PALSARによる偏波観測

PALSARは、世界初のフルポラリメトリック観測機能を有した衛星搭載L-band合成開口レーダ(SAR)です。偏波とは、電波の性質を表す一つの指標であり、電界の振動方向の向きを表しています。図1(i)は、楕円偏波の軌跡の例を示しています。その他の偏波の例として図1(ii)に示すような水平・垂直直線偏波(H,V)、±45°回転直線偏波、左回り・右回り円偏波(L, R)が存在します。従来のSARでは単一の偏波で送受信を行うものが殆どでした。例えば、JERS-1 SARは、水平偏波(H)で送受信を行うため、HH(送信偏波・受信偏波)の単偏波データのみが取得可能でした。しかし、PALSARでは、HとVの偏波を切り替えて送受信を行えるため、HH, VV (ライク偏波), HV,VH(クロス偏波)の4つの偏波データが観測できます。また、SARでは、観測対象の散乱特性をもとに画像が作られるため、図1 (iii)が示すように偏波による散乱特性の変化も観測できます。

図1:偏波について

図1: 偏波について (クリックで拡大画像へ)



図2は、2006年8月19日にPALSARで観測された千歳から苫小牧付近のHH,HV,VV偏波の各画像と、その偏波データをもとにRGB合成した画像です。上部に千歳の耕作地、中心部に支笏湖と苫小牧の森林、下部に苫小牧市内と太平洋が写っています。個々の偏波画像では解りにくい偏波による散乱の違いが、RGB合成した画像では色の違いとして表れています。

図2:2006年8月19日にPALSARで観測された千歳から苫小牧付近のHH,HV,VV偏波の各画像と、その偏波データをもとにRGB合成した画像 図2:2006年8月19日にPALSARで観測された千歳から苫小牧付近のHH偏波画像 図2:2006年8月19日にPALSARで観測された千歳から苫小牧付近のHV偏波画像 図2:2006年8月19日にPALSARで観測された千歳から苫小牧付近のvv偏波画像 図2:2006年8月19日にPALSARで観測された千歳から苫小牧付近のHH,HV,VV偏波のデータをもとにRGB合成した画像

©METI, JAXA

図2: PALSARの偏波画像 (クリックで拡大画像へ)

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図3では、±45°直線偏波、左回り・右回り円偏波でのRGB合成画像を示しています。PALSARは、実際に±45°直線偏波、左回り・右回り円偏波で観測を行っていません。しかし、偏波解析技術によりこれらの画像を数値的に作ることができます。図2の水平・垂直直線偏波の画像と比較すると色の違いが表れており、偏波の組み合わせによっても観測対象の散乱特性の変化が確認できます。

図3:±45°直線偏波、左回り・右回り円偏波でのRGB合成画像 図3:±45°直線偏波でのRGB合成画像 図3:±45°左回り・右回り円偏波でのRGB合成画像

©METI, JAXA

図3: 異なった偏波での画像 (クリックで拡大画像へ)

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図4は、図3から耕作地、住宅地、森林の三つの領域を取り出したものです。三つの領域とも、偏波の組み合わせにより色の表れ方が変化しており、特に耕作地や森林では区画毎で変化を確認できます。例えば、水平・垂直直線偏波、±45°直線偏波、左回り・右回り円偏波でのクロス偏波の発生(緑色の領域)は、それぞれ体積散乱、2回散乱、表面散乱に関係します。よって、これらの情報を用いることにより樹種や農作物の種類の分類が容易に行える可能性があります。

図4:図3から取り出した耕作地、住宅地、森林の三つの領域 図3から取り出した耕作地の水平・垂直直線偏波画像 図3から取り出した耕作地の±45°直線偏波画像 図3から取り出した耕作地の左回り・右回り円偏波画像 図3から取り出した住宅地の水平・垂直直線偏波画像 図3から取り出した住宅地の±45°直線偏波画像 図3から取り出した住宅地の左回り・右回り円偏波画像 図3から取り出した森林の水平・垂直直線偏波画像 図3から取り出した森林の±45°直線偏波画像 図3から取り出した森林の左回り・右回り円偏波画像

©METI, JAXA

図4: 耕作地、住宅地、森林の偏波画像 (クリックで拡大画像へ)

このように、多偏波データ、偏波の組み合わせにより観測対象の散乱特性を単偏波データに比べてより多く取り出せます。この特徴は、PALSARデータを用いた様々な応用(海洋、植生、水文、都市環境、地質)に期待されています。

©JAXA EORC

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