2008年5月2日、サイクロン“Nargis”がミャンマーのイラワジ川デルタ地帯を襲いました。アジア防災センターやロイター通信によりますと、ミャンマー政府は、サイクロンNargisによる死者数は22,500人、行方不明者数は41,000人に上ると報告しています。 図1は2008年5月3日0UTCに観測された「世界の降雨量分布」*1であり、ミャンマー海岸部に上陸したサイクロン「Nargis」が観測されています。また、図2は、熱帯降雨観測衛星(TRMM)がサイクロンの上陸直後を観測した画像です。図1の動画や図3では、インド洋を東進する「Nargis」の動きと、それとともに降水量が多い領域が東進していく様子が良くわかります。またサイクロン上陸以前の4月28〜30日にもサイクロンによって活発化したものと思われる降雨がミャンマーの沿岸部で観測されています。
図1:2008年5月3日0UTC(世界標準時)の「世界の雨分布速報」の画像(上) 上図赤枠内の南アジア域を拡大した図(下) 降雨量分布を雲画像*2に重ねて表示しています
2008年4月28日〜5月3日の動画(GIF形式、2.07MB) 参考) バングラデシュを直撃したサイクロン「SIDR(シドル)」の動画 (2007年11月11日〜16日)(GIF形式、1.90MB) Google Earthで見る世界の雨分布:2008年5月3日0UTC (kmz形式、2.53MB)
図2:2008年5月3日0:43UTC(世界標準時)のTRMMの観測画像。可視赤外観測装置(VIRS)による雲画像(グレースケール)の上に、TRMMマイクロ波観測装置(TMI)と降雨レーダ(PR)による降雨量(カラー)を重ねている。観測幅中心付近の雨の構造が細かく見えているのがPRによる観測。
Google Earthで見る TRMM準リアルタイム画像:2008年5月3日 (kmz形式、1.27MB)
図3:「世界の雨分布速報」で作成している降雨データから計算した、5/2の日平均値の降水量の分布。黒丸と点線は、 4/27 12UTCから24時間ごとのサイクロン中心位置の推移を表す。(中心位置情報はハワイ大学提供:http://www.solar.ifa.hawaii.edu/Tropical/)
2008年4月27日〜5月3日の動画 (GIFアニメーション形式、440KB)
図4:「世界の雨分布速報」で作成している降雨データから計算した、2008年4月27〜5月4日の積算降雨量(単位はmm) 黒丸と点線は、 4/27 12UTCから5/3 12UTCまでの24時間ごとのサイクロン中心位置の推移を表す。 (中心位置情報はハワイ大学提供:http://www.solar.ifa.hawaii.edu/Tropical/)
2008年4月27日〜5月4日の動画 (GIFアニメーション形式、1.18MB)
図4に、1時間ごとの降雨データを2008年4月27日から5月4日まで積算した降雨量を示します。積算降雨量の多いところ(黄色〜赤色の領域)は、「Nargis」の進路と対応していますが、2007年11月のサイクロン「SIDR(シドル)」のときと比べると、中心位置の進路から少し離れた場所で積算降雨量が多く、また特にミャンマーの沿岸域で積算降雨量が多い特徴がわかります。これはサイクロンに伴う南からの暖かく湿った風によってサイクロンから離れた地域で対流活動が活発化し、降雨量が増加していることが予想できます。 この特徴は、図5で示すミャンマー南岸域での降雨強度の時間変化でも見ることができます。ハワイ大学提供のサイクロンの中心位置情報によると、サイクロンはミャンマー南岸域に5月2日 12UTC付近に上陸した模様です。図5では、サイクロン上陸付近の5月2日に、特に降雨量が多いことがわかります。またサイクロン上陸以前の4月28〜30日にも降雨量の多い時期があることがわかります。
図5:「世界の雨分布速報」で作成している降雨データから計算した、ミャンマー南岸域での降雨強度の時間変化。東経94〜95度、北緯15〜17度で領域平均した。横軸の時刻はUTC(世界標準時)。
*1: JAXA/EORCでは、昨年11月より、「世界の雨分布速報」として、熱帯降雨観測衛星(TRMM)など複数の衛星観測データを使用して、観測から約4時間後の準リアルタイムで、高分解能の世界の降雨量の分布画像を作成し、インターネット上で毎時更新しています。 このように、衛星観測から約4時間後という準リアルタイムで、高い時間・空間分解能の世界の降雨量を算出するシステムを構築したことにより、アジアの発展途上国をはじめとする、台風や豪雨災害が頻発するにも関わらず地上で雨の情報が不足している地域に対して、速やかな情報提供を行うことが可能となりました。 参考)熱帯降雨観測衛星(TRMM)などを用いた「世界の雨分布速報」の公開について(平成19年11月14日) *2: 雲画像は、気象庁、EUMETSAT(欧州気象衛星機構)、NOAA(米国海洋大気局)及び日本気象協会の提供による。
[観測画像について] (図1、図3〜5)観測センサ: TRMMマイクロ波観測装置(TMI)、 Aqua搭載AMSR-E、DMSP搭載SSM/I、 静止気象衛星IR(気象庁、欧州気象衛星機構、 米国海洋大気局及び日本気象協会の提供による) (図1)背景画像 : 「みどり-II」搭載グローバルイメージャGLI (図2)観測センサ: 降雨レーダ(PR)、 TRMMマイクロ波観測装置(TMI)、 可視赤外観測装置(VIRS) 観測日時: 2008年5月3日0時00分〜59分 (図1)(世界標準時)、 2008年5月3日0時43分 (図2)(世界標準時)、 2008年4月27日〜5月3日(図3)(世界標準時)、 2008年4月27日〜5月4日(図4, 5)(世界標準時)、 * TRMMは、NASA, NICT及びJAXAの共同プロジェクトです。
関連サイト: JAXA/EORC台風データベース TRMM台風速報 世界の雨分布速報 TRMM準リアルタイム画像 地球が見える 台風・洪水