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Earth Cloud, Aerosol and Radiation Explorer
Mission - Objectives
EarthCAREミッションの目的


★ミッションの目的★
前述のような科学的COP的モデル的課題をふまえて、「ミッションとしての」目的と、そのブレイクダウンとしての具体的な達成課題(精度目標)をかく。
サイエンスにぶれすぎず、あくまでミッションとして何をすべきものであるか、ということにもとづいた内容にする。


<レビュー版> 最終的にはページ分け、その他視覚効果を施します。



重要性が認識される雲とエアロゾル


雲・エアロゾルの全球三次元構造は、世界気象機関(WMO)/国際気候研究プログラム(WCRP)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において、気候変動に関してモニタすべき重要な物理量の1つとして認識され、地球観測10年実施計画が求める「複数システムからなる全球地球観測システム(GEOSS)」への観測要求源泉となるなど、その重要性は国際的に認識されています。

雲やエアロゾルの観測は、空間スケールが大きい(数km〜数百km)ことや、鉛直分布を含む三次元的な観測が必要なことから、これまで地上観測は十分におこなわれておらず、全球的な観測データがほとんど得られていないこれまで地上観測や衛星観測がおこなわれてきたものの、時空間変動が大きいことや、鉛直分布を含む三次元的な構造をもつことなどから、より多くの全球的な観測データが必要な状況にあります。このように観測データが不十分で、科学的な理解度も低い物理量を集中的に観測・評価することは、数値気候モデルの精度向上に有効で、気候変動の理解と予測精度向上の目標に対して大きな効果が期待されています。




気候変動の理解、評価、予測は、地球観測サミットにて採択された地球観測10年実施計画における社会利益分野の1つとして取り上げられ、わが国が重点的に貢献する分野の1つとして挙げられています。しかしながら、下記リンクのコーナーでも紹介したような数値気候モデル間の大きな予測誤差により、現状では世界の国・領域別の環境政策の決定に貢献するような長期的な気候変動予測を実現するにはほど遠い状況にあり、気候変動予測の数値精度向上が大きな課題となっています。

気候変動予測の現状

EarthCAREミッションの目標


このような背景を踏まえて、日欧の共同ミッションであるEarthCAREミッションが立ち上がりました。
EarthCAREミッションの目的は、雲・エアロゾルの3次元構造をグローバルに計測することにより、気候変動予測モデルにおいて大きな不確定要素である雲とエアロゾルの相互作用およびその放射的効果を解明し、地球温暖化予測の精度向上に貢献することです。その達成のために、日欧共同のミッションアドバイザリグループによって、以下をミッション全体の目的として設定がおこなわれています。

  • 全球スケールにおける自然起源、人為起源のエアロゾル分布、およびその微物理特性と雲との相互作用の観測
  • 全球スケールにおける大気中の雲水、雲氷の鉛直分布と雲による輸送、およびその放射的効果の観測
  • 雲の分布(オーバーラップ状況)、雲と降水の相互作用、および雲内の鉛直方向運動の観測
  • 上記の観測結果から得られたエアロゾルと雲の諸特性の組合せによる大気場の評価を通じた大気放射による加熱/冷却の鉛直分布の評価

地球温暖化予測の精度向上は、具体的には気象モデル、気候モデル、領域モデルといった数値予報モデルへの反映によってなされます。
上に述べたような目的を達成するにあたっては、EarthCAREの観測により得られた情報や評価結果をもとに、それぞれの数値予報モデルへの反映(データ同化)を通じて数値予報モデルの改良をおこない、改良されたモデルによって大気上端における10km2領域での放射収支に対して10W/m2の精度での測定を実現することがEarthCAREミッションの最終的な目標です。

では、目標を達成するためにどのような観測がおこなわれるのでしょうか? 次ページで紹介します。


EarthCAREミッションの目標に関する詳細は、日欧共同のミッションアドバイザリグループにより、ミッション要求文書(MRD)で定義されています。
トビアスえ確認



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次ページ : 雲・エアロゾルへ挑む −EarthCAREが想定する観測対象−
 




EarthCAREが想定する観測対象



地上から見上げるとさまざまな形や大きさの雲を見つけることができる。夕日を受けると雲の立体構造が美しい色の輝きの変化や陰影の違いとして目に飛び込んでくることがあるが、立体的にとらえると雲の出現高度や厚さ、重なり方もさまざまである。雲の存在時間や時間変化、雲粒が示す物理的特性や雲による放射収支に与える影響も固有である。さらにエアロゾルの存在によってこのような雲の特性が影響を受け、変化することが知られている。地球環境における雲のふるまいはじつに複雑で、科学的にもよく解明されていないことがたくさんある。

雲・エアロゾルによる放射特性の科学的な理解には、雲・エアロゾルそのものがもつ以下のような事象へのアプローチが必要であると考えられています。

  • エアロゾルの消散・吸収特性

  • 雲の形状やオーバーラップ(上下の重なり)や含んだ地球規模での雲の構造

  • 雲の水分量、雲粒子のサイズや形状、微小スケールでの雲の構造

EarthCAREは、大気からの外向き放射量と、雲とエアロゾルそれぞれにおける水平分布と鉛直構造について同時的な観測をおこない、雲・エアロゾルによる放射特性の理解に必要な情報を、地球上のすべての気候帯をカバーしながらくり返し取得ができるよう設計されました。
雲・エアロゾルによる放射特性の科学的な理解のために、EarthCAREの観測が想定している情報とは、具体的には以下のものです。

  • エアロゾルの分布および特性
    • エアロゾル層の発生状況と、それらにおける消散係数および境界層高度の鉛直プロファイル
    • 人為起源・自然起源の吸収性、および非吸収性エアロゾルの有無
  • 雲の分布および特性
    • 雲の重なりを含めた鉛直分布における境界高度(雲頂・雲底高度)
    • Height resolved fractional cloud cover and cloud overlap.
      和訳
  • 雲の対流運動や氷晶の沈降を推定するための鉛直速度
  • ドリズルや弱い雨における降雨強度
  • 広帯域、狭帯域において計測された大気上端での太陽放射および地球放射の放射輝度

次ページでは、これらの情報を得るために、具体的にどのような観測手法や装置がEarthCAREで用いられるのか、EarthCAREの装置設計について紹介します。




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次ページ : EarthCAREの装置設計
 

EarthCAREの装置設計 - 4タイプの観測センサによる同期観測


このような情報を取得するために、EarthCAREには4つのタイプの観測装置(センサ)が搭載され、それらによる同期的な観測(シナジー観測)をおこないます。
観測対象に対応した計測技術と、具体的に設計されたEarthCAREの観測装置について概要を示したものが次の図です。

雲・エアロゾルの水平・鉛直分布と特性 … CPR, ATLID, MSI

雲・エアロゾルの分布や特性に関する鉛直プロファイルを計測するためには、装置からアクティブに信号を送信する「能動型タイプ」のセンサが必要です。対象からの後方散乱信号により情報を得るこのタイプのセンサでは、用いる送信波の波長に依存して、探知できる対象の大きさが決まります。EarthCAREの対象は雲とエアロゾル(すなわち粒子)ですから、送信波長によって感度の対象となる粒子の大きさが異なる、というわけです。

地球上に存在する雲とエアロゾルは、粒子の大きさが直径10nm〜0.1mm程度まで幅があり、それぞれの粒子の直径に対して適した観測装置を準備する必要があります。

94GHz帯のミリ波レーダーは、送信波長約3.2mmであり、地球上のほとんどのタイプの雲に関して感度が高く、効果的にデータを収集することが可能です。また、雲粒よりもややサイズが大きいドリズル(霧雨)や弱い雨に対しても感度を持ちます。

一方で、エアロゾルは雲より粒子のサイズがさらに小さく、レーダーよりも送信波長の短いライダーが有効です。波長355nmの紫外線を用いたライダは、エアロゾルに対して感度を持つほか、巻雲のようなごく薄い雲に対しても感度を持ちます。
レーダーとライダの同時観測を行うことで、両方の装置の感度特性における利点を組み合わせて、より精度の高いデータを得ようというのがEarthCAREの装置設計における大きな特徴です。

さらに、大気観測用にチャンネルの選択がおこなわれたイメージャによる雲やエアロゾルの水平分布データを組みあわせることで、衛星直下方向にしかデータが得られないレーダーとライダーの観測を補い、3次元的な情報を再現します。

大気の対流による上昇・下降流 … CPR

ドップラー気象レーダーは、粒子の運動によるドップラー効果を利用して局所的な風の動きを探知することが可能で、空港などでは実際に利用されています。EarthCAREでは、ミリ波レーダーにドップラー速度計測機能を備えることで、雲粒の上下方向の動きをもとに、鉛直風の強さに関する情報を得られることが期待されます。

大気上端における放射収支 … BBR

広帯域放射収支計は、大気上端における放射収支の計測を行います。短波域(太陽放射)と長波域(地球放射)についての大気上端における上向き放射フラックスを得ることで、レーダー、ライダー、イメージャで得られた雲やエアロゾルのデータと放射収支との比較検証が可能になります。




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次ページ : 他ミッションとの連携
 

他衛星とのつながりを書く

グローバルな地球環境観測をめざして - 他衛星ミッションとの連携


地球環境変動観測ミッション(GCOM)

GCOM-C衛星に搭載される多波長光学放射計(SGLI)からは、雲・エアロゾルの全球分布の長期間継続的な観測結果が得られることが期待されています。
EarthCAREでは、SGLIでは観測できない雲・エアロゾルの三次元構造の観測結果から、雲・エアロゾルの気候への影響度への評価できる利点があります。これらの2つの組みあわせにより、雲・エアロゾルによる気候への影響度の全体量(全球分布)の正確な評価が可能となり、数値気候モデルの精度向上に大きく貢献することが期待されています。

全球降水観測計画(GPM)

GPM主衛星に搭載される二周波降水レーダー(DPR)は、Ka帯、Ku帯の2つの周波数による観測をおこなうことにより、さまざまな種類の降水について、降雨強度などの3次元構造を全球範囲で観測をおこなうミッションです。
マイクロ波放射計を搭載する副衛星も同時に運用され、地球規模で高頻度の降水観測が期待されています。
ミリ波のW帯の周波数を使用するEarthCARE/CPRは、霧雨のような弱い降水は観測できるものの、降雨全体の観測に適していませんが、DPRが観測できない雲の観測ができる利点があります。また、CPRのドップラー速度計測機能により、降水の始まる主要因の1つである雲中の対流を観測することができます。ATLIDは、雲よりもさらに直径の小さいエアロゾルの探知に関して、CPRよりも適したスペックを持っています。

EarthCAREとGPMのそれぞれがもつ異なる周波数帯のレーダー、ライダーをあわせると、探知の範囲がエアロゾル、雲、霧雨などの弱い降水、強い降水へと広がり、降水現象全般に関するグローバルなリモートセンシングデータの収集が可能となります。
また、雲の生成消滅過程に関する理解や、相変化(水蒸気−液体・固体降水への変化)をともなう水を介した大気中のエネルギー輸送や収支の正確な把握が可能となり、数値気候モデルの精度向上に大きく貢献することが期待されています。

A-Train計画

アメリカのA-Train計画は、CPRと同様なミリ波雲レーダーを搭載するCloudSatとライダーを搭載するCALIPSOのほか、EOS衛星シリーズのうちAuraAqua、日本のGCOM-W、米国のOCO2衛星などを同一軌道上で運用し、総合的に大気環境観測をおこなう計画です。
CloudSat、CALIPSOはともに2006年から運用され、それぞれ雲レーダー(CPR)、ライダ(CALIOP)による観測をおこなってきました。

EarthCAREはCloudSat、CALIPSOの観測目標を引き継ぎ、1つの衛星にレーダーとライダーを搭載することでよりデータの同時性が高い観測が可能となります。さらに、両衛星よりも低い高度で運用されることで、より高精度な観測が可能となるほか、衛星搭載雲レーダとしては世界初のドップラー速度計測機能が追加されます。CloudSat、CALIPSOと、EarthCAREの観測によって雲・エアロゾルに関する継続的な観測データが得られることで、これまで観測が十分でなかった地球規模での雲・エアロゾルについての情報が蓄積され、より正確なデータ検証が実現がされるものと期待されています。

このほか、大気中の二酸化炭素の全球分布の観測により炭素循環の解明を目指しているGOSAT(温室効果ガス観測技術衛星)や、現業の気象観測を主目的として運用を開始されるNPOESS(米国極軌道現業観測衛星システム)計画など、グローバル規模での大気環境・気象観測への取り組みが進められています。
そのような中でEarthCAREは、雲・エアロゾルの三次元構造や放射収支など、雲を含んだ大気環境に焦点をおいた先端的観測をおこない、雲・エアロゾルが気候に影響を及ぼすプロセスの理解と気候変動モデルへの反映によって、国際社会に貢献します。 

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次ページ : EarthCAREがめざすサイエンス
 




雲エアロゾルとモデルとのつながり、モデルへの反映が最終的に大事なことを書く。

EarthCAREがめざすサイエンス


片桐さんの原文そのまま。

JAXAではEarthCAREでの観測を通し、より正確な地球温暖化予測の実現を目指しています。そのため国内外の多くの研究者と密に関係を持ちながら、EarthCAREに求められる性能を評価し、その実現に向けて研究開発を続けてきました。多分野の研究者を衛星観測データのユーザとして迎えることにより、様々な利用研究が期待されています。例えば、一番の目標として掲げているものは、最近地球温暖化関連の話題で取り上げられることの多い「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)のレポートへ、日本が大きな貢献をすることです。

図1 EarthCAREが目指すサイエンス

図1に示しますように、このプロジェクトでは衛星観測データと気候モデル・気象予報モデルなどが密接に連携を取りながら研究を進める体制を構築しています。これまでの研究では衛星観測と気候モデルを用いた数値計算の結果を結びつけて理解しようにも、2つのデータを単純に比較できませんでした。それは気候モデルを用いた計算の粗さや、不確定要素を多く含むパラメタリゼーションの問題などに起因しています。

しかし近年になって、計算機の能力の急速な発展と共に、非常に現実的な非静力学雲解像全球モデル(NICAM等)による計算が行われるようになり、そのモデル計算の結果と衛星観測とを緻密に比較できるようになりました(図2はその一例)。

図2 衛星画像(左)とモデル計算(右:NICAM)の結果。
モデルはMadden-Julian Oscillation(MJO: 赤道季節内振動)に伴う、東南アジア島嶼部の水平スケール数百キロの組織化された雲群を再現しています(三浦らによる。2007年12月にScienceに掲載)。
図の差し替え

そこでEarthCAREにより得られた観測データをこのモデルの改良に用いることで、さらに正確な計算が可能となります。また、この高精細な非静力学雲解像全球モデルと衛星観測が高い整合性を得られるようになれば、そこで解明された物理現象のメカニズムを、より現実的なパラメタリゼーションとして気候モデルに適応することによって、精度の良い地球温暖化の研究が行えるようになります。特に全球に渡る雲の鉛直構造と、その内部の運動の様子をCPRで観測することは、雲の生成プロセスを直接観測することとなり、モデルを用いた研究に与えるインパクトは非常に大きいと考えられます。

<出典>
Hiroaki Miura, Masaki Satoh, Tomoe Nasuno, Akira T. Noda, and Kazuyoshi Oouchi,
Science 14 December 2007 318:1763-1765 [DOI: 10.1126/science.1148443]