世界の気象リアルタイム&GSMaPxNEXRA 全球降水予報(Ver. 2.0)
2020年8月改訂版 宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター

「世界の気象リアルタイム」とは?

JAXAでは、衛星によって地球の観測を行うことで、さまざまな有用なデータを提供しています。 衛星から得られた観測データのみならず、数値モデルとあわせて利用(融合)することで、連続的なデータを作成し、さらに衛星では得られない物理量についても提供することができるようになります。 JAXAは、豊富な観測データを活用して、解析手法の開発やシミュレーションシステムの構築に国内の研究機関と協力して取り組んでいます。

「世界の気象リアルタイム」は、現在の、地表風向・風速、地表気温、地表水蒸気量、積算水蒸気量、地表面気圧、時間積算降水量、外向き長波放射量(OLR)の画像を公開しています。 これはJAXAが東京大学や理化学研究所と共同で開発した、衛星データと気象モデルを融合するシステムNEXRA(NICAM-LETKF JAXA Research Analysis)をもとに計算した結果です。

数値気象予報では、シミュレーションされた大気状態を衛星や地上観測をもとに修正します。このような手法をデータ同化と呼び、データ同化手法を通じて、気象予測を改善する研究が世界中で進められています。 NEXRAはJAXAのスーパーコンピュータの大規模計算性能を活かした気象データ同化システムから計算されたデータで、衛星全球降水マップGSMaPを同化しており、それによる気象予測精度の向上に利点があることが特徴として挙げられます。 このNEXRAプロダクトでは、衛星では取得できない気象情報を提供することができるほか、NEXRAを用いた気象予測実験も可能です。このようなデータ同化や気象予測実験の研究成果は衛星データの現業利用に向けた技術開発に役立ちます。

NICAM-LETKF JAXA Research Analysis (NEXRA)の紹介

日々の天気予報では、様々な観測データ、例えばJAXAがこれまで打ち上げてきた地球観測衛星(GPM主衛星DPR/GMI,GCOM-W AMSR2など)、が使われています。 天気予報を行うには予報初期値が必要で、予報初期値の精度が気象予測の精度そのものに直結するからです。 具体的には次のような手順で予報初期値が作成されています。 数値予報モデルが推定したある時刻の大気状態と観測データのそれぞれの確からしさを組み合わせて尤もらしい状態(解析値)を計算し、その結果をもとに次の時刻を数値予報モデルで予測します。 次の時刻では新たに観測データが得られるので、それを取り込んで同じように解析値を計算します。 この繰り返しを時刻が進むたび行って予報初期値が作成されています。 このような一連の流れデータ同化サイクルと呼びます。 データ同化サイクルによって衛星観測データは明日の天気予報にすぐ役立ちますが、それを行うには数値予報モデルと観測データを尤もらしく取り込むデータ同化システムの双方を必要とします。 そのため、データ同化サイクルのノウハウはこれまで、気象庁のような現業機関などに限られていました。

しかし、最近の計算機性能やデータ同化技術の発展は目覚ましく、またJAXAが東京大学、国立研究開発法人 理化学研究所、千葉大学と数値気象予測モデル(Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model; NICAM, Satoh et al. 2014)と データ同化システム(Local Ensemble Transform Kalman Filter; LETKF, Kotsuki et al. 2017a, 2017b; Terasaki and Misyohi, 2017)を用いた共同研究を進めたことで、 衛星データと気象モデルの融合に関する最先端技術を開発することが出来ました(Kotsuki et al. 2019a)。 JAXAのスーパーコンピュータ(JAXA Supercomputer System Generation 2; JSS2)の大規模計算性能を活かした気象データ同化システム、ならびに、そのシステムを用いて算出したプロダクトが、 NICAM-LETKF JAXA Research Analysis (NEXRA)です。NEXRA(ねくすら)は現在、1日に4回計算され、実時間から約8時間遅れで定常的に運用されています。

衛星データと気象モデルを融合したNEXRAの特徴

NEXRAはまだ開発中ですが、現時点でもいくつかユニークな特徴をもっています。ひとつは観測データとして衛星全球降水マップ(Global Satellite Mapping of Precipitation; GSMaP)を同化している点です。 降水は水蒸気や風などに比べて時空間変動が大きく、かつ数値予報モデルが予測する降水量と観測した降水量そのものにも大きな不一致が存在しています。 そのため、観測と数値モデル間で大きな不一致をもつ降水をそのまま同化すると、降水の精度が改善されてもその降水を引き起こす大気状態の精度が悪くることが知られています。 データ同化の目的は、気象予測のための大気状態の精度向上なので、降水データは同化に好ましい情報とは言えませんでした。 そこで、NEXRAは"降水量"そのものではなく,"過去の降水頻度分布に基づくその降水の起こりやすさ"を同化することで、GSMaPの降水を同化して解析値の精度を改善させることに成功しています(Kotsuki et al., 2017a)。

NEXRAは全球のアンサンブルデータを出力していることもユニークな点のひとつです。 アンサンブル(ensemble)はフランス語が語源のようで数学における集合を意味します。 ここでいう集合とは、ちょっとしたパラレルワールドです。私たちが物差しで測った長さが測定条件の違いでばらついたりするように、観測値には測定誤差が存在します。 観測値は私たちが本当に知りたい大気状態の真値の周辺でばらついていることになります。 同じように数値モデルの予報も真値の付近でばらついているので、観測と数値モデルの誤差をうまく組み合わせて作ったばらつきそのものが、パラレルワールドことアンサンブルデータです。 アンサンブルデータはデータ同化サイクルが実行されるたびに作られて、NEXRAでは100メンバを使って計算しています。

アンサンブルデータはその時刻の観測データによって修正されているので、ばらつき具合はそれほど大きくはありません。 しかし、アンサンブルデータを予報初期値としてそれぞれ気象予測を行うと、初期値の小さな違いは時間経過とともに増幅されて、数日後の予報では低気圧の位置などが大きく異なることがあります。 アンサンブルデータを用いた予報(アンサンブル予報)結果の類似点や相違点を用いることで、対象とする現象の予測可能性についての確からしさや現象の特異性を調べることが可能になります。

GSMaPxNEXRA 全球降水予報

理化学研究所は、JAXAとの共同研究「GPM観測データ同化による降水予測アルゴリズムの高度化」のもと、NEXRAの降水予測とGSMaP理研ナウキャスト (GSMaP_RNC, Otsuka et al. 2016, 2019)の降水予測を組み合わせた世界初の全球降水シームレス予報システムを開発しました(Kotuki et al. 2019b)。

GSMaP_RNCは、従来の降水ナウキャスト手法に「データ同化」手法を取り入れ、予測精度を向上させた新しい降水ナウキャスト技術です。降水ナウキャストでは、降水分布の場所ごとの移動の方向や速さ (移動ベクトル)を捉えることが重要ですが、刻々と変動する降水分布の画像データから安定した移動ベクトルを得ることが難しいという課題がありました。 これに対して数値天気予報で用いられるデータ同化の方法を応用することで、移動ベクトルがより安定的に算出できるようになりました。この新しい降水ナウキャスト手法を、GSMaPの全球降水マップに適用し、 GSMaP_RNCとして、2017年5月以降、12時間後までの降水予報を公開してきました。

「GSMaPxNEXRA 全球降水予報」は上記成果に基づき、GSMaP_RNCとNEXRAを組み合わせた5日先までの最適な全球降水予報を提供します。

本システムの降水予測値は、GSMaP_RNCによる12時間後までの予測データと、NEXRAシステムによる5日後までの降水予測データの二つの異なる降水予測データを統合して、 一つの高精度な降水予測データを作成する新しい手法に基づいています。この手法は、場所ごとの統計的特徴を考慮した局所最適化という独自の工夫を行うことで、予測精度を向上させました。 これにより12時間後までは、GSMaP_RNCとNEXRAを統合した高精度降水予測が可能になりました。12時間後から5日後までは、GSMaP_RNCの予測精度が低下するため、NEXRAのみを用います。

注意事項
日本とその周辺の海域は、現在、理化学研究所が気象予報業務許可の変更手続きの準備中のため、予報を公開していません。そのため「NO FORECAST」として非表示としています。 将来的に、気象予報業務許可の変更届が受理された後、公開する予定です。公開された場合、気象庁発表の予報と当ウェブサイトの予報は異なることがありますが、必ず気象庁が発表する最新の気象警報・注意報の内容をご優先ください。

当サイトの利用者は、当サイトのコンテンツより得た情報を、利用者ご自身の責任において利用していただくものとします。 当サイトに含まれる情報やデータを利用することで直接・間接的に生じたいかなる損害についても、JAXA、理研およびその職員は一切の責任を負いません。 当サイトは、予告なしに掲載情報の一部または全てを変更、削除、運用を休止する場合がありますので、あらかじめご了承ください。

より詳細な説明や注意事項は、理研データ同化チームの「理研天気予報研究」ページをご覧ください。

画像の利用について

本ウェブサイトの画像をご使用になる場合は、研究データの利用条件(https://earth.jaxa.jp/policy/ja.html)をご参照ください。

データについてのお問い合わせ先

〒305-8505
茨城県つくば市千現2-1-1
宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター
NEXRAデータ事務局
E-mail:

本ページに関してコメント、疑問、質問などありましたら、上記NEXRAデータ事務局 に御連絡下さい。

参考文献

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  • Kotsuki S., K. Terasaki, K. Kanemaru, M. Satoh, T. Kubota and T. Miyoshi, 2019a: Predictability of Record-Breaking Rainfall in Japan in July 2018: Ensemble Forecast Experiments with the Near-real-time Global Atmospheric Data Assimilation System NEXRA. SOLA, 15A, 1-7. https://doi.org/10.2151/sola.15A-001.
  • Otsuka, S., S. Kotsuki, M. Ohhigashi, T. Miyoshi, 2019: GSMaP RIKEN Nowcast: Global Precipitation Nowcasting with Data Assimilation, Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II, 2019, Volume 97, Issue 6, Pages 1099-1117, https://doi.org/10.2151/jmsj.2019-061.
  • Kotsuki, S., T. Miyoshi, K. Terasaki, G.-Y. Lien, and E. Kalnay, 2017: Assimilating the Global Satellite Mapping of Precipitation Data with the Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model NICAM. J. Geophys.Res. Atmos., 122, 1-20. doi:10.1002/2016JD025355
  • Kotsuki, S., Y. Ota, T. Miyoshi, 2017: Adaptive covariance relaxation methods for ensemble data assimilation: Experiments in the real atmosphere. Quart. J. Roy. Meteorol. Soc., 143, 2001-2015. doi:10.1002/qj.3060
  • Satoh, M., Tomita, H., Yashiro, H., Miura, H., Kodama, C., Seiki, T., Noda, A. T., Yamada, Y., Goto, D., Sawada, M., Miyoshi, T., Niwa, Y., Hara, M., Ohno, Y., Iga, S., Arakawa, T., Inoue, T., Kubokawa, H., 2014: The Non-hydrostatic Icosahedral Atmospheric Model: Description and development. Progress in Earth and Planetary Science. 1, 18. doi:10.1186/s40645-014-0018-1.
  • Terasaki, K., and T. Miyoshi, 2017: Assimilating AMSU-A radiances with the NICAM-LETKF. Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 95, No. 6, pp. 433-446, 2017 doi:10.2151/jmsj.2017-028
  • Otsuka, S., S. Kotsuki, and T. Miyoshi, 2016: Nowcasting with data assimilation: a case of Global Satellite Mapping of Precipitation. Wea. Forecasting, 31, 1409-1416.
  • Terasaki, K., M. Sawada, and T. Miyoshi, 2015: Local Ensemble Transform Kalman Filter Experiments with the Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model NICAM. SOLA, 11, 23-26. doi:10.2151/sola.2015-006

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