図1は、平成18年8月11日、フィリピン中部ギマラス島沖で発生した、タンカー"ソーラー1"の沈没によって流出したオイルの漂流の様子を、だいちに搭載された合成開口レーダ、PALSARで捉えたものです。PALSARでは、8月25日に広域観測モード(観測幅350km、偏波HH、図1左))、8月27日にポラリメトリモード(観測幅30km、偏波 HH、HV、VH、VV、図1右))で観測が行われました。両画像共に、タンカーの沈没地点である赤い点を起点に、黒い筋として、流出したオイルがはっきりと確認できました(図中青枠)。青枠外に現れた黒い箇所のうち、8/27の画像内に現れた筋状の連続した模様は、周期的に筋状の構造が現れている事から、内部波*1であると考えられます。また、8/25の画像内の陸地付近に見られる暗い部分は、陸地の地形で風が遮られることで作られた、波の穏やかな部分であると考えられます。しかし、それ以外の暗い部分については、オイルであるのか、波の穏やかな部分であるかを、明確に判断することはできませんでした。
ポラリメトリの4偏波の画像(HH、HV、VH、VV偏波)と位相情報を使って、地表で起こる3つの散乱パターンに分けた画像が、図2左)です。赤が、地表と建物、木の幹、稲などで2回反射した成分を、緑が森林内の木の枝や幹で多重散乱した成分を、青が凹凸のある地表や海面で散乱した成分を表します。この画像では、森林が緑に、建物が多い地域や田んぼ等が赤で、地表や海面の波が立っている場所が青で示されます。海上でオイルが漂っている場所は、波が抑制されることで、表面の凹凸が小さくなり、結果として表面散乱成分が減少し、画像では暗く見えます。
図2中)と図2右)は、HH偏波とVV偏波で得られた強度画像で、海上に現れた模様はどちらも同じパターンを示しました。このことは、この2つの偏波は、同じ物理現象を捉えていることを示唆しています。次に、どちらの観測モードがよりはっきり海上の模様を捉えることができるかを定量的の捉えるために、海上部分の明るい場所(黄色四角)と暗い場所(水色四角)の強度比を比較ました。その結果、強度比はHH偏波で3.0、VV偏波で4.2となり、海上でのコントラストはVV偏波の方が強くなりました。このことから、LバンドSARで海上のオイルを捉える場合、VV偏波の方がより適していることが分かります。
図2: 左) 3成分分解画像、中) HH偏波画像、右) VV偏波画像 (クリックで拡大画像へ)
©METI, JAXA
図3は、LバンドSARで波を捉えた場合の、明るさ(後方散乱係数)の入射角依存性を示しており、Daley ら*2によって実際に測定された結果です (風速:5ノット、波高:3フィート、向かい風)。同じ入射角で比較した場合、VV偏波の方がHH偏波より明るくなっており、今回、フィリピン沖で得られた結果と同じ結果が得られています。また、入射角が大きい場合、VV偏波とHH偏波の電波強度は共に弱くなりますが、その差が大きくなります。これより、小さな入射角では、VV偏波とHH偏波の違いはそれほどありませんが、大きな入射角になるほど、VV偏波モードの方が相対的に、オイル検出により適したモードとなることが分かります。
図3: LバンドSARで波を捉えた場合の、明るさ(後方散乱係数)の、入射角依存性
*1:上下重なった密度の異なる2つの海水層の境目にできる波高10〜100mの波
*2:J.C. Daley, W.T. Davis, and N.E. Mills, "Radar Sea Return in High Sea States," Naval Research Laboratory Report 7142, September 25, 1970.
参考
» 2006年8月25日観測 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)で観測したフィリピンにおけるタンカー原油流出海域
©JAXA EORC