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航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR-L)によるタイ国における洪水観測結果について(4)
タイの首都バンコク近辺では、大洪水による甚大な被害が発生しています。
今回のタイ洪水において被災した日系企業は300社にも上ります。今回掲載する観測結果は、アユタヤ南部に位置する、日系企業の工場を多く含む4つの工業団地のものです。いずれも全面的に冠水し、操業停止を余儀なくされました。現地では、排水のための努力が続けられていますが、依然として ロジャーナ工業団地を除く工業団地が冠水しています。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、タイ政府によるバンコク地域の洪水災害管理の支援のため、タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)と協力して、航空機搭載レーダ(Pi-SAR-L)システムの運用によるバンコクの洪水観測を平成23年11月5日から27日の間に実施しました。
Pi-SAR-Lは、レーダを用いた観測装置で、天候に影響されず地表面の観測を行うことができます。また、地球観測衛星「だいち」(ALOS)の後継機であるALOS-2に搭載されるレーダと同じく、3mという高分解能のデータを取得できます。また、本レーダは多偏波観測が出来ますが、本解析ではHV偏波(水平偏波送信、垂直偏波受信)信号が水域に感度が高いことからそれを使用しています。
Pi-SAR-L画像では、表面が水で覆われているところや道路のような滑らかな地形、工場の屋根等は黒色(暗く写ります)になります。このようなレーダー信号の特徴と一部現地情報を利用してタイ国にある工業地域の一部について水域抽出とその変化解析を行いました。
下図はタイ国にある一部の工業地域の冠水状況について、11月5日と11月27日を比較したものです。
図1は、Pi-SAR-Lの解析を行なった領域を示しています。図2から図9に図1中の赤枠部分を拡大した図を示します。ロジャーナ工業地域は総面積約1164haの工業団地で、全218社のうち日系企業が147社を占めています。
図2は、ロジャーナ工業地域について赤色に11/5、青色と緑色に11/27の観測画像を割り当てた疑似カラー合成画像です。Pi-SAR-L画像では、表面が水で覆われているところは暗くなるという性質から、水が少なくなった部分や乾燥した部分は青く表示されます。
画像全体で青くなっており、11/5から11/27で水域が大きく減少したことがわかります。
図3は、ロジャーナ工業地域について11/5と11/27の解析結果を示したものです。左上と右上の画像は11/5と11/27の画像を示します。
11/5の画像から水域と思われるところの明るさ分布(閾値)を求め、水域を青色で示したものが左下の水域画像です。次に、11/5に比べ11/27が明るくなったところを回復域(変化があったと見られる場所=水が引いたと思われる地域)として緑色で示したのが右下の画像です。
図3aに、11/5観測画像、11/5解析結果、回復領域の3枚を重ね合わせた画像を示します。全体に、冠水域が減少したことがわかります。
また、建物の屋根が冠水域とされた箇所があったため、現地情報を利用して冠水していないと思われる建物を薄黄色に表示しています。
ハイテック工業地域は総面積約380haの工業団地で、全143社のうち日系企業が100社を占めています。
図4は、ハイテック工業地域について赤色に11/5、青色と緑色に11/27の観測画像を割り当てたカラー合成画像です。画像全体で水域が大きく減少した様子が見られます。
図3と同様な解析をハイテックについて実施したものを図5に示します。
図5は、ハイテック工業地域について11/5と11/27の結果を比較したものです。
左下の解析結果において、青色で示した箇所が11/5時点での冠水域と見られる箇所で、右下の画像で緑色で示した箇所が回復域となります。
工業地域全体で冠水域が減っていることがわかります。
バンパイン工業地域は総面積約313haの工業団地で、全84社のうち日系企業が30社を占めています。
図6は、バンパイン工業地域について赤色に11/5、青色と緑色に11/27の観測画像を割り当てたカラー合成画像です。画像左下部分に関して、水域が減少しているのではないかと考えられます。
図3と同様な解析をバンパインについて実施したものを図7に示します。
ナワナコン工業地域は総面積約1039haの工業団地で、全190企業のうち日系企業が104社を占めています。
図8は、ナワナコン工業地域について赤色に11/5、青色と緑色に11/27の観測画像を割り当てたカラー合成画像です。画像右上や、画像下部分では変化した状況が見られますが、工業団地全域では大きな変化は見られませんでした。図3と同様な解析をナワナコンについて実施したものを図9に示します。
図9は、ナワナコン工業地域について11/5と11/27の結果を比較したものです。
今回の解析結果より、工業地域全体で大きな変化は見られませんでした。
この浸水域情報は、タイ政府の洪水対策本部(FROC)において洪水対策の基本情報として活用されるとともに、GISTDAのウェブサイト上でタイ国民等に公開されています。
JAXAは2011年11月5日から11月27日まで、タイ国においてPi-SAR-Lの観測を行うとともに、観測したデータの処理を実施し、GISTDAへの提供を実施しました。
本年、JAXAは、ALOS、ALOS-2に搭載されるLバンド合成開口レーダをはじめとした衛星・航空機等の地球観測データを利用して、タイ国のGISTDAと、洪水、沿岸侵食、米収量の3分野をテーマとした共同研究を実施しています。今回の洪水の観測・解析は、この共同研究の一環として行われました。
JAXAはこの共同研究を継続すると共に、研究成果を陸域観測技術衛星(ALOS-2)へと反映していく予定です。