画像ライブラリー

陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による台湾で発生した水害に関する観測結果について

平成21年8月の台風8号により被害を受けた台湾中南部について、平成21年8月23日23時30分頃(日本時間、以下同じ)に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による現地の観測が実施されました。PALSARは雲に影響されずに地表を観測することができ、水害の多い時期でも天候に左右されず地表の観測を行うことができます。今回の観測では、PALSARの二重偏波モード(注1)を用い、オフナディア角34.3度で画像を取得しました。この画像を、災害前の平成21年7月8日に同じモードおよびオフナディア角で取得した画像と比較した結果、台風による土砂災害等と思われる大規模な地表面の変状が広域にわたって確認されました。
図1: 全体図
図1: 全体図

青枠はPALSAR画像(図2)の範囲を示す。

(クリックで拡大画像へ)
図2は、災害後の平成21年8月23日にPALSARにより取得したHV偏波の画像です。HV偏波の画像はPALSARの二重偏波モード(注1)で取得することができるもので、HV画像では土砂災害等により森林が流され地面が露出すると、明るさが明瞭に変化する(暗くなる)傾向があり、山間部の大規模土砂災害の検出に有効と考えられます。この画像を部分的に拡大したものを図3~図7に示します。
図2: 災害後のPALSAR画像(平成21年8月23日観測)。
図2: 災害後のPALSAR画像(平成21年8月23日観測)。

赤枠は図3~図7の範囲を示す。

(クリックで拡大画像へ)
図3は、嘉義県・大埔郷付近の拡大図です。中央に台湾最大のダム(曽文水庫)があり、災害後の画像では水域が拡大していることから、水量が大きく増していると考えられます。丸枠1の領域では水域(黒い部分)の大幅な拡張が見られます。丸枠2の領域では土砂が流れ込んで川がふさがれ(右側)、上流(左側)で水が溜まっています。豪雨による土石流で、河道が堰き止められているか、流れが大きく妨げられていると考えられます。
図3: 嘉義県・大埔郷付近の拡大図。
図3: 嘉義県・大埔郷付近の拡大図。

左: 災害後(平成21年8月23日)、右: 災害前(平成21年7月8日)

(クリックで拡大画像へ)
図3: 嘉義県・大埔郷付近の拡大図のアニメーション
図3: 嘉義県・大埔郷付近の拡大図のアニメーション
図4は高雄県・甲仙郷付近の拡大図です。丸枠1の領域は最も大規模な土石流が発生した高雄県・甲仙郷・小林村付近で、土砂が流動してできたと思われる暗い領域が見られます。画像から、その規模は幅(最大)1km、長さ2.5kmにわたっています。また丸枠2内でも数百m~1kmの規模の土石流跡と見られる、谷筋に沿った暗い領域が多数出現しています。また、中央に流れる川の河道も大きく変化しています。
図4: 高雄県・甲仙郷付近の拡大図
図4: 高雄県・甲仙郷付近の拡大図。

左: 災害後(平成21年8月23日)、右: 災害前(平成21年7月8日)

(クリックで拡大画像へ)
図4: 高雄県・甲仙郷付近の拡大図のアニメーション
図4: 高雄県・甲仙郷付近の拡大図のアニメーション
図5は高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)付近の拡大図です。丸枠内では土砂により川が堰き止められているか、流れが大きく妨げられていると考えられ、水量が大幅に増加しています。また、画像内のあちこちに、土石流跡と見られる谷筋に沿った暗い領域が見られます。
図5: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)付近の拡大図
図5: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)付近の拡大図。

左: 災害後(平成21年8月23日)、右: 災害前(平成21年7月8日)

(クリックで拡大画像へ)
図5: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)付近の拡大図のアニメーション
図5: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)付近の拡大図のアニメーション
図6は高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図です。丸枠内に土砂災害と思われる変化が見られます。また県境である中央の川は水量が変化しています。
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図。

左: 災害後(平成21年8月23日)、右: 災害前(平成21年7月8日)

(クリックで拡大画像へ)
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図のアニメーション
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図のアニメーション
図7は高雄県・桃源郷付近の拡大図です。丸枠内を中心に土石流と見られる大規模な地表の変状が多数見られます。
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図。

左: 災害後(平成21年8月23日)、右: 災害前(平成21年7月8日)

(クリックで拡大画像へ)
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図のアニメーション
図6: 高雄県・那瑪夏郷(旧名:三民郷)、嘉義県・阿里山郷の境界付近の拡大図のアニメーション

図8は、図2と同じ範囲の画像で、災害後のHV画像(平成21年8月23日)に水色、災害前のHV画像(平成21年7月8日)に赤色を割り当てて重ね合わせた疑似カラー合成画像です。この画像では災害前後で差異のある部分に色がついて見えます。このような画像を用いると、広域で起きている変状をすばやく把握することができます。

これらの結果は、水面や露出した地面等が暗く写るというLバンド合成開口レーダの特性を利用し、災害前後の画像の比較により水害や土砂災害の状況を推定したものです。画像に見られる変状の全てが災害に関係するものとは限らないため、推定結果が現地の状況と一致することを保証するものではありません。

被災された皆様には、謹んでお見舞い申し上げます。
図2: 災害後のPALSAR画像(平成21年8月23日観測)。
図8: 災害前後のカラー合成画像

(水色: 災害後/平成21年8月23日、赤色: 災害前/平成21年7月8日)

(クリックで拡大画像へ)

(注1) PALSARは、電界が地面と平行に振動する「水平偏波」と地面に垂直に振動する「垂直偏波」と呼ばれる、性質の異なる2種類の電波を観測に用いることができます。今回用いられた二重偏波モードFBD(HH+HV)では、衛星から水平偏波(H)を地上に照射し、地上で水平偏波(H)と垂直偏波(V)に分離した反射波をそれぞれ受信することにより2種類の画像を同時に取得します。これにより、1つの偏波のみ受信する単偏波モードと比べ、地表の状態についてより多くの情報を得ることができます。

JAXA EORC