「だいち」(ALOS)データを用いた「ブータン氷河・氷河湖台帳」の公開について

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宇宙航空研究開発機構 (JAXA) では、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS) の観測データを用いたブータン王国における最新の氷河湖の情報 (緯度経度, 面積, 長さ, 幅, 標高等) を高精度に調査した「氷河湖台帳 (インベントリ) 」の整備を進めてきました。同時に氷河についても、名古屋大学を中心に台帳の整備が進められてきました。今回これらを統合し、ブータン・ヒマラヤ地方における氷河・氷河湖台帳バージョン16.11として公開します。

ブータンやネパールといったヒマラヤ地方では、氷河から融け出した水分によって湖 (氷河湖) を形成していますが、近年この拡大が急速に進んでいると言われます。氷河湖は自然の岩や瓦礫 (モレーン) によって堰き止められているため、いつ決壊するか分からない状況で、下流で生活する人々の安全を脅かしています。この氷河湖の決壊にともなう洪水は「氷河湖決壊洪水」(GLOF; グロフ) (※1) と呼ばれ、現地で深刻な問題となっています。しかしこれまで、どのくらいの大きさの氷河湖が、どのように分布しているのか正確に把握されていない状況でした。

本台帳はブータン国内を8つの主要河川流域と中国チベット自治区側の合計9地域に分け整備しており、合計733の氷河湖を抽出しています。抽出した氷河湖の総面積は約82.5平方キロメートル、これは東京のJR山手線内側面積の約1.3倍の大きさに相当します。本台帳は近年の氷河湖の実態を初めて詳細に調べたもので、グロフの対策や危険度の評価、氷河湖の拡大監視等への利用が期待されます。
図1は整備したブータン全域のパンシャープン画像で、赤線は河川流域界、カラーのプロットは公開する「氷河湖インベントリ」を重ねて表示したものです。色は流域の違いを表しています。図2はこの一例として、マンデ川流域上流部を拡大したものです。それぞれの氷河湖の位置および形状とIDを確認することができます。

JAXAではブータン王国経済省地質鉱山局と国内15機関 (*) との協力の下、氷河湖の現状を把握し、氷河湖決壊洪水の危険度を客観的に評価するために、(独) 科学技術振興機構 (JST) と (独) 国際協力機構 (JICA) による「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」(SATREPS) において「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」(研究代表:名古屋大学) を実施してきました。今回公開する「氷河・氷河湖台帳」は本研究の成果であり、「だいち」(ALOS) に搭載されている高性能可視近赤外放射計2型 (AVNIR-2; アブニール・ツー) (※2) とパンクロマチック立体視センサ (PRISM; プリズム) (※3) による2006年から2011年の観測データを用いて作成しています。アブニール・ツーとプリズムから作成したパンシャープン画像 (※4) から目視で水域を抽出し、一定の条件 (※5) で氷河湖を抽出しました (一部は被雲のためアブニール・ツーのみ使用)。氷河についても同時期の観測データから目視での抽出を実施しました。整備した衛星データおよび氷河湖インベントリはカウンターパートである地質鉱山局に提供し、継続的な氷河湖の拡大監視等、今後ブータン国内において活用される予定です。

* 名古屋大学、立教大学、北海道大学、(独) 防災科学技術研究所、広島工業大学、(独) 海洋研究開発機構、一般財団法人リモート・センシング技術センター、新潟大学、総合地球環境学研究所、(株) 地球システム科学、弘前大学、日本大学、帝京平成大学、群馬大学、慶應義塾大学との協力による成果。

図1: ブータン全域のパンシャープン画像 (赤線:河川流域界) と
公開する「氷河湖台帳」(カラープロット)

図2: マンデ川流域上流部の拡大 (緑線: 河川流域界, 赤: 公開する氷河湖台帳)

図3: ブータン西部における氷河・氷河湖インベントリ抽出例

用語解説

※1) 氷河湖決壊洪水 (GLOF; グロフ)
氷河湖は1950年代ごろから増え始め、国際総合山岳開発センター (ICIMOD; イシモド) によると、2007年現在、約二千数百個の氷河湖が存在するとされています。これらの湖は、地震などをきっかけに氷河や岸壁が崩落して湖の水量が急激に増加したり、あるいは土手が内部に含まれる氷の融解によって崩壊し、発生した洪水が下流域に甚大な被害をもたらすことがあります。これを氷河湖決壊洪水 (GLOF; Glacial Lake Outburst Flood) と呼びます。実際に1994年、ブータンのルナナ地方で発生した氷河湖決壊洪水では、旧首都プナカで押し寄せた洪水により21名が亡くなり、川沿いの家屋や歴史的建造物であるゾン (寺院兼役所) が破壊され、農作物や家畜なども被害を受けるという大災害が起きました。

※2) 高性能可視近赤外放射計2型 (AVNIR-2; アブニール・ツー)
「だいち」(ALOS) に搭載の光学センサで、青域から近赤外域の電磁波を4つのバンド (カラー) で観測することができ、衛星直下を観測する際には幅70kmの範囲を10mのものが識別できる能力(解像度)があります。

※3) パンクロマチック立体視センサ (PRISM; プリズム)
「だいち」(ALOS) 搭載の光学センサで、可視域から近赤外域の電磁波を1つのバンド (白黒) で観測し、2.5mの解像度を持ちます。また衛星進行方向に対して前方・直下・後方の3方向の画像をほぼ同時に取得することができ、地形情報を高精度に抽出することができます。

※4) パンシャープン処理
「だいち」によるパンシャープン画像は、アブニール・ツーとプリズムの画像を疑似的に合成して作成した2.5mの解像度を持つカラー合成画像。

※5) 氷河湖の選定条件
本台帳では、氷河全体から小氷期 (※6) に形成されたモレーンとの間に位置する、もしくはグロフの二次発生の危険性から小氷期のモレーンから下流2km以内に位置し、グロフによる被害の大きさを考慮して1万平方m以上の面積を有することを条件として氷河湖を選定しました。

※6) 小氷期 (Little Ice Age)
14世紀半ばから19世紀半ばにかけて続いた寒冷期のことで、この間、特に北半球の山岳氷河では前進や成長が著しかったと考えられています。

関連文献:

【氷河湖台帳】
Ukita, Jinro, et al. "Glacial lake inventory of Bhutan using ALOS data: methods and preliminary results." Annals of Glaciology 52.58 (2011): 65-71.
Tadono, Takeo, et al. "Development and validation of new glacial lake inventory in the Bhutan Himalayas using ALOS 'DAICHI.'." Global Environmental Research 16.1 (2012): 31-40.

【氷河台帳】
Nagai, Hiroto, et al. "Comparison of multiple glacier inventories with a new inventory derived from high-resolution ALOS imagery in the Bhutan Himalaya." The Cryosphere 10.1 (2016): 65-85.

関連リンク:

» 「氷河湖インベントリ」(Ver. 12.03) の公開ページへ
» 「氷河湖インベントリ」(評価版, Ver. 11.02) の公開ページへ