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陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による2010年ニュージーランド地震にともなう緊急観測(1)

2010年9月4日1時35分頃(日本時間、以下同じ)、ニュージーランド南部・クライストチャーチ近郊(南緯43.53°、東経172.12°、深さ5km)を震源とするマグニチュード7.0の地震が発生しました(地震の規模及び位置については米国地質調査所(USGS)による発表を参照)。宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)は、9月11日21時頃に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載のLバンド合成開口レーダ(PALSAR;パルサー)による緊急観測を実施しました。本観測では2008年3月5日に同じ軌道から取得した画像と比較し、地震に伴った地殻変動の検出を試みました。「だいち」は夜間に南から北へ飛行しながら、震央及び被害が報告されている都市・クライストチャーチを含む領域を観測しました。

青枠は図2で示すPALSAR観測領域を表します。赤い星印は本地震の震央位置を示しています。
図1: 全体図(数値標高データはSRTM3を使用)
図1: 全体図(数値標高データはSRTM3を使用)
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図2:PALSAR差分干渉画像(地殻変動図)
図2: 地震後のPALSAR強度画像
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図2:地震後のPALSAR強度画像
図2:PALSAR差分干渉画像(地殻変動図)
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地震に伴う地殻変動を検出するため、地震前後に取得したPALSARデータの差分干渉解析を行いました。図2左は地震前(2008年3月5日)と地震後(2010年9月11日)のPALSARデータから得られた差分干渉画像(地殻変動図)、図2右は地震後の強度画像を示したものです。図2左の差分干渉画像から、震央を含む領域において多くの明瞭な干渉縞(虹色の縞々)が確認できます。干渉縞は断層運動に伴う地殻変動を表しており、広範囲に渡って大規模な地殻変動が起こった事を示しています。地殻変動量は、大きい所で(衛星視線方向に)1.6m以上あったと思われます。図3(図2中赤枠内を拡大した図)から、震央(赤い星印)のすぐ南に東北東-西南西方向に干渉縞が不明瞭な領域が伸び、その領域を挟んだ南北で色変化のパターンが異なる事が分かります。これは、北側が衛星から遠ざかり、南側が衛星に近づく地殻変動を示していることから、本地震は東北東-西南西方向に走向を持つ右横ずれ断層が関与した地震である可能性が考えられます。また、被害の報告されている都市・クライストチャーチでも数cm程度の地殻変動が起こっていたことが明らかになりました。今回「だいち」による観測から2010年ニュージーランド地震に伴う地殻変動が明らかになり、震源断層のメカニズムに関する情報が得られました。
図3: PALSAR干渉画像(地殻変動図)の拡大図(図2左中赤枠)
図3: PALSAR干渉画像(地殻変動図)の拡大図(図2左中赤枠)
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JAXAでは今後も「だいち」による2010年ニュージーランド地震に関する観測を継続していく予定です。

(注1) パルサー(PALSAR):

フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ。衛星から発射した電波の反射を受信するマイクロ波レーダで、夜や曇天時も撮影が可能です。

(注2) 差分干渉処理:

PALSARは『2つのデータ取得時(例えば地震の前と後)における衛星-地面間の距離』に変化があった場合、それを高い精度で検出することが可能です。地震前後のデータを比較すると、地震によって発生した地面の隆起や沈降などの地殻変動は、衛星-地面間の距離の差となり、画像では干渉縞として表わされます。本例では、青→緑→黄→赤→青の色の変化は、地面が衛星に近づくことを、逆の色の変化は地面が衛星から遠ざかることを表します。(今回の観測では画像の西側から東側に向けて観測しているので、地面が衛星に近づく場合は西向きの水平変動もしくは隆起を、地面が衛星から遠ざかる場合は東向きの水平変動もしくは沈降、を意味します)。なお、色の一周期は11.8cm分の距離変化(地殻変動;変動量は画像内での相対的な値)を示します。

JAXA EORC