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陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)によるパキスタン・フンザ川の土砂崩れにともなう堰止湖の緊急観測結果

2010年1月4日、パキスタン・フンザ地方の渓谷で土砂崩れが発生し、インダス川の支流であるフンザ川を堰き止めました。これにより雪解け水や雨が行き場を失い、自然のダム湖が発生し、フンザ川沿いの村やパキスタン北部と中国西部を結ぶ幹線道路(カラコルム・ハイウエー)を水没させています。報道によれば、湖は現在も拡大しており、ダムの決壊にともなう洪水が危惧されています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では2010年5月30日15時17分頃(日本時間)に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載の高性能可視近赤外放射計2型(アブニール・ツー)*1により現地の緊急観測を実施しました。

図1:2010年5月30日15時17分頃(日本時間)に陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載センサ高性能可視近赤外放射計2型(アブニール・ツー)により観測された画像全体(ポインティング角:33.5度, 黄枠:図2の範囲)

図1: 今回観測した画像全体
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取得日時: 2010年5月30日15時17分頃(日本時間)
センサ: AVNIR-2(アブニール・ツー)
ポインティング角度: 33.5°、黄枠: 図2の範囲

図1は今回観測した画像全体の様子を示したものです。土砂崩れが発生した地点はパキスタン・フンザ地方にあり、パキスタンの首都イスラマバードから北北東約328kmに位置しています。アブニール・ツーのバンド3, 2, 1を合成したトゥルーカラーで表示しており、人の目で見た色に近く見えます。白く見えるのは氷河や積雪、雲です。黄色枠は図2の位置を示しています。

図2:「だいち」搭載光学センサAVNIR-2で観測された土砂崩れによりできた湖と水没したパキスタン・フンザ地方Shishkat村付近の拡大、左:土砂崩れ後(2010年5月30日)、右:土砂崩れ前(2009年9月10日) 土砂崩れ後の2010年5月30日に「だいち」搭載光学センサAVNIR-2で観測された土砂崩れによりできた湖と水没したパキスタン・フンザ地方Shishkat村付近の拡大 土砂崩れ前の2009年9月10日に「だいち」搭載光学センサAVNIR-2で観測されたパキスタン・フンザ地方Shishkat村付近の拡大

図2: 土砂崩れによりできた湖と水没したShishkat村付近の拡大
左:土砂崩れ後(2010年5月30日), 右:土砂崩れ前(2009年9月10日)

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図2は土砂崩れによって発生した湖と、その湖岸にあるShishkatという村の付近を拡大したもので、左は2010年5月30日、右は土砂崩れ発生前の2009年9月10日に観測されたアブニール・ツー画像です。バンド4, 3, 2を合成したフォールスカラー画像で表示しており植生が赤く見えるため、浸水などにともなう変化の様子が分かりやすくなります。この付近は果樹の栽培が盛んな場所のようです。また、水面をより明確に区別することができます。左の画像中、緑枠は図3, 4の拡大画像の位置、矢印は図5の視線方向を示しています。

図3:陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載センサAVNIR-2により観測されたパキスタン・フンザ地方の土砂崩れが発生した渓谷の拡大(それぞれ約6km×6kmのエリア)、左:土砂崩れ後(2010年5月30日), 右:土砂崩れ前(2009年9月10日)

図3: 土砂崩れが発生した渓谷の拡大(それぞれ約6km×6kmのエリア)
左:土砂崩れ後(2010年5月30日), 右:土砂崩れ前(2009年9月10日)

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図3は土砂崩れが発生した考えられる場所を拡大したものです。土砂崩れ発生前(右図)の画像と比較すると、黄色丸で囲んだ斜面付近からダム湖が形成されていることが分かります。この部分の斜面の起伏が見られなくなっていることから、この場所で土砂崩れが発生したと考えられます。

図4:陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)搭載センサAVNIR-2により観測された水没したパキスタン・フンザ地方Shishkat村の拡大(それぞれ約6km×6kmのエリア)、左:土砂崩れ後(2010年5月30日), 右:土砂崩れ前(2009年9月10日)

図4: 水没したShishkat村の拡大(それぞれ約6km×6kmのエリア)
左:災害後(2010年5月21日), 右:災害前(2009年4月26日)

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図4は新しく発生した湖によって水没した地域を拡大したものです。土砂崩れ発生前(右図)の画像と比較すると、黄色丸で囲んだフンザ川にかかっていたカラコルム・ハイウエーの橋が湖に水没していることが確認できます。また、赤色で見える果樹園なども湖に飲み込まれていることが分かります。

図5:2010年5月30日のダム湖の様子。2010年5月30日観測のアブニール・ツー画像を2009年7月9日観測のプリズムから作成した地形データに重ね合わせた鳥瞰図。 土砂崩れ発生場所から上流を見る。

図5: 2010年5月30日のダム湖の様子
2010年5月30日観測のアブニール・ツー画像を2009年7月9日観測のプリズムから作成した地形データに重ね合わせた鳥瞰図。 土砂崩れ発生場所から上流を見る。

図5は2010年5月30日に観測したアブニール・ツー画像を、2009年7月9日に観測したパンクロマチック立体視センサ(プリズム)*2から作成した地形データ(数値表層モデル, DSM)に重ね合わせた鳥瞰図です。土砂崩れにより川が塞き止められ、その上流にダム湖が形成されている様子がよく分かります。
2010年5月30日のアブニール・ツー画像からダム湖の面積は約1,060ヘクタールと算定されました。また、図6に示すように2009年7月9日観測のプリズム画像から作成した地形データを用いて各画素における水深を推定したところ、東京ドーム約300個分(379,114,580立方m) の水量がたまっていることが分かりました(最大水深約120m, 平均35m)。今後、水量の増加にともない洪水域の拡大やダム湖の決壊などに注意する必要があります。

図6:アブニール・ツーによる湖面面積とプリズムによる地形データを組合せた水量推定の模式図

図6: アブニール・ツーによる湖面面積とプリズムによる地形データを組合せた水量推定の模式図

JAXAでは今後も当該地域を継続して観測する予定です。
なお、取得された画像はアジア防災センターを通じて現地関係機関(パキスタン国家災害管理委員会)へ提供しました。

*1
高性能可視近赤外放射計2型(アブニール・ツー): 青域から近赤外域の電磁波を4つのバンドで観測することができる光学センサで、衛星直下を観測の際には幅70kmの範囲を地上10mで識別できる能力があります。また、東西44度まで観測範囲を変更することができるポインティング機能を有しています。今回の画像は西側から33.5度で取得しました。

*2
パンクロマチック立体視センサ(プリズム): 「だいち」進行方法に対して真下(直下視)と斜め下(前方視, 後方視)の画像をほぼ同時に取得することができる光学センサで、得られたステレオ画像から地形の情報(数値標高モデル(DEM)もしくは数値表層モデル(DSM))を作成することができます。今回は土砂崩れ発生前のプリズム画像を用いることで発災前の地形を作成し、ダム湖の水量の推定を行いました。

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