湖、滑走路などの滑らかな地面(水面)は黒、市街地は明るいピンクや黄緑色で示されます。森林は通常緑色で示されますが、今回の森林火災の被害域ではやや赤色やオレンジ色に変化しており、これは火災で枝葉が消失して幹が残ったことにより、枝葉による反射(緑色)から、幹による反射(赤色)が優勢になったためと推察されます。

この変化をより分かりやすくするため、HH-VV偏波の災害前後での差(変化)を画像で示したものが図3です。赤色が濃いほど災害後にHH-VV偏波が強くなる傾向を示し、緑色の線で囲われた領域が森林火災の被災範囲に相当すると考えられます。

図3: 幹などの垂直構造物からの反射を示すHH-VV偏波の変化。フォートマクマレー付近でHH-VV偏波が強くなっており(赤色)、これが森林火災の被災範囲に相当すると考えられる。
図3: 幹などの垂直構造物からの反射を示すHH-VV偏波の変化
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フォートマクマレー付近でHH-VV偏波が強くなっており(赤色)、これが森林火災の被災範囲に相当すると考えられる。

(注):
PALSAR-2は、電界が地面に対して水平向きに振動する「水平偏波(H)」と、地面に垂直向きに振動する「垂直偏波(V)」と呼ばれる、性質の異なる2種類の電波を観測に使用できます。今回用いられた四偏波モード(HH+HV+VH+VV)は、衛星から地表に電波を照射する際にはH偏波とV偏波を交互に送信し、それぞれ地表からの反射波を受信する際にもHとVを同時に受信することにより、H送信-H受信(HH)、H送信-V受信(HV)、V送信-H受信(VH)、V送信-V受信(VV)の4種類のデータを取得できます。さらに、これらのデータに対して数学的な処理を加えることにより、地上の電波の反射過程の違い(表面反射、2回反射など)を示す様々な画像が得られます。

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