災害

2021.07.14(水)

2021年7月上旬の梅雨前線に伴う大雨:運用を開始した水平解像度14km気象シミュレーションシステム(NEXRA)と「しずく」衛星による解析結果

はじめに

6月下旬から7月上旬にかけて日本各地で梅雨前線に伴う大雨が観測され、この大雨により日本各地で災害が発生し、多数の被害者・犠牲者が出ました。被害を受けられた方々に対し、謹んでお見舞い申し上げます。本報告では、この期間の梅雨前線とそれに伴う大雨の特徴をJAXAにおける気象解析データを用いて解説します。

気象庁では今年の6月17日より、線状の降水帯により非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を「線状降水帯」というキーワードを使って「顕著な大雨に関する全般気象情報」の発表を開始しています。
第1号は6月29日未明(2時ごろ)に発表され、その際に沖縄の各地に記録的な大雨が生じていました。その後、梅雨前線の北上に伴い、日本各地で大雨が頻発し、「顕著な大雨に関する全般気象情報」が立て続けに発表されることになりました。時系列で見ると、7月1日朝(8時ごろ)に伊豆諸島付近に「線状降水帯」の発生による大雨情報が発表された。同時に、7月1日から7月6日にかけて関東・東海地方で大雨が持続し、熱海市に土砂災害をもたらしました。続いて、7月7日の午前5時と6時頃にそれぞれ島根県と島根・鳥取の両県に、7月9日・10日に九州の鹿児島県・熊本県・宮崎県に対しても「線状降水帯」による大雨情報が発表されました。

高解像度の全球気象シミュレーションシステムNEXRA

本記事では、これらの6月下旬から7月上旬にかけての梅雨前線に伴う大雨を、JAXAで2018年11月より公開している「世界の気象リアルタイムNEXRA」のデータを用いて解析した結果をお知らせします。2020年にJAXAはJSS2(JAXA Supercomputer System Generation 2)に代わる新たなスーパーコンピュータシステムであるJSS3(JAXA Supercomputer System Generation 3)を稼働しました。
JSS2では、112kmメッシュの水平解像度で運用していましたが、JSS3では計算能力の向上により、14kmメッシュの水平解像度で予測システム(高解像度NEXRA)を定常運用することが可能となりました。そのため、2021年4月1日から高解像度NEXRAのテスト運用を開始し、公開に向けた準備を進めてきました。さらに、顕著な気象現象が発生する際に、水平解像度14 kmでのアンサンブル予測実験の実施も可能なシステムとしています。アンサンブル予測は、わずかに異なる複数の数値予測を行うことで不確定さを考慮した確率的な予測で、過去にも事例実験において同様な予測実験を実施しています:「進路予測が難しかった2019年台風10号」(2020年3月公開)参照。
本記事では、新しく公開する高解像度NEXRAのデータとアンサンブルデータを併用し、これまでの一連の大雨の振る舞いについて解析した結果を紹介します。

2021年6月下旬から7月上旬の気象概要について

図1は6月30日から7月9日までの間に毎日午前9時(日本時間JST)を初期時刻とした24時間後の梅雨前線の振る舞いの数値予測結果を示した結果です。図は積算水蒸気量(鉛直積算した水蒸気量)と雨量が10 mm/hour以上の領域を示し、雨の分布と積算水蒸気量の分布がよく一致していることがわかります。この期間、日本付近には梅雨前線に沿って帯状に大量の水蒸気が存在しており、前線の帯は南北に移動しながら場所により強い降水が生じている様子が示されています。7月1日から3日にかけて日本南岸に沿って水蒸気の多い領域が帯状に存在し、関東・東海地方の大雨をもたらしました。4日頃、西日本で梅雨前線が北上し、5日から7日にかけて日本海側に雨域が移動し、その後、九州地方にまで梅雨前線が南下しました。この間、鳥取県・島根県、九州南部に線状降水帯による大雨が生じました。

アンサンブル予測から見た雨の振る舞い

次に、熱海に土石流災害をもたらした7月3日から6日にかけての関東・東海地方の大雨の予測可能性を調べるために、高解像度NEXRAのアンサンブルデータを初期値に用いた6メンバーのアンサンブル予測実験を実施した結果を紹介します。
2021年6月30日から7月6日にかけて関東・東海地方には持続的な大雨情報が発出されていました。7月3日の午前10時ごろに熱海市において、この持続的な雨による土石流が発生し、多数の犠牲者・行方不明者が出ることとなりました。この事例に対し、2021年6月30日午前9時を初期値とした7月3日までのアンサンブル予測実験を行いました。図2-1はGSMaPの観測雨量とNEXRAアンサンブル実験の平均による3日間(7月1日から3日まで)の累積雨量の分布を示しています。NEXRAアンサンブル平均では、3日間の累積雨量はGSMaPより少ないものの、降水分布をよく捉えています。
図2-2はNEXRAのアンサンブル実験における各メンバーの累積雨量を示す図です。メンバー間の変動がありますが、熱海市において土石流発生時(7月3日9時頃)に、東海地方での累積雨量は最大200mmに達していました。この東海地方の持続的な多雨は衛星全球降水マップGSMaPによく捉えられており、アンサンブル予測実験の結果はGSMaPの観測結果とよく一致しています。GSMaPの雨量データの解析によれば、この雨は数十年一度程度の頻度生じる極端な大雨でした(7月5日公開記事)。

「しずく」衛星による観測結果と大雨の要因に関する考察

これまでNEXRAの気象シミュレーション結果を示しましたが、人工衛星による観測結果と比べることで、今回の雨をもたらした水蒸気についてさらに考察を試みました。図3-1に水循環変動観測衛星「しずく」GCOM-Wに搭載されている高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)が捉えた、南シナ海から北西太平洋にかけての日本周辺領域の積算水蒸気量と海面水温を示します。図3-1は、観測された2021年7月1~3日における積算水蒸気量平均値と2021年6月30~7月4日における海面水温平均値の平年値からの偏差を示します。積算水蒸気の平年値は「しずく」によって観測された2012-2019年の7月1~3日の積算水蒸気量平均値を用いており、偏差は割合(2021年平均値/平年値)で表しています。海面水温の平年値は気象庁提供の1990-2019年の6月30日~7月4日の平均海面水温を用いており、偏差は大きさ[℃]で示しています。日本付近の水蒸気量は平年(気候値)より多く、雨が降りやすい状態であることが示されています。水蒸気は日本南岸から南西諸島、フィリピン島東方の海域において多くなっていました。海面水温は、日本の南方海域は平年より低めであり、フィリピン島東方海域で高温偏差でした。

図3-2(左)に、図1で示した高解像度NEXRAの積算水蒸気量と風速に加えて、海面気圧を示します。太平洋高気圧の縁に沿って吹く風の流れがわかります。このことから、図3-2(右)に示すように、日本の南西域で供給された水蒸気が、高気圧の縁に沿って吹く風によって日本に輸送され、梅雨前線上において大雨を引き起こしたことを示唆しています。

最後に

本稿では、2021年7月上旬の梅雨前線に伴う大雨について、気象解析システムNEXRAによりシミュレーションと「しずく」衛星観測データによる解析結果を示しました。紹介した水平解像度14 km の高解像度のNEXRA解析システムは2021年7月14日から公開いたしますので、ぜひご覧ください。このような高解像度化した気象シミュレーション結果や「しずく」やGSMaPなどの地球観測データを有効的に活用して、防災・減災につながる情報を迅速に社会へ提供するとともに、地球上の水循環研究など地球科学分野の理解へ貢献できるよう引き続き研究に取り組んでいきます。
(解析・文章作成:東京大学大気海洋研究所 Chen Ying-Wen 特任研究員・佐藤正樹 教授、JAXA/EORC 久保田拓志研究領域主幹、可知美佐子研究領域主幹、小原慧一研究開発員)

観測画像について

画像:観測画像について

図2-1

観測衛星 全球降水観測計画主衛星(GPM core observatory)
観測センサ 全球降水マップ(GSMaP)
観測日時 2021年7月1日~3日(左)

図3-1

観測衛星 水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)
観測センサ 高性能マイクロ波放射計(AMSR2)
観測日時 2021年7月1日~3日(上段)
2021年6月30日~7月4日(下段)

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