「だいち2号」によるネパール地震の観測結果について (4)

概要:

  • 地震前後のだいち2号 PALSAR-2データを用いて、カトマンズ周辺の地殻変動分布を観測した。
  • 地殻変動は南北100 km以上の範囲に広がり、カトマンズ中心部では約1 mの変位が観測された。
  • カトマンズ周辺では局所的に大きな変位が見られる箇所があり、こうした場所では地盤沈下が発生した可能性がある。
  • さらに詳細な解析を行った結果、地震で損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリアが検出された。

2015年4月25日(現地時刻)に発生したネパールの地震について、宇宙航空研究開発機構 (以下、JAXA) は、センチネル・アジアや国際災害チャータ等の緊急観測要請に基づき、陸域観測技術衛星「だいち2号」(ALOS-2)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR-2; パルサー2)による観測を実施しています。

今回、地震後(2015年5月2日)と地震前(2015年2月21日)に取得されたデータを用いて、地震に伴う地殻変動を観測しました。図1に、解析により得られた干渉画像の全体像を示します。虹色の縞模様(干渉縞)は、観測日間に発生した衛星視線方向の変位を表しており、干渉縞の数が多いほど地面が大きく動いたことを意味します。干渉縞は画像全体に広がっており、少なくとも南北方向に100 kmの範囲で変動が生じたことがわかります。中央南寄りの大きな楕円形の干渉縞は、衛星-地上間の距離が短縮したことを表しており、円の中心で少なくとも1.5 m程度の変位があったことがわかります。カトマンズ中心部では、約1 mの変位が見られます。反対に、北側に見られる楕円形の干渉縞は、衛星-地上間の距離が伸長したことを表しています。画像北側にノイズ状の領域が見られますが、雪の影響などによって地震前後のデータの類似性が下がり、変動を検出できない状態になっていると考えられます。

図1: ネパール地震前後(前:2015年2月21日、後:2015年5月2日)に取得されたPALSAR-2データによる干渉画像。観測モード:高分解能10m(ビームF2-6)、観測幅:70km 図1: ネパール地震前後(前: 2015年2月21日、後: 2015年5月2日)に取得されたPALSAR-2データによる干渉画像
観測モード: 高分解能10 m(ビームF2-6)、観測幅:70 km。
赤い星印は本震(Mw 7.8)、黒線の丸印は余震(4月26日から5月3日の期間、Mw 5以上)の震源分布。

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図2は、カトマンズの周辺を拡大した画像です。カトマンズの周辺では同じ地域でも、場所によって建物の被害に大きな差が出ていることが日本の専門家による現地調査で報告されていますが、本解析からも局所的な変位が見られます。図2の枠(1)や(2)内では、地震による全体的な変位(大きな縞模様)のほかに細かい縞模様が見られ、枠(1)では大きいところで周囲と比べて30 cm程度の変位が確認できます。こうした場所では、地盤沈下が発生している可能性があります。実際に、現地の土木学会・地盤工学会・日本地震工学会のネパール地震緊急被害調査団からの速報によれば、枠(2)内において地盤沈下が発生し、道路や建物が損傷していることがわかりました(図3)。干渉画像は地震による地盤変位を面的に把握するために有用な情報であり、他の地域でも同様の変化が見られないか現地調査団と情報を共有しながら、調査を続けています。

図2: カトマンズ周辺の干渉画像。黒線で囲んだ領域 (1)および (2)において局所的な変位が見られる。枠 (2) 内の黒丸印は図3の写真が撮影された場所
図2: カトマンズ周辺の干渉画像
黒線で囲んだ領域 (1)および (2)において局所的な変位が見られる。

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図3: 図2において局所的な変動が見られた場所の現地写真(現地時刻5月1日撮影、土木学会・地盤工学会・日本地震工学会のネパール地震緊急被害調査団(先遣隊)による)。撮影場所は、図2の枠(2)内の丸印の位置。道路の片側が沈下している。 図3: 図2において局所的な変動が見られた場所の現地写真
(現地時刻5月1日撮影、土木学会・地盤工学会・日本地震工学会のネパール地震緊急被害調査団(先遣隊)による)

撮影場所は、図2の枠 (2) 内の丸印の位置。道路の片側が沈下している。

図4は、図2の枠(2)内と図3の場所で得られた、コヒーレンス差画像です。コヒーレンス差画像とは、災害前(2014年10月4日と2015年2月21日)と、災害前後 (2015年2月21日と5月2日) のコヒーレンス(画像類似性)の差を取ったもので、差が大きいほど、2つの観測期間中にレーダ画像に大きな変化があった事を示します。レーダ画像の大きな変化の例としては、建物の倒壊や道路の損傷、農地の変化や積雪の有無などがあります。図3で見られた道路や建物の損傷場所では、コヒーレンスの大きな減少を示す赤い点が多くみられました。

図4: コヒーレンス差解析で得られた、損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリア(図2の枠(2)内の場所) 図4: コヒーレンス差解析で得られた、
損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリア(図2の枠(2)内の場所)

図5のコヒーレンス差画像では、カトマンズの建物倒壊場所(ダルバール広場、ダラハラ・タワー等)で、コヒーレンス差の大きな減少(損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリア)を示す赤い点が確認されました。

図5: コヒーレンス差解析で得られた、損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリア(カトマンズ) 図5: コヒーレンス差解析で得られた、
損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリア(カトマンズ)

図6のコヒーレンス差画像では、古都バクタプルで大きな損傷を受けた可能性のある場所が、広範囲に広がっている様子が観測されました。

図6: コヒーレンス差解析で得られた、損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリア(古都バクタプル) 図6: コヒーレンス差解析で得られた、
損傷を受けた可能性のある建物や道路を含むエリア(古都バクタプル)

JAXAでは今後も関係機関と協力し、ネパールの観測を継続する予定です。本観測データおよび解析結果は国際災害チャータに提供しました。

関連情報:
2015/5/1: 民間高分解能衛星画像および「だいち」画像を用いたネパール地震に伴う山間部被害抽出の結果について
2015/5/1: 「だいち2号」によるネパール地震の観測結果について (3)
2015/4/30: 「だいち2号」によるネパール地震の観測結果について (2)
2015/4/28: 「だいち2号」によるネパール地震の観測結果について
ネパール地震緊急被害調査団(先遣隊)の派遣について(土木学会)
2015年4月25日ネパールの地震に伴う地殻変動(国土地理院)

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