PAR プロダクトについて

1.はじめに

光合成有効放射(PAR)は、海洋・陸の光合成による基礎生産量を見積もるために必要な量の一つで、地表面に到達する400nm~700nm波長の太陽光の量(ここでは日平均値をEinstein/m2/dayで表す)で定義されます。海洋域については、NASA/SeaWiFSプロジェクトやJAXA/GLIプロジェクト等で推定アルゴリズムが開発されており、月平均で地上観測との差(RMS)は10%程度と報告されています。(Frouin and Murakami, Journal of Oceanogr. 2007参照)。 さらに本研究では、GLIプロジェクトにおいて開発した、380nmや412nm波長による陸面のエアロゾル量や地表面反射率の推定手法を応用し、陸面におけるPARの推定を行いました。
本研究におけるデータには、PARの他に、植生域における光の透過・吸収の詳細を解析するための拡散・直達光の分離(PARの直達光成分の全量に対する比率)や、 気象分野で一般に使われる短波放射(太陽放射300nm~4umの全量)への変換も試みています。

2.推定方法

2.1 PARMDS021KM_J20080701AVH_C121_0676_0651_PAR.JPG - 438,129BYTES

PAR推定の原理は、Frouin and Murakami, 2007 (Frouin, R., and H. Murakami, 2007: Estimating photosynthetically available radiation at the ocean surface from ADEOS-II global imager data, J. Oceanography, 63, 493-503.)を参照してください。雲と地表面を合わせたCloud-surface systemという考え方を用い、高速に処理可能な推定手法を提案したものです。

上記の推定の中には地表面と大気・雲との総合作用の効果が考慮されており、この海洋域アルゴリズムで用いている海面の反射率を陸の反射率で置き換えることで、陸面のPARの推定も行っています。地表面の推定では、先ず、植生や短波長赤外の反射率から紫波長での地表面反射率を推定し、衛星観測地と比較することでエアロゾル量を推定します。次に雲域で見えない場所を埋めるために、エアロゾル量を用いて推定した可視域の地表面反射率のデータを1ヶ月間平均します。この1ヶ月平均した可視波長域のエアロゾル補正済み分光地表面反射率データを上記のPAR処理に入力し、陸上のPARを推定します(右図は2008年7月の例)。

PARは本研究ではEin/m2/dayという単位を用いています。Einはアインシュタインという単位で、”1 molの光子が持つエネルギー”という意味です。の他にもいくつかの単位で示される場合があります。例えばmol-quanta/sec/m2による測定を日平均すれば本研究のEin/m2/dayとなります。また、日射量と同じW/m^2単位で表されている場合は、0.1193 / 0.3を掛けて日平均すればEin/m2/dayとなります。

 

2.2 直達PAR比率MDS021KM_J20080701AVH_C121_0676_0651_DIR.JPG - 658,461BYTES

試験的に作成している全PARに対する直達光の比率は、ここで”PARに対する直達透過率で計算される光量の比率”と定義します。本研究では、先ず、Rstar6b(OpenCLASTRプロジェクト)を用いて各雲・エアロゾル状態において計算した大気上端反射率と、衛星観測の大気上端反射率を対応づけることで、エアロゾルや雲の厚さ(光学的厚さTau)を推定しています。このTauから大気の直達透過光量を推定し上記のPARで割ることで直達光比率を計算しています(右図)。

光学的厚さが小さい時には直達光以外の散乱光の中にも直達光と似た方向への散乱(前方散乱)が多く含まれますが、本研究の直達透過光にはこの前方散乱成分は含まれません。現場の観測との比較を行う場合は御注意ください

 

 

 

2.3 短波放射量PARBYRAD_20080701AVH.JPG - 321,204BYTES

太陽からの入射光を表す短波放射は気象分野などでよく用いられており、現場観測でも日射量の計測が多く行われています。日射量とPARの比率は雲やエアロゾルや水蒸気による大気の分光透過率の変化によっておおよそ0.4〜0.65の間で変化します(右図)。本研究では上記で求めた雲・エアロゾル・水蒸気量を元にその比率を推定しています。

日射量は一般にW/m^2の単位で表されますが、この単位とPARのEin/m2/dayとの関係は以下になります。

par [Ein/m^2/day] = Daily-mean shortwave irradiance [W/m^2] * 0.1193 / 0.3[um] * Rp_r

   0.1193: from "Kirk, J. T. O., “Light and photosynthesis in aquatic ecosystems”, 2nd edition, Cambridge University Press, 509 pp., 1994."
   0.3um = 0.7um - 0.4um
   Rp_r = func(tau, water vapor, solar zenith): 0.40 ~ 0.65

(1) tau is known

Rp_r=c(1) +c(2)*tau +c(3)*tpw +c(4)*csoz +c(5)*sqrt(tau) +c(6)*sqrt(tpw) +c(7)*sqrt(csoz)
tau: cloud/aerosol optical thickness,

tpw: precipitable water[mm],

csoz: cosine solar zenith angle at each hour, or noon (for raily average)
       for cloud:
         c=[ 3.6743e-01,-1.7464e-04,-4.0704e-04,-4.8647e-02, 1.4920e-02, 1.2019e-02, 7.6676e-02];
       for aerosol
         c=[ 3.3910e-01,-1.4243e-02,-3.6544e-04,-6.0112e-02,-6.7650e-03, 1.3493e-02, 1.2245e-01];

regression error of the simulation: ~0.7%

 

(2) tau is unknown

Rp_r=c(1) +c(2)*(par/csoz) +c(3)*tpw +c(4)*csoz +c(5)*sqrt((par/csoz)) +c(6)*sqrt(tpw) +c(7)*sqrt(csoz)

c(1~7)=[5.5265e01, 4.7782e04, 3.4327e04, 1.1488e01, 2.2615e02, 1.2352e02, 2.3272e01];

regression error of the simulation: ~3%

3.精度評価

精度評価は、現在進行中です。
筑波大、岐阜大、産総研、国環研等が連携して行っているPhenological Eyes Network (PEN)の高山の約3年間のデータを用いて比較検証を行ったところ(下図)では、1日平均で20%、8日平均で9%、月平均で6%程度の誤差(衛星PAR-現場のRMSの平均値に対する比率)となっています。
 

PARや分光日射観測データは本精度検証・改善に必須であり、1998〜でお持ちのデータを御提供いただければ幸いです(Topの問い合わせ宛へ)。

PAR_MUD_PEN.JPG

 

4. Global Data Archive (see here)

 - 0.25 deg grid binary data: monthly, daily binary,& readme file

 - 0.05 deg grid binary data: monthly, daily binary,& readme file