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地球が見える 2020年

衛星から台風通過時の海面水温低下を測る

2020年(令和2年)9月6日から7日にかけて沖縄県の大東島から九州地方に接近した大型の台風10号「HAISHEN」は、特別警報級の勢力で日本への接近・上陸の恐れがあったため、事前に各方面で警戒を促す報道が盛んにありました。結果的に、事前の想定ほどに勢力が発達しなかったため、特別警報こそ発令されませんでしたが、大型で非常に強い勢力で接近した結果、九州で大規模な停電が発生するなど、多くの被害がありました。被害を受けられた皆様には、謹んでお見舞い申し上げます。

今回は、これらの台風が通過した際に海面水温がどうなっていたのか、JAXAの水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)搭載の高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)による観測や、最新の海洋モデルの出力を中心にご紹介します。なお、衛星からの海面水温観測の特徴については、文末にまとめましたので、ご興味のある方は是非ご参照ください。

台風はどんな進路をとっていたか

全く台風が発生しなかった前月とは対照的に、2020年8月には、台風3号から10号までの8つの台風が発生しました。このうち、8月下旬から9月上旬にかけて東シナ海付近を通過したのは、台風8号「BAVI」(8月21日~28日)、台風9号「MAYSAK」(8月28日~9月3日)、台風10号「HAISHEN」(8月31日~9月8日)の3つでした。図1-1はそれぞれの台風進路と強さ(風速)を示しており、3つの台風は、8月下旬~9月上旬の20日足らずの間に次々と東シナ海を通過していきました。

東シナ海を通過した際に、それぞれの台風がどれくらいの勢力だったかを見るために、AMSR2による降水量と全天候海上風速(海上での風の強さ。雨天時も推定可能)を図1-2に示します。このときの台風8号の最大風速(気象庁発表による)は42.2m/s、台風9号と台風10号の最大風速はそれぞれ50m/sで、AMSR2による台風の中心付近の風速が気象庁の発表とよく一致していることがわかります。また、風速が40m/s以上を示す橙~赤色の領域が、台風10号では直前の2つの台風に比べて大きく広がっていたのも特徴でした。

令和2年台風8号(左)、台風9号(中央)、台風10号(右)の進路図。

図1-1. 令和2年台風8号(左)、台風9号(中央)、台風10号(右)の進路図。

AMSR2によって観測された、台風が東シナ海に接近した際の降水量

AMSR2によって観測された、台風が東シナ海に接近した際の全天候海上風速

図1-2. AMSR2によって観測された、台風が東シナ海に接近した際の降水量(上段)と全天候海上風速(下段)。左から順に、台風8号(8月25日 13:55日本時間)、台風9号(9月1日 14:01日本時間)、台風10号(9月5日 13:35日本時間)。

台風の通過と海面水温の変化

では、8月の日本周辺域の海面水温はどういう状況だったでしょうか。図2-1は、AMSR2の2020年8月の1か月間平均の海面水温(左)と平年からの偏差(右)です。8月11日掲載の「令和2年7月豪雨に関連する衛星観測」で、6月と7月の海面水温の偏差をご紹介しましたが、8月になって全国的に梅雨が明けて、日本の南側の広い範囲で、海面水温が平年よりも平均して2~3℃高く、場所によっては32°C近くまで上昇していました。これに対して、今回台風が通過した東シナ海付近では、平年より少し高い30°C前後でした。

AMSR2による2020年8月の平均海面水温

AMSR2による2020年8月の偏差(平年値からの差)

図2-1. AMSR2による2020年8月の平均海面水温(左)と偏差(平年値からの差)。平年値は気象庁提供の1990-2019年の月平均海面水温から作成した30年平均値。

それでは3つの台風が通過した前後で、日本周辺の海面水温がどのように変化したかを見てみましょう。
図2-2は、2020年8月10日~9月10日までの期間のAMSR2が観測した毎日の海面水温について、連続する5日間の最小値(該当日を含む過去5日間の最小値)に、静止気象衛星ひまわり8号の6時間毎の雲画像を重畳したアニメーションです。

8月の中旬頃は、東シナ海から太平洋にかけて海面水温が30°Cを超えるような高い領域が多かったのですが、8月下旬に台風8号が東シナ海を通過すると、台風の進路に沿って30°C以下に下がりました。続けて、9月初めに台風9号が通過すると、進路の周辺の東シナ海の海面水温は24°C程度にまで下がりました。その後、台風10号の通過に伴って、奄美大島や沖縄を含む南西諸島の東側の太平洋域の広い範囲で海面水温がさらに低下していった様子がはっきりわかります。

台風が通過すると、海面水温は主に2つの効果で低下すると言われています。ひとつは、主に台風に伴う反時計回りの風によって海面下の比較的冷たい海水が海面に湧き上げられる効果で、もうひとつは、台風による強い風によって海面の温かい海水とその下にある冷たい海水がかき混ぜられる効果です。今回の台風は非常に勢力が強かったために、風が強く、気圧も低い状況であり、両方の効果によって海面水温の低下が起こったと考えられます。AMSR2は、雲を透過して海面を観測できるため、台風の通過の直前・直後の海面水温の変化の様子を捉えることができました。

図2-2. AMSR2の海面水温(該当日を含む過去5日間の最小値)の2020年8月10日~9月10日の動画。
静止気象衛星ひまわり8号による6時間毎の雲画像(UTCの0時、6時、12時、18時)を重畳。台風8号は8月21日に台湾の東側で発生し、8月22日~26日にかけて沖縄から東シナ海を通過。台風9号は8月28日にフィリピンの東側海域で発生して北上し、8月31日~9月1日にかけて沖縄から東シナ海を通過。台風10号は8月31日に日本の南海上の東経145度付近で発生した後に北西方向に移動、9月6日~7日にかけて沖縄・九州地方に接近。

このような台風の通過に伴う海面水温の変化は、海洋モデルでも再現されています。図2-3は、JAXAが作成する衛星海面水温を、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が開発した約3kmの空間解像度の領域海洋モデル(JCOPE-T DA)に同化した、モデル出力の海面水温をAMSR2海面水温と比較した動画です。このデータ同化システムは、JAXAとJAMSTECが共同で開発したもので、2018年11月からJAXAのウェブサイトから画像やモデル海面水温データを定常的に公開しています

この海洋モデルでは、AMSR2やGCOM-C搭載の多波長光学放射計(SGLI)、ひまわり8号などの6種類の衛星海面水温等を同化しており、台風の通過に伴う海面水温の低下を見ることができます。

図2-3. 衛星海面水温を同化した海洋モデルの出力(右)の2020年8月10日~9月10日の6時間毎(UTCの0時、6時、12時、18時)の海面水温と、AMSR2海面水温(左)の動画。AMSR2海面水温は図2-2と同じデータだが、海洋モデルと同じ領域・カラーバーに調整。

図2-4は、海洋モデルの海面水温と海面下の水温鉛直断面を示したものです。一番右側の鉛直水温プロファイルは、左の図の赤い十字線の交差している点での海洋表面から深さ500mまでの海面水温の変化で、台風10号が通過している海域では、水温が100mに届く深さまで混合している様子がわかります。このように、衛星と海洋モデルを組み合わせることで、衛星だけからは観測できない、海中の情報を知ることができます。

2020年9月6日7時台(日本時間)の海洋モデルの海面水温の分布と、赤線で示す緯度・経度に沿った水温鉛直断面。台風10号の影響範囲に入っている赤線交差点の水温鉛直プロファイルを右に示す。

図2-4. 2020年9月6日7時台(日本時間)の海洋モデルの海面水温の分布と、赤線で示す緯度・経度に沿った水温鉛直断面。台風10号の影響範囲に入っている赤線交差点の水温鉛直プロファイルを右に示す。

さて、今年の台風シーズンはまだ終わっていません。一時期よりは緩和したものの、日本の南側の海面水温は28°C以上と高い状況です。9月23日時点では、9月20日に日本の南海上で発生した台風12号「DOLPHIN」が24~25日にかけて関東甲信地方に接近する予報となっており、秋雨前線の活発化と相まって、東日本に大雨をもたらす可能性があります。今後の情報に十分ご注意ください。JAXA/EORCでは、「台風速報」、「世界の雨分布速報」、「AMSR地球環境ビューワ」などから準リアルタイムの衛星観測情報を、「JAXAひまわりモニタ:海中天気予報」から海洋モデルの情報を公開しておりますので、こちらも是非ご参照ください。

(参考)衛星による海面水温観測の特徴

今回ご紹介したのは、「衛星からの海面水温観測で長い歴史を持っているのは、静止気象衛星ひまわり8号や気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)に搭載されているような赤外の波長帯を持つ放射計で、空間解像度が高く(ひまわり8号で2km、「しきさい」で250mの空間解像度)、沿岸近くまで詳細な観測が可能ですが、上空に雲があるとその下の海面水温を観測できないという弱点があります。

これに対して、「しずく」搭載のマイクロ波放射計は、6-10GHzというマイクロ波帯を使うため、上空に雲が合っても、これを透過して、下の海面水温を観測することができます。残念ながら、強い雨がある場合には海面水温を推定できないことや、赤外放射計に比べて解像度が粗い(AMSR2で30-50kmの空間解像度)という弱点はありますが、台風の雲域では雨が降っていないところも場所も多いことから、台風が通過する際の海面水温の低下を捉えることができます。

このように得手不得手が異なる赤外放射計とマイクロ波放射計による海面水温観測は、お互いの弱点を補完しあうことができます。利用者の目的や用途に応じて、どちらかによる観測を利用するだけでなく、数値モデルへの入力など、両者の観測を複合した利用も行われています。

観測画像について

画像:観測画像について


図1-2,2-2,2-3

観測衛星 水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)
観測センサ 高性能マイクロ波放射計(AMSR2)
観測日時 2020年8月25日13:55日本時間(図1-2左)
2020年9月1日14:01日本時間(図1-2中)
2020年9月5日13:35日本時間(図1-2右)
2020年8月10日~9月10日(図2-2,図2-3)

図2-2,2-3(雲画像)

観測衛星 静止気象衛星ひまわり8号
観測センサ 可視赤外放射計(AHI)
観測日時 2020年8月10日~9月10日0時,6時,12時,18時(UTC)

関連リンク

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