PALSAR (L-band SAR)による高解像度海上風観測

図1は2009年1月4日と1月11日に日本周辺域をALOS/PALSARのScanSARモードにより観測したデータから算出した海上風速分布を示しています。また、図2は、それぞれのPALSAR観測時に近い(2時間以内)、MetOp衛星に搭載された散乱計(ASCAT: Advanced Scatterometer)による海上風ベクトル*をPALSARの観測範囲と共に示しています。

図1:2009年1月4日と1月11日に日本周辺域をALOS/PALSARのScanSARモードにより観測したデータから算出した海上風速分布図

図1: (a)2009年1月4日 1:11 (UT)、(b)2009年1月11日 1:01観測のPALSAR ScanSARデータより算出した
海上風速分布。

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図2:図1それぞれのPALSAR観測時に近い(2時間以内)、MetOp衛星に搭載された散乱計(ASCAT: Advanced Scatterometer)による海上風ベクトルをPALSARの観測範囲と共に示しています。

図2 (a)2009年1月3日 23:47 (UT)、(b)2009年1月11日 0:42観測のMetOp/ASCATによる海上風分布。
黒枠は図1のPALSAR観測範囲を示す。

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マイクロ波の海上からの後方散乱強度は、波長、偏波の他に、入射角、海上風の風速、マイクロ波の方位角と風向のなす角(相対風向)と関係し、おおよそ、風速が大きくなるほど後方散乱が大きくなります。Ku-band(波長約2cm)やC-band(約6cm)では、海上風と後方散乱強度の経験的関係式(モデル関数)が開発され、散乱計や合成開口レーダ(SAR)により海上風算出に使用されています。一方、L-band(約23cm)に関しては広範囲の入射角に適用できるモデル関数はこれまで存在していませんでした。ALOS/PALSARの打ち上げ後、観測データの蓄積により海上風算出のための経験的関係式の算出が可能になり、L-band水平偏波のモデル関数の開発を行いました。図3に入射角30度と40度におけるモデル関数の3次元図を示します。入射角(風速)が大きくなるほど散乱強度は小さく(大きく)、また、向かい風(相対風向0度)・追い風(180度)に比べて、横風(90、270度)で後方散乱は小さくなります。開発したモデルの検証として、PALSARにより算出された海上風と海上ブイによる観測の比較図を図4に示します。220ケースの差のバイアスは0.69m/sで残差の標準偏差は1.87m/sとなりました。このように、L-bandのモデル関数の開発により、PALSARによりおおよそ2m/sの精度で海上風の算出が可能となりました。

散乱計では図3に示した後方散乱強度の風向依存性を利用して複数方向からの観測により風向を推定します。一方、SARは一方向のみの観測であるため、風向を別データから与えることで風速を推定します。図1の風速の算出にはNCEP/NCARの6時間間隔の海上風データから内挿により風向を与えました。

図3:入射角(青)30度、(赤)40度に対するL-bandモデル関数の3次元表示

図3: 入射角(青)30度、(赤)40度に対する
L-bandモデル関数の3次元表示

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図4:PALSARによりL-bandモデル関数を用いて算出された風速と海上ブイによる観測データとの散布図

図4: PALSARによりL-bandモデル関数を用いて算出された
風速と海上ブイによる観測データとの散布図

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図に示した2009年1月4日と11日はいずれも西高東低の冬型の季節配置で北日本には北西風が吹き付けていました。特に、11日は北海道東方沖に低気圧が存在し風が非常に強い状態でした(風速のスケールが異なることに注意)。図からは太平洋側に吹き抜ける海上風は、日本の複雑な地形の影響を大きく受けていることが分かります。大きくは北海道と本州の間、日高山脈の南から北上高地までの約200km幅におよぶ海上風ジェットが存在し、その南では、仙台平野の風下側で強風域が形成されています。2つの強風域に挟まれて北上高地の風下側では弱風域となっています。これらの海上風パターンは図2の散乱計データによっても確認可能です。一方、図1のPALSARによる海上風からはさらに細かい地形による海上風の影響を見ることができます。図1(a)では北海道と本州の間の大きな海上風ジェットは、噴火湾、津軽海峡、陸奥湾周辺の地形の影響を受けた多数のジェットから形成されていることが分かります。北上高地の風下側での弱風域では、詳細な地形の影響を受けたジェットが存在し、10km程度の幅の強風域が沖合200km以上に渡り形成されています。また、北上高地、阿武隈高地の間の仙台平野の風下側海域でもほぼ位置の固定された複数のジェットが形成されており、その固定された位置から、奥羽山脈の地形が影響していることが示唆されます。このようにSARは散乱計では観測が出来ない沿岸付近の詳細な風速分布を得ることが可能であり、沿岸気象の研究のみならず、洋上風力発電地の選定等に有効なデータとなっています。

* MetOp/ASCATデータはRoyal Netherlands Meteorological Institute (KNMI)より提供を受けました。

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